性剣セクシーソード

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二章

深淵を覗く時

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――ここは、何処だろう。
 前にもあった、こんな感覚。
 いや、無かった。こんな感覚じゃなかった。
 デジャブなんかない。
 僕は――死んだんだ。
 今度こそ――本当に死んだ。

 周囲に広がるのは、僅かな光すら見えない完全なる暗闇。
 僕は立っているのか、座っているのか。歩いているのか、浮いているのか。
 感覚と言う概念は消失している。
 ただ――怖い。
 この世界には何も無い。死後の世界は――限りない無。
 自我を喪失するまで、気が狂うまで、永遠に続く闇。
 ここは地獄だ。
 
 怖い。怖い。怖い。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 湧き上がる恐怖が、心の底を暴力的にかきまぜ、ドス黒い感情を掘りかえす。
――どうして僕が死ななきゃいけないんだ。
 たった一人の魔族と、見知らぬ姉妹の為に命を捨てる必要がどこにあった?
――どうして彼女達は助けに来てくれなかったんだ。
 そもそも止めてくれればよかったんだ。説得してくれればよかったんだ。
――アイツらは、僕を見殺しにしたんだ。
 憎い。憎い。憎い。ニクイニクイニクイニクイ――。

『憎いか?』
 声が聞こえた。低くて、唸るような声。
「憎い……」
『殺したいか?』
「殺したい……」 
『力が欲しいか?』 
「力……」
『そうだ。力だ。お前が憎むモノ、全てを破壊する力だ』 
「力……欲しい……力が欲しい! 僕をこんな目に合わせたアイツらを――全てを破壊する力が欲しい!」
『ならばその手を伸ばせ』

 光が差した。
 完全な暗闇。
 永遠の絶望。
 無限の恐怖が蔓延するこの地獄に――一筋の光が。
 そして、僕は手を伸ばした。

――やめろ! 
「誰……?」 
――手を伸ばすな!
「嫌だ……。僕は力が欲しいんだ! 憎いアイツらに思い知らせてやるんだ!」
――誰も恨んでない。
「違う! 憎いんだ! ずっと思っていた! 理不尽だって! 力が欲しいって! ずっと思っていたんだ!」
――その想いは、憎悪じゃない。
「うるさい! 何でもいいんだ! 力が欲しいんだ!」
――しっかりしろ! その光を、よく見るんだ!

 闇に浮かぶ一筋の光。そこには誰かがいた。
 人型で、頭に異形の大きな角。
 薄っすらと浮かび上がるソレは、まさに悪魔だ。
「悪魔だから何だって言うんだ……。力が手に入るなら、何だっていい」
――ちゃんと見ろ! 『何処』が光っているのかを!

 何処が光っているのか。
 そんなの気にしてなかった。
 手を伸ばせと言うんだから、力を授けるんだから、位置的に手だと思っていた。
 だけど、違った。光ってるのは手なんかじゃなかった。
 悪魔の――股間だった。

「え、いらないです……」
 すっと抜けた。気が抜けた。毒気が消えた。
 何を考えていたんだ僕は。誰も恨んでなんかいない。憎んでなんかいない。
『何……だと……?』
 悪魔が呟く。

 いや、悪魔なんかじゃない。
 ボンヤリとしているが、頭に大きな角がついているが。
 悪魔なんかじゃない。
 筋骨隆々で、背中にマントらしき物体を羽織った――。
――股間を光らせた変態だ。
 おぞましい存在である事は間違いなかったが。

『要らぬと言うか。求めぬと言うか。全てを支配し得る力を欲さぬと言うか?』
「ああ。要らない。全てを支配する力なんて、僕がもらってもしょうがない」
『手を伸ばさぬなら、お前は永久の闇を彷徨う事になるのだぞ』
「嫌だけど、しょうがないよ」
 考えるのも怖い。
 だけどこれは僕が選んだ道の終点。
 僕が望んだ行動の行き着いた結果だ。
 悔いは無い。

『詭弁だ。お前は恨んでいる。憎んでいる。さっきの言葉はお前の本心だ』
「確かに――そうかもしれない。いや、そうだ。確かに僕は恨んで、憎んだかもしれない。
そんな気持ちが少しでもある事を否定しない」
 僕は善人じゃない。
 醜悪な部分も、凶悪な部分も、当たり前にあるんだ。

「それでも僕は、誰も恨まないし、憎まない」
 光に手を伸ばす僕を制した声は――多分僕だ。
 あれが僕の本心だ。そう信じたい。そうで在りたい。
 僕は僕のまま――この物語を終わらせたい。

「それに、闇堕ちするにしても――股間は無い」
『何っ!?』
「いや、『何っ!?』じゃないでしょ! おかしいでしょ! 何でムキムキのおっさん――かは分からないけど多分おっさんだ! 変態のおっさんだ! 決して美少年じゃない! いや、たとえ美少年でも! 『股間』はないだろ!」

「どうしておっさんなの!? いや、おっさんでもいいよ! でも、どうして股間なの!? そこは手でいいでしょ!? 何で股間なの!? 何で光らせてるの!? 馬鹿なの!? 変態なの!? 変態だよ! 死ぬの!? いやもう死んでるよ!?」
『…………』
「カッコ悪すぎるでしょ! おっさんで変態の股間を握って『力が欲しい』ってありえないでしょ!? 闇堕ちかもしれないけど、堕ちる先が変わっちゃうよ!」
 セクシーソードとかセクシーアーマーとか、完全に色物ネタ装備を使ってた時点で格好なんかつかないけど、せめて最後くらいは締めたい。
 お尻はきっちりと締めていたい。

『……み、未練はないのか?』
「未練はない」
 あからさまに声の勢いを落とした変態に、きっぱりと言い放つ。
 だが、やはりただの変態ではなかった。
『童貞のまま死んで――本当に未練はないのか?』
 悪魔の囁き。
 僕が押し殺した未練を、無造作に引き上げた。
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