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二章
間一髪
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「こっのおおおおおっ!」
聞こえた叫び声と共に、ザフズの顔が歪んだ。
その顔にめり込んだのは、革のブーツ。
吹き飛んだザフズの代わりに、彼女はそこに立っていた。
後頭部で纏められた真っ赤な髪の毛。
小ぶりなお尻を包んだホットパンツのような服の上には、赤い染色が剥がれ落ちたヒップバック。 ベルト部分には、幾本もの短剣が光り輝いている。
「に、ニーヤ……」
彼女は、そこにいた。
「颯爽と出て行った割には酷い格好ね」
赤い瞳を、僕に向けた。
風をも叩き潰すような轟音に、金色の髪の毛と、たわわに膨らんだ胸が揺れる。
大の男でも持て余すような鋼鉄のメイスを、新体操のクラブのように軽々と、鮮やかに振り回す。
「ぐっ」
「がはっ」
「ぐえっ」
そんな短い呻き声と共に、身体がふっと軽くなった。
「モミさん!」
「お怪我はありませんか――ってお怪我だらけですね」
眩しすぎる微笑で、僕の身体に手をかざす。
温かな光が、身体の痛みを和らげていく。
「ど、どうして……?」
「話は後よ」
腰から短剣を抜き、両手に構える。一点を見つめたその視線の先は、ザフズ。
「本気で打ち込んだつもりなんだけど――やっぱ簡単にはいかないわよね」
ニーヤの表情に焦燥が影を落とす。
「ふふ。ふふふ。これはこれは。歓迎しますよ。観客が多い方、劇は盛り上がるというもの」
頬に手を当てながらも、不適に微笑んでいる。
「いや、観客にしておくのは勿体無い。演者として、舞台に上がってもらいましょう」
怪しく光るその瞳は、まるで獲物を見つけた獣。
「早く……逃げろ」
アミルが口を開いた。
「貴様等が敵う相手ではない。今すぐ……逃げろ」
「あら。心配してくれるわけ? 意外と優しいのね」
「戯言を。貴様の見苦しい姿をケンセイに見せたくないだけだ。貴様も、惚れた男の前で陵辱されたくはないだろう?」
アミルの言葉に、ニーヤが一瞬息を飲んだ。
その瞳に薄っすらと浮かんだ恐怖は、インキュバスの恐ろしさを知っているからだろう。
だが、彼女は笑った。
「はっ。そんな姿見せるわけ無いじゃない。もしそうなったら――」
その瞳には、もう不安の色は無い。
「――舌を噛み切って死んでやるわ」
覚悟を決めて、彼女は笑った。
「ふっ。勝手にしろ。だが、アイツの目は見るな」
「いけ好かない奴に合わせる目は元からないわ。でも――」
――ありがとね。
そう言って、彼女は走った。
「目を見るな――か。簡単に言ってくれるわね」
ニーヤは一人ごちた。
戦闘と言うのは、力のぶつかり合いじゃない。
腹の探りあいだ。
相手が何を考え、どう動くか。それを予想して守り、そして攻める。
勝敗を決めるのは腕力などではない。知力なのだ。
岩のような大男の攻撃も、五秒後に殴ると宣言されれば、例え相手が鼻を垂らした子供でも避けるのは容易い。五秒以内に走って逃げる事はおろか、脛を蹴飛ばす余裕さえあるだろう。
だが、いちいち攻撃するのに宣言する者などいない。
だから読むのだ。
相手の動きを、目線から。
目は口ほどに物を言う。その目線を追えば、相手が何処を狙っているかが分かる。
それを封じられるという事は、目隠しで戦うに等しい。
ならば――。
「攻めるだけっ!」
相手に攻撃する間も与えないほど、攻撃を叩き込む。
足を振り上げ、手を伸ばし。
かざされた手から放たれる魔力の衝撃波に身を翻し、背後に回ってもその手を止めず。
もっと速く。もっと鋭く。
靭帯がはちきれ、心臓が悲鳴を上げる程速く!
そして、捕える。
短剣が深々と、絶対的急所に突き刺さった。
「素晴らしいよ。とても力強く、美しい円舞曲だ」
短剣は深く、胸の中心を正確に捉えている。
完全に仕留めたはずだった。
その驚きが、ニーヤの顔を上げさせた。
目が――合った。
「くっ!」
背後に跳んで距離を離す。だが、それが最後。
自分の意思で行った、最後の行動だった。
胸が熱い。身体が熱い。身体の芯が――熱い。
何かが蠢く。何かが疼く。立っているのも、もうままならぬ程。
「ニーヤ!」
彼の声が聞こえた。愛しい彼の、大好きな声。
でも、視線は動かない。
見えるのは、目の前にいる魔族。
その姿は、心よりももっと下。身体の奥の奥を刺激する。
舌を噛み切って死ぬ?
甘かった。甘すぎた。
噛み切るどころか、口を開け、だらしなくソレを垂らしている。
近づいてくる男自身を待ち構えるように、唾液を垂れ流しながら。
死にたい。死にたい。
殺して。殺して。
こんな姿を見られるくらいなら――神様!
聞こえた叫び声と共に、ザフズの顔が歪んだ。
その顔にめり込んだのは、革のブーツ。
吹き飛んだザフズの代わりに、彼女はそこに立っていた。
後頭部で纏められた真っ赤な髪の毛。
小ぶりなお尻を包んだホットパンツのような服の上には、赤い染色が剥がれ落ちたヒップバック。 ベルト部分には、幾本もの短剣が光り輝いている。
「に、ニーヤ……」
彼女は、そこにいた。
「颯爽と出て行った割には酷い格好ね」
赤い瞳を、僕に向けた。
風をも叩き潰すような轟音に、金色の髪の毛と、たわわに膨らんだ胸が揺れる。
大の男でも持て余すような鋼鉄のメイスを、新体操のクラブのように軽々と、鮮やかに振り回す。
「ぐっ」
「がはっ」
「ぐえっ」
そんな短い呻き声と共に、身体がふっと軽くなった。
「モミさん!」
「お怪我はありませんか――ってお怪我だらけですね」
眩しすぎる微笑で、僕の身体に手をかざす。
温かな光が、身体の痛みを和らげていく。
「ど、どうして……?」
「話は後よ」
腰から短剣を抜き、両手に構える。一点を見つめたその視線の先は、ザフズ。
「本気で打ち込んだつもりなんだけど――やっぱ簡単にはいかないわよね」
ニーヤの表情に焦燥が影を落とす。
「ふふ。ふふふ。これはこれは。歓迎しますよ。観客が多い方、劇は盛り上がるというもの」
頬に手を当てながらも、不適に微笑んでいる。
「いや、観客にしておくのは勿体無い。演者として、舞台に上がってもらいましょう」
怪しく光るその瞳は、まるで獲物を見つけた獣。
「早く……逃げろ」
アミルが口を開いた。
「貴様等が敵う相手ではない。今すぐ……逃げろ」
「あら。心配してくれるわけ? 意外と優しいのね」
「戯言を。貴様の見苦しい姿をケンセイに見せたくないだけだ。貴様も、惚れた男の前で陵辱されたくはないだろう?」
アミルの言葉に、ニーヤが一瞬息を飲んだ。
その瞳に薄っすらと浮かんだ恐怖は、インキュバスの恐ろしさを知っているからだろう。
だが、彼女は笑った。
「はっ。そんな姿見せるわけ無いじゃない。もしそうなったら――」
その瞳には、もう不安の色は無い。
「――舌を噛み切って死んでやるわ」
覚悟を決めて、彼女は笑った。
「ふっ。勝手にしろ。だが、アイツの目は見るな」
「いけ好かない奴に合わせる目は元からないわ。でも――」
――ありがとね。
そう言って、彼女は走った。
「目を見るな――か。簡単に言ってくれるわね」
ニーヤは一人ごちた。
戦闘と言うのは、力のぶつかり合いじゃない。
腹の探りあいだ。
相手が何を考え、どう動くか。それを予想して守り、そして攻める。
勝敗を決めるのは腕力などではない。知力なのだ。
岩のような大男の攻撃も、五秒後に殴ると宣言されれば、例え相手が鼻を垂らした子供でも避けるのは容易い。五秒以内に走って逃げる事はおろか、脛を蹴飛ばす余裕さえあるだろう。
だが、いちいち攻撃するのに宣言する者などいない。
だから読むのだ。
相手の動きを、目線から。
目は口ほどに物を言う。その目線を追えば、相手が何処を狙っているかが分かる。
それを封じられるという事は、目隠しで戦うに等しい。
ならば――。
「攻めるだけっ!」
相手に攻撃する間も与えないほど、攻撃を叩き込む。
足を振り上げ、手を伸ばし。
かざされた手から放たれる魔力の衝撃波に身を翻し、背後に回ってもその手を止めず。
もっと速く。もっと鋭く。
靭帯がはちきれ、心臓が悲鳴を上げる程速く!
そして、捕える。
短剣が深々と、絶対的急所に突き刺さった。
「素晴らしいよ。とても力強く、美しい円舞曲だ」
短剣は深く、胸の中心を正確に捉えている。
完全に仕留めたはずだった。
その驚きが、ニーヤの顔を上げさせた。
目が――合った。
「くっ!」
背後に跳んで距離を離す。だが、それが最後。
自分の意思で行った、最後の行動だった。
胸が熱い。身体が熱い。身体の芯が――熱い。
何かが蠢く。何かが疼く。立っているのも、もうままならぬ程。
「ニーヤ!」
彼の声が聞こえた。愛しい彼の、大好きな声。
でも、視線は動かない。
見えるのは、目の前にいる魔族。
その姿は、心よりももっと下。身体の奥の奥を刺激する。
舌を噛み切って死ぬ?
甘かった。甘すぎた。
噛み切るどころか、口を開け、だらしなくソレを垂らしている。
近づいてくる男自身を待ち構えるように、唾液を垂れ流しながら。
死にたい。死にたい。
殺して。殺して。
こんな姿を見られるくらいなら――神様!
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