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二章
成長
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森を出た僕は、馬車に乗る事も許されずに歩いていた。
さらに肩の上にはペロ様がいる。これも罰らしい。
正直ニーヤの足払いからのモミさんメイス落しは死んだかと思った。
目の前の地面がえぐれる様子を見るのは二回目。
心臓が弱い人ならショック死もあっただろう。
「チェルちゃんお帰り――っておお! あなた方はあの時の!」
宿の扉を開けた瞬間、マスターが僕達に気づき駆け寄ってきた。
「お元気そうで。これはまた、随分といい男になられましたなぁ」
「そ、そんな事ありませんよ。部屋空いてますか?」
「是非泊まっていってください。生憎一部屋しかありませんが、お代は頂きません。夕食はまた、たっぷりご用意させてもらいますよ」
僕達は、頼もしく言い放ったマスターの好意に甘える事にした。
部屋に荷物を下ろし、ディーナスに餌をあげるため外へ。
桶に顔をつけ、水を飲む姿にすら気品を感じるディーナスを眺めつつ、草むらに寝転がる。
この場所は懐かしく――僕にとって、とても印象深い場所だ。
「そんなとこで寝てると、またさらわれるわよ」
ニーヤが小馬鹿にするように笑いながら、僕の隣に腰を下ろした。
「それでチェル達が救えたんだから、もう一回さらわれてみてもいいかな」
「小汚いおっさんだったら?」
「もちろん――見なかった振りをする」
「アンタ最低」と彼女は笑った。
こんな冗談を言えるくらいには、多分僕は成長したんだろう。
「あのさ。久しぶりに付き合ってくれない?」
僕の言葉の意味を察したニーヤが不適に微笑む。
「そうね。しょうがないから少しだけ付き合ってあげてもいいわ」
腰を起こし、近くに落ちていた手ごろな棒を投げ渡す。
「そろそろ一撃くらいもらってみたいわね」
「成長した僕を見せてやるよ」
日暮れ前。あの時と同じように、乾いた音が鳴り響いた。
這いつくばりながら「成長したのは変態度だけね」と去っていくニーヤの後姿を見たのは言わなくてもいいだろう。
全身に広がる疲労感が、とても心地良かった。
お風呂で汗を流したのち、夕食のために食堂へ。
たっぷりと用意された料理はどれも美味しく、普段はあまり飲まないお酒も進む。
「そういえば、目的の人には会えたんですか? ケンセイさんがワーワルツで初めて会った女の人」
「ああ、うん。会えたよ」
「会えたんですか! でも、素敵ですよねぇ。わざわざ旅をしてまで会いに来てくれるって、私憧れちゃうなぁ」
チェルが十代の乙女らしく、祈るように手を組んで目を輝かせる。
その後殺し合いになった事を考えるとロマンティックの欠片もないんだけど。
「ね。どんな人なんですか!?」
「どんな人って言われても――なぁ……」
実は魔王でした――なんて言えない。
「同性から見ても見蕩れるような美しい方でしたよ」
モミさんが助け舟を出す。というよりは、チェルに言い聞かせているような気もする。
「わ、若さなら負けないっ!」
「おっぱいもでかいしねぇ」
半分テーブルと同化したニーヤも混ざる。お前はおっさんか。
「お、おっぱい……」
チェルが自分の胸に手を当てる。残念だが、寄せても大きくなるわけじゃないぞ。
「妻だし」
「えっ!?」
ペロ様の一言に、チェルがフリーズした。
「つ、つつ、妻って!? 妻ってどういう事ですか!? ケンセイさんその人と結婚したんですか!?」
「してないしてない! 冗談だって!」
慌てて言い訳をすると、頬をリスのように膨らませたチェルが、持っていたグラスの中身を一気に飲み干し突然立ち上がる。
手に持ったグラスを高々と掲げ、宿中に響き渡る声で叫んだ。
「私はっ! ケンセイさんと結婚しまああああす!」
「ぶっ!?」
突然の結婚宣言に、僕達だけじゃなく他の客も目を見張る。
ただ一人、マスターだけがうんうんと頷いていた。
「初めてをあげたんだからっ、責任をとってくれてもいいとおもいま~す!」
続く唐突なカミングアウト。他の客も騒ぎ出し、視線のスポットライトを一身に感じる。
「だからケンセイさん! 私と――ふにゅう~」
腰を抜かしたように椅子に落ち、そのままテーブルにパタリと身体を倒した。
どうやら――酔いつぶれたらしい。
「あらら。チェルちゃんはお酒が弱いからなぁ」
マスターが苦笑いを浮かべる。
「ずっとケンセイさんの事を待っていたんですよ。他の子がいなくなっても、貴方は必ず帰ってくるから、ここで待ってるんだってね」
「そうですか……」
「部屋に運んでってあげたら? 邪魔だし」
ニーヤに促され、彼女を抱えて二階に上がる。
純粋に、チェルの気持ちはとても嬉しかったが、素直に喜べるわけでもなかった。
向けられる好意に心を動かされなくなったのも、成長なのだろうか。
答えなんて、出るわけがなかった。
さらに肩の上にはペロ様がいる。これも罰らしい。
正直ニーヤの足払いからのモミさんメイス落しは死んだかと思った。
目の前の地面がえぐれる様子を見るのは二回目。
心臓が弱い人ならショック死もあっただろう。
「チェルちゃんお帰り――っておお! あなた方はあの時の!」
宿の扉を開けた瞬間、マスターが僕達に気づき駆け寄ってきた。
「お元気そうで。これはまた、随分といい男になられましたなぁ」
「そ、そんな事ありませんよ。部屋空いてますか?」
「是非泊まっていってください。生憎一部屋しかありませんが、お代は頂きません。夕食はまた、たっぷりご用意させてもらいますよ」
僕達は、頼もしく言い放ったマスターの好意に甘える事にした。
部屋に荷物を下ろし、ディーナスに餌をあげるため外へ。
桶に顔をつけ、水を飲む姿にすら気品を感じるディーナスを眺めつつ、草むらに寝転がる。
この場所は懐かしく――僕にとって、とても印象深い場所だ。
「そんなとこで寝てると、またさらわれるわよ」
ニーヤが小馬鹿にするように笑いながら、僕の隣に腰を下ろした。
「それでチェル達が救えたんだから、もう一回さらわれてみてもいいかな」
「小汚いおっさんだったら?」
「もちろん――見なかった振りをする」
「アンタ最低」と彼女は笑った。
こんな冗談を言えるくらいには、多分僕は成長したんだろう。
「あのさ。久しぶりに付き合ってくれない?」
僕の言葉の意味を察したニーヤが不適に微笑む。
「そうね。しょうがないから少しだけ付き合ってあげてもいいわ」
腰を起こし、近くに落ちていた手ごろな棒を投げ渡す。
「そろそろ一撃くらいもらってみたいわね」
「成長した僕を見せてやるよ」
日暮れ前。あの時と同じように、乾いた音が鳴り響いた。
這いつくばりながら「成長したのは変態度だけね」と去っていくニーヤの後姿を見たのは言わなくてもいいだろう。
全身に広がる疲労感が、とても心地良かった。
お風呂で汗を流したのち、夕食のために食堂へ。
たっぷりと用意された料理はどれも美味しく、普段はあまり飲まないお酒も進む。
「そういえば、目的の人には会えたんですか? ケンセイさんがワーワルツで初めて会った女の人」
「ああ、うん。会えたよ」
「会えたんですか! でも、素敵ですよねぇ。わざわざ旅をしてまで会いに来てくれるって、私憧れちゃうなぁ」
チェルが十代の乙女らしく、祈るように手を組んで目を輝かせる。
その後殺し合いになった事を考えるとロマンティックの欠片もないんだけど。
「ね。どんな人なんですか!?」
「どんな人って言われても――なぁ……」
実は魔王でした――なんて言えない。
「同性から見ても見蕩れるような美しい方でしたよ」
モミさんが助け舟を出す。というよりは、チェルに言い聞かせているような気もする。
「わ、若さなら負けないっ!」
「おっぱいもでかいしねぇ」
半分テーブルと同化したニーヤも混ざる。お前はおっさんか。
「お、おっぱい……」
チェルが自分の胸に手を当てる。残念だが、寄せても大きくなるわけじゃないぞ。
「妻だし」
「えっ!?」
ペロ様の一言に、チェルがフリーズした。
「つ、つつ、妻って!? 妻ってどういう事ですか!? ケンセイさんその人と結婚したんですか!?」
「してないしてない! 冗談だって!」
慌てて言い訳をすると、頬をリスのように膨らませたチェルが、持っていたグラスの中身を一気に飲み干し突然立ち上がる。
手に持ったグラスを高々と掲げ、宿中に響き渡る声で叫んだ。
「私はっ! ケンセイさんと結婚しまああああす!」
「ぶっ!?」
突然の結婚宣言に、僕達だけじゃなく他の客も目を見張る。
ただ一人、マスターだけがうんうんと頷いていた。
「初めてをあげたんだからっ、責任をとってくれてもいいとおもいま~す!」
続く唐突なカミングアウト。他の客も騒ぎ出し、視線のスポットライトを一身に感じる。
「だからケンセイさん! 私と――ふにゅう~」
腰を抜かしたように椅子に落ち、そのままテーブルにパタリと身体を倒した。
どうやら――酔いつぶれたらしい。
「あらら。チェルちゃんはお酒が弱いからなぁ」
マスターが苦笑いを浮かべる。
「ずっとケンセイさんの事を待っていたんですよ。他の子がいなくなっても、貴方は必ず帰ってくるから、ここで待ってるんだってね」
「そうですか……」
「部屋に運んでってあげたら? 邪魔だし」
ニーヤに促され、彼女を抱えて二階に上がる。
純粋に、チェルの気持ちはとても嬉しかったが、素直に喜べるわけでもなかった。
向けられる好意に心を動かされなくなったのも、成長なのだろうか。
答えなんて、出るわけがなかった。
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