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二章
再会のあいさつは
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僕は一人、御者台に座っていた。
彼女達三人は中でお昼寝中。
ペロ様に変態行為を働いた罰――と言うわけだ。
罰とは言っても、手綱こそ握ってはいるが、別になにをする必要もない。
ディーナスが勝手に歩いてくれる。道に大きな穴があれば勝手によけるし、道幅の狭い場所で他の馬車とすれ違う際には止まって先に行かせたりもする。
モミさんが言うには、普通の馬ならこうもいかないらしく、やはりディーナスはおりこうさんなのだ。
それに、何より美しい。
引き締まった真っ白な体に、赤茶色の長いたてがみに尻尾。そして、尻尾を揺らした瞬間に覗くピンク色の――これは蛇足だった。
とりあえず、うん。全てにおいて、ディーナスは優秀なのだ。
そんなディーナスが、突然足を止めた。何があるわけでもない、道の真ん中。
「ん? どうしたディーナス?」
御者台から降り、ディーナスの様子を伺うが特に変わった様子はない。
ただ、長い前髪で半分隠れたその瞳は、道ではなく、森の方を向いていた。
「あっちに何かいるの?」
返事はない。ただの馬だ。
いくらお利口なディーナスでも言葉は喋れない。
「……ちょっと見に行ってみるか。いい子に待っていてくれよな」
戻って来たらいなくなってた――何て悲しい話は嫌だ。
子供の時、皆で鬼ごっこをしていたら、いつの間にか全員家に帰っていた時を思い出す。
……あんな思いは二度としたくない。
本当ならニーヤあたりを起こして着いて来てもらうのが無難だろうが、あんな事の後だから気がひける。
これが鬱蒼とした深い森なら二の足を踏むが、幸いにもそうではない。
十分に明るく、何だったら森林浴でも始めちゃってもいいくらいな場所だ。
だけど、一応何が出るか分からない。
セクシーソードに手をかけ、周囲に注意しながら森の中へと進んだ。
そこに居たのは、エプロン姿の女の子。
「あ」
噂をすれば何とやら――。
「あっ!?」
その子は、僕がずっと前、キスをした三人の内の一人だった。
「ケンっセイさぁああああん!」
「!?」
少女の動きは素早かった。
僕に気が付くと、まるで獲物を見つけた肉食動物のように飛び掛ってきた彼女に、そのまま押し倒される。
そしてそのまま、唇を突き出して、
「はい、ちゅー」
「何でそうなるっ!?」
突っ込みの勢いそのままに、彼女を軽く突き飛ばす。
「えー。つれないですねぇ。ここはただいまのチューをする場面ですよ?」
「いや、断じてそんな場面ではない」
僕の言葉に、彼女は悪戯に微笑む。歳は確か十六歳だったろうか。
カチューシャのような髪飾りをした、未だあどけなさの抜けない少女。
「元気そうでよかったよ。ってか、どうしてこんな所に?」
「ちょっと食材の調達です」
籠の中には、野草やきのこなどが詰っていた。
「こんな森の中に一人で? 危ないんじゃない?」
「そんな事ないですよー。宿からもそんなに離れてないし。ほら――」
彼女が指差した先には、もくもくと白い煙が上がっていた。宿の煙突から出ているんだろう。いつの間にか近くまで来ていたようだ。
「そっか。まだ宿に居たんだね。皆も一緒?」
「ううん、他の二人は違う町にいっちゃって、今残ってるのは私だけです」
そうなのか。まぁ、何にせよ良かった。
「今更で悪いんだけど、名前聞いていいかな? この前聞きそびれちゃったしさ」
「チェルです」
彼女はそう言うと、まだ発展途上の胸を押し付けるように腕を絡ませた。鎧だから感触はないのだが、それでもこの距離に心を動かされない男子はいないだろう。
「きっと戻ってくると思って、ずっと待ってたんですよ。あー行かなくてよかった。名前を知ってもらえたし」
心底嬉しそうなチェルの笑顔に、こんな妹がいたらいいなぁと思った。
まぁ、そんな都合のいい妹なんていないんだろうけど。
「ケンセイさん――」
彼女の表情が変わる。妹には有り得ない――色気。
僅かに赤らんだ頬。潤んだ瞳に、意識が奪われる。
「帰ってきたら――続きするって……覚えてますか……?」
「つ、続き……?」
求めてる! 彼女は何かを求めている!
「初めての責任――とってくださいよ――」
瞳をつぶり。その若くみずみずしい唇が揺れる。
そして、僕もゆっくりと目を閉じた。
「アンタねぇ……」
ため息混じりに聞こえた声に、背筋が凍る。
二度ある事は三度あると言うが、まだ二回目だ!
見逃してくれたっていいじゃないか!
仏さんも三度までは許してくれるんだよ!
振り返ると、ニーヤとモミさん。そしてペロ様まで立っていた。
「これはもうアレね。ちょっと強めに行かないとダメね」
明王のように微笑んで、短剣を取り出すニーヤ。
「そうですね。これもケンセイさんのためです」
菩薩のような微笑で、メイスを握り締めるモミさん。
「一思いに」
悟りを開いた如来のような無表情さで、蟷螂拳を構えるペロ様。
あ、終わった。三度終わった。
――今日は仏滅じゃなかろうか。
迫り来る彼女達は、仁王像のようだった。
彼女達三人は中でお昼寝中。
ペロ様に変態行為を働いた罰――と言うわけだ。
罰とは言っても、手綱こそ握ってはいるが、別になにをする必要もない。
ディーナスが勝手に歩いてくれる。道に大きな穴があれば勝手によけるし、道幅の狭い場所で他の馬車とすれ違う際には止まって先に行かせたりもする。
モミさんが言うには、普通の馬ならこうもいかないらしく、やはりディーナスはおりこうさんなのだ。
それに、何より美しい。
引き締まった真っ白な体に、赤茶色の長いたてがみに尻尾。そして、尻尾を揺らした瞬間に覗くピンク色の――これは蛇足だった。
とりあえず、うん。全てにおいて、ディーナスは優秀なのだ。
そんなディーナスが、突然足を止めた。何があるわけでもない、道の真ん中。
「ん? どうしたディーナス?」
御者台から降り、ディーナスの様子を伺うが特に変わった様子はない。
ただ、長い前髪で半分隠れたその瞳は、道ではなく、森の方を向いていた。
「あっちに何かいるの?」
返事はない。ただの馬だ。
いくらお利口なディーナスでも言葉は喋れない。
「……ちょっと見に行ってみるか。いい子に待っていてくれよな」
戻って来たらいなくなってた――何て悲しい話は嫌だ。
子供の時、皆で鬼ごっこをしていたら、いつの間にか全員家に帰っていた時を思い出す。
……あんな思いは二度としたくない。
本当ならニーヤあたりを起こして着いて来てもらうのが無難だろうが、あんな事の後だから気がひける。
これが鬱蒼とした深い森なら二の足を踏むが、幸いにもそうではない。
十分に明るく、何だったら森林浴でも始めちゃってもいいくらいな場所だ。
だけど、一応何が出るか分からない。
セクシーソードに手をかけ、周囲に注意しながら森の中へと進んだ。
そこに居たのは、エプロン姿の女の子。
「あ」
噂をすれば何とやら――。
「あっ!?」
その子は、僕がずっと前、キスをした三人の内の一人だった。
「ケンっセイさぁああああん!」
「!?」
少女の動きは素早かった。
僕に気が付くと、まるで獲物を見つけた肉食動物のように飛び掛ってきた彼女に、そのまま押し倒される。
そしてそのまま、唇を突き出して、
「はい、ちゅー」
「何でそうなるっ!?」
突っ込みの勢いそのままに、彼女を軽く突き飛ばす。
「えー。つれないですねぇ。ここはただいまのチューをする場面ですよ?」
「いや、断じてそんな場面ではない」
僕の言葉に、彼女は悪戯に微笑む。歳は確か十六歳だったろうか。
カチューシャのような髪飾りをした、未だあどけなさの抜けない少女。
「元気そうでよかったよ。ってか、どうしてこんな所に?」
「ちょっと食材の調達です」
籠の中には、野草やきのこなどが詰っていた。
「こんな森の中に一人で? 危ないんじゃない?」
「そんな事ないですよー。宿からもそんなに離れてないし。ほら――」
彼女が指差した先には、もくもくと白い煙が上がっていた。宿の煙突から出ているんだろう。いつの間にか近くまで来ていたようだ。
「そっか。まだ宿に居たんだね。皆も一緒?」
「ううん、他の二人は違う町にいっちゃって、今残ってるのは私だけです」
そうなのか。まぁ、何にせよ良かった。
「今更で悪いんだけど、名前聞いていいかな? この前聞きそびれちゃったしさ」
「チェルです」
彼女はそう言うと、まだ発展途上の胸を押し付けるように腕を絡ませた。鎧だから感触はないのだが、それでもこの距離に心を動かされない男子はいないだろう。
「きっと戻ってくると思って、ずっと待ってたんですよ。あー行かなくてよかった。名前を知ってもらえたし」
心底嬉しそうなチェルの笑顔に、こんな妹がいたらいいなぁと思った。
まぁ、そんな都合のいい妹なんていないんだろうけど。
「ケンセイさん――」
彼女の表情が変わる。妹には有り得ない――色気。
僅かに赤らんだ頬。潤んだ瞳に、意識が奪われる。
「帰ってきたら――続きするって……覚えてますか……?」
「つ、続き……?」
求めてる! 彼女は何かを求めている!
「初めての責任――とってくださいよ――」
瞳をつぶり。その若くみずみずしい唇が揺れる。
そして、僕もゆっくりと目を閉じた。
「アンタねぇ……」
ため息混じりに聞こえた声に、背筋が凍る。
二度ある事は三度あると言うが、まだ二回目だ!
見逃してくれたっていいじゃないか!
仏さんも三度までは許してくれるんだよ!
振り返ると、ニーヤとモミさん。そしてペロ様まで立っていた。
「これはもうアレね。ちょっと強めに行かないとダメね」
明王のように微笑んで、短剣を取り出すニーヤ。
「そうですね。これもケンセイさんのためです」
菩薩のような微笑で、メイスを握り締めるモミさん。
「一思いに」
悟りを開いた如来のような無表情さで、蟷螂拳を構えるペロ様。
あ、終わった。三度終わった。
――今日は仏滅じゃなかろうか。
迫り来る彼女達は、仁王像のようだった。
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