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二章
ミステリーの香り
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波に揺られる事五時間。
シードラに着いたのは、町に明かりが灯り始めた頃だった。
宿にディーナスを預け、ペロリン亭に向かう。
「今日は朝まで帰してもらえなそうね。モミも覚悟しなさいよ」
「そんな事言って。前回、早々に酔いつぶれたニーヤをおぶったのはケンセイさんですよ」
心なしか浮かれている二人の後ろを、ペロ様と歩く。
彼女は相変わらず無口で、無表情。
だからと言って無愛想なわけではなく。
例えるなら、可愛らしいお人形さん。
彼女は今何を想うのか。
決して戻る事はないと。二度と訪れる事はないと想っていた場所に戻った今。
嬉しくないわけはないだろう。
そんな事を想っていると突然、彼女が足を止めた。
感情をあまり表には出さない彼女が、何かを考えるように立ち止まった。
「ペロ様?」
「ペロ、どうかしたの?」
戸惑う僕達。そんな中、ペロ様が僕を見て言った。
「だっこ」
だっこ……?
両手をあげてる姿から察するに――『抱っこして』のサインだよな。
「あ、うん……」
何故抱っこ? そんな事を思いつつ、とりあえず彼女を持ち上げる。小さなお尻を片腕に乗せるような――抱っこだ。
「違う」
違ったらしい。体勢が気に入らないのか、身体をよじり、体勢を整える。
出来上がったのは、お姫様抱っこだ。
そして、彼女は全身の力を抜いた。
瞳を閉じ、手足を投げ出し、まるで死んでいるかのように。
「あの……ペロ様? 何をしているんですか?」
突然の奇行に、モミさんも戸惑いを隠せない。
「死んだふり」
その答えからは、僕達は奇行の理由を理解できなかったが、
「皆――驚く」
その言葉で察した。
「ぷっ。アハハハハ! ペロ、アンタそれ洒落にならないって」
「ペ、ペロ様……フフッ。さ。流石にっ……それは冗談が過ぎるかと……」
魔王と共に死ぬはずだったペロ様。
そんな彼女だからこそ出来る。身体を張った自虐的なドッキリ。
まさか彼女はそんなユーモラスな事を考えていたとは誰も思わず、僕達は涙が出るほどに笑った。
腕の中のペロ様は、何処か満足気だった。
そしてペロリン亭に着いた僕達だが――。
「……何で?」
店の扉は固く閉ざされ、明かりも灯っていない。
それどころか、
「看板も……ありませんね……」
窓から中を覗いてみると、店内はもぬけのから。
ペロリン亭は――なくなっていた。
「とりあえず、ちょっとそこらへんの人に聞いてみようか」
「あ、そういえば鍛冶屋にナタラのおじさんが居ましたよね」
ニーヤの提案に、モミさんが思い出したように答える。
「あーいたいた! じゃあそっち行ってみよう」
同じくテヘペロ村出身者が営んでいるという鍛冶屋に向かう――が。
「いない――よね……」
鍛冶屋に来てみたが、人の気配はない。
テヘペロ村にゆかりのある店が――人が消えた。
これはミステリーの匂いがする。
「あれ? あなた! もしかして、モミちゃんじゃない?」
そんな時、突然背後からかけられた声に振り返ってみると、中年のおばさんが立っていた。
「え、ええ。そうですけど……」
「やっぱりモミちゃんだったのね! いやぁこんなに綺麗になって! 子供の頃から可愛かったものねぇ」
どうやらモミさんの知り合いらしいが、当の本人は困惑気味。
「あの――失礼ですが、どちらさまでしょう?」
「ああ。ゴメンゴメン! 会ったのはもう十年も前に一度だからねぇ。モミちゃんは子供だったから、覚えてないのも当たり前よねぇ。あたし、あなたのお母さんと付き合いがあってね」
「母と――。そうですか」
一瞬、モミさんの表情が曇った。
「あ、もしかして……」
「ええ。村が襲われた時に……」
モミさんの母親は四ヶ月前、村が魔物に襲われた時に殺されていた。
その事実を知ったのは今が初めてだけど、何となく想像はついていた。
だから、今まで家族の話題は避けていたんだ。僕も、彼女達も。
「それは……悪かったね。モミちゃんが生きてるから、てっきり……さ」
「いえ、いいんです。えっと――お名前を伺ってもよろしいですか?」
「ああ。あたしはタルニだよ。大陸の西の方で暮らしてたんだけど、この町に住んでいた兄が最近突然死んじゃってね。あそこの宿なんだけど、知ってるかな?」
そう言って指差した建物に、モミさんが驚いた表情で頷き、胸に手を当てる。
「何度かお世話になった事があります。お兄さんだったんですね。どうか、神の安らぎを」
「ありがとね。ところで、モミちゃん達は何をしてたんだい?」
「ええ。久しぶりに戻って来たんですが、知り合いのお店が閉まっていまして――ペロリン亭と、この鍛冶屋さんなんですが、ご存知ありませんか?」
モミさんの言葉に、タルニさんの顔色が変わり、険しい表情で口を真一文字に結んだ――。
みたいな感じならますますミステリー然としてくるが、そんな事はなかった。
「ああ――皆テヘペロ村に帰ったみたいだよ」
話を聞くと、二ヶ月ほど前、村を復興するために皆戻ったらしい。
ミステリー要素の何一つない真実に、僕達は胸を撫で下ろす。
これも何かの縁――という事で、僕達はタルニさんの宿に泊まることにした。
夕食に海産物を食べまくったのは、言うまでもない。
シードラに着いたのは、町に明かりが灯り始めた頃だった。
宿にディーナスを預け、ペロリン亭に向かう。
「今日は朝まで帰してもらえなそうね。モミも覚悟しなさいよ」
「そんな事言って。前回、早々に酔いつぶれたニーヤをおぶったのはケンセイさんですよ」
心なしか浮かれている二人の後ろを、ペロ様と歩く。
彼女は相変わらず無口で、無表情。
だからと言って無愛想なわけではなく。
例えるなら、可愛らしいお人形さん。
彼女は今何を想うのか。
決して戻る事はないと。二度と訪れる事はないと想っていた場所に戻った今。
嬉しくないわけはないだろう。
そんな事を想っていると突然、彼女が足を止めた。
感情をあまり表には出さない彼女が、何かを考えるように立ち止まった。
「ペロ様?」
「ペロ、どうかしたの?」
戸惑う僕達。そんな中、ペロ様が僕を見て言った。
「だっこ」
だっこ……?
両手をあげてる姿から察するに――『抱っこして』のサインだよな。
「あ、うん……」
何故抱っこ? そんな事を思いつつ、とりあえず彼女を持ち上げる。小さなお尻を片腕に乗せるような――抱っこだ。
「違う」
違ったらしい。体勢が気に入らないのか、身体をよじり、体勢を整える。
出来上がったのは、お姫様抱っこだ。
そして、彼女は全身の力を抜いた。
瞳を閉じ、手足を投げ出し、まるで死んでいるかのように。
「あの……ペロ様? 何をしているんですか?」
突然の奇行に、モミさんも戸惑いを隠せない。
「死んだふり」
その答えからは、僕達は奇行の理由を理解できなかったが、
「皆――驚く」
その言葉で察した。
「ぷっ。アハハハハ! ペロ、アンタそれ洒落にならないって」
「ペ、ペロ様……フフッ。さ。流石にっ……それは冗談が過ぎるかと……」
魔王と共に死ぬはずだったペロ様。
そんな彼女だからこそ出来る。身体を張った自虐的なドッキリ。
まさか彼女はそんなユーモラスな事を考えていたとは誰も思わず、僕達は涙が出るほどに笑った。
腕の中のペロ様は、何処か満足気だった。
そしてペロリン亭に着いた僕達だが――。
「……何で?」
店の扉は固く閉ざされ、明かりも灯っていない。
それどころか、
「看板も……ありませんね……」
窓から中を覗いてみると、店内はもぬけのから。
ペロリン亭は――なくなっていた。
「とりあえず、ちょっとそこらへんの人に聞いてみようか」
「あ、そういえば鍛冶屋にナタラのおじさんが居ましたよね」
ニーヤの提案に、モミさんが思い出したように答える。
「あーいたいた! じゃあそっち行ってみよう」
同じくテヘペロ村出身者が営んでいるという鍛冶屋に向かう――が。
「いない――よね……」
鍛冶屋に来てみたが、人の気配はない。
テヘペロ村にゆかりのある店が――人が消えた。
これはミステリーの匂いがする。
「あれ? あなた! もしかして、モミちゃんじゃない?」
そんな時、突然背後からかけられた声に振り返ってみると、中年のおばさんが立っていた。
「え、ええ。そうですけど……」
「やっぱりモミちゃんだったのね! いやぁこんなに綺麗になって! 子供の頃から可愛かったものねぇ」
どうやらモミさんの知り合いらしいが、当の本人は困惑気味。
「あの――失礼ですが、どちらさまでしょう?」
「ああ。ゴメンゴメン! 会ったのはもう十年も前に一度だからねぇ。モミちゃんは子供だったから、覚えてないのも当たり前よねぇ。あたし、あなたのお母さんと付き合いがあってね」
「母と――。そうですか」
一瞬、モミさんの表情が曇った。
「あ、もしかして……」
「ええ。村が襲われた時に……」
モミさんの母親は四ヶ月前、村が魔物に襲われた時に殺されていた。
その事実を知ったのは今が初めてだけど、何となく想像はついていた。
だから、今まで家族の話題は避けていたんだ。僕も、彼女達も。
「それは……悪かったね。モミちゃんが生きてるから、てっきり……さ」
「いえ、いいんです。えっと――お名前を伺ってもよろしいですか?」
「ああ。あたしはタルニだよ。大陸の西の方で暮らしてたんだけど、この町に住んでいた兄が最近突然死んじゃってね。あそこの宿なんだけど、知ってるかな?」
そう言って指差した建物に、モミさんが驚いた表情で頷き、胸に手を当てる。
「何度かお世話になった事があります。お兄さんだったんですね。どうか、神の安らぎを」
「ありがとね。ところで、モミちゃん達は何をしてたんだい?」
「ええ。久しぶりに戻って来たんですが、知り合いのお店が閉まっていまして――ペロリン亭と、この鍛冶屋さんなんですが、ご存知ありませんか?」
モミさんの言葉に、タルニさんの顔色が変わり、険しい表情で口を真一文字に結んだ――。
みたいな感じならますますミステリー然としてくるが、そんな事はなかった。
「ああ――皆テヘペロ村に帰ったみたいだよ」
話を聞くと、二ヶ月ほど前、村を復興するために皆戻ったらしい。
ミステリー要素の何一つない真実に、僕達は胸を撫で下ろす。
これも何かの縁――という事で、僕達はタルニさんの宿に泊まることにした。
夕食に海産物を食べまくったのは、言うまでもない。
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