性剣セクシーソード

cure456

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二章

居場所

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 二階の角部屋。
 宿の一室ではあるが、ほのかに香る女の子の香りが、彼女の専用部屋である事を告げる。
 彼女をベッドに寝かせ、隣に腰を下ろした。
 何も変な事をしようとしているわけじゃない。単純に疲れたのだ。
 いくら軽い女の子だろうが、人一人抱えて階段を上がるのは中々疲れる。
 かといって、長居は無用。
 立ち上がり、部屋を出ようとした僕の手を――チェルが握った。
 お酒のせいだろうか。熱く、じわりと汗が滲んだその手は、部屋の暗さと相まって気持ちを高揚させる。

「ケンセイさん。私の事――嫌いですか?」
 薄明かりに光るチェルの潤んだ瞳は、少女のモノにしては少々妖艶すぎた。
「い、いや、嫌いじゃないよ……」

 これはマズイ。この状況は非常に危険だ。
 セクシーアーマーは腕輪状態。無防備《ノーガード》なのだ。
 僕のセクシーソードを遮るものは、容易に解除可能な衣類のみ。
 呪いが発動してしまったら、本当の初めてを奪ってしまいかねない。

「も、もう遅いからちゃんと寝たほういい――よっ!?」
 グイと手を引かれて、そのままベッドへ倒される。
 その隙に体勢を入れ替え、チェルはその小ぶりなお尻で僕の動きを完全に止めた。
 鮮やかに決められたマウントポジション。
 それを覆す術を僕は知っている。
 簡単な体術はニーヤに学んでいた。習得したかは別として、不利な体勢から脱出するくらいは出来る。
 だが、年下の、それも女の子の前では、僕はあまりにも無力だった。

「嫌いじゃないって――ずるい言葉ですね」
 窓から差し込む月明かりが、彼女の顔を照らす。
「ゴメン……」
 悲しげな表情に、責めるような視線。
 僕はただ、謝る事しかできない。
  
「お願いがあります。キスしてもらますか?」
 それは、彼女に僕が言った言葉。
 助かるためとは言え、大切な初めてを奪った僕の言葉だ。
 それを断れるはずなんて――ない。 

 重ねあった隙間から甘い吐息が漏れる。
 空いた時間を埋め尽くす様についばむ口唇は、彼女の気持ちの表れ。
 遠慮がちに絡ませるその舌も、聞こえる胸の鼓動も。  
 離れる瞬間、名残惜しそうな唾液の糸が光った。
  
「も、もうダメです! 赤ちゃん作りましょう!」
 顔を上気させたチェルの目が不気味に輝く。
「はぁっ!?」 
「だ、大丈夫です! 責任とって何て言いません! いや、とってもらうけど今はどうでもいいでしょう!? 家族を作りましょう!」
 早口でまくし立てる勢いに任せ、おもむろに上着を脱ぎ捨てる。

――形の整った二つの膨らみが露《あらわ》れた!
――相手はぷるぷるしている!

「ちょ、待って! 見えてる! 見えてる!」
「前も見たじゃないですか! それどころか触ったじゃないですかっ!」
 チェルはそう言いながらも、やはり恥ずかしかったのか、胸を隠すように僕に身体を重ねた。

――おっぱいの攻撃! 精神ダメージを受けた!
――相手はぷにぷにしている!
――呪いが発動した!

 ひとりでに動く両腕は、彼女の身体を抱きしめようとその距離を縮めている。 
「もう、一人は嫌なんです……」
 今までになく、悲しげに呟いた。

 指先で感じる、背中に刻まれた不幸の証。
 ドラーシュの烙印。 
 彼女は両親を殺され、ドラーシュとしてさらわれた。
 家族を作りたいと言った言葉は、紛れもない彼女の本心かもしれない。  
 奪われた居場所を、自分の居場所を、彼女は探している。
 他の二人のように、何処かに行く事は出来たはず。
 それなのに、戻るかも分からない僕を待っていたんだ。
 痛々しい背中の傷は、決して消えることはない。
 彼女の傷を、僕は癒してあげる事が出来るんだろうか。

「ごめん……なさい……」
 彼女が呟いた。
「こんなの……ずるいですよね」
「いや……そんな事ないよ」
「そんなに泣かれたら――出来ませんよ」 
 彼女に言われて、自分の頬が濡れている事に気づく。
「それに、さっきまですっごい元気だったのに、今は全然――」
 チェルが悪戯に、押し付けるように腰を動かす。
 さっきまでは痛いほどやる気に満ちていたセクシーソードが今はその面影もない。
 顔を見合わせ、二人で苦笑した。

「寝るまで、隣にいてもらってもいいですか?」
 上着を着たチェルのお願いを断るわけもなく、僕は快く頷いた。
「その気になったら襲ってくれてもいいんですよ?」
 そんな事を言いつつも、彼女が寝付くまでに時間はかからなかった。
 安らかな寝顔を眺めながら、いつかきっと、彼女が自分の居場所を見つける事を願った。

 彼女の部屋を出て――目が合った。  
「あっ……」と声を漏らしたのは、肩にペロ様を乗せたモミさんだ。
 その下には、潰れたニーヤが寝息を立てている。
 ブレーメンの音楽隊ごっこをしてるわけではないだろう。
「も、もうニーヤったら。こんなとこで寝たらいけませんよ!」
「前にも――こんな事がありましたよね?」
「な、なんの事ですか!? 私はただ、ニーヤを起こしに来ただけですよ!?」
 目を泳がせるモミさん。
 ペロ様に聞けば一発で分かってしまう話なのだが、あえて追求はしない。
 転がってるニーヤを抱きかかえ、そのまま部屋に戻った。

 僕の居場所は――何処にあるんだろうか。
 眠りにつくまで、そんな事を考えていた。
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