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三章~魔界冒険譚~
不安
しおりを挟むその晩、僕は庭園に居た。
魔界――ここガジガラには、陽の光は当たらない。
空に浮かんでいるのは、真っ赤な月だけだ。
月の明るさで昼夜の判別は可能だが、基本的に薄暗いから、僕達人間にしてみればずっと夜のようなものだ。
だから、時間の感覚がわからなくなる。
それに三日間寝ていたってのもあるんだろう。
寝るタイミングが分からなくなった僕は、一人夜の散歩としけこんでいるのだ。
たまに遠くで謎の呻き声が聞こえたりするが多分大丈夫だろう。
なんていったって魔王の城だし。……多分。
「眠れぬのか」
「ひっ!?」
突然声をかけられて、心臓が飛び上がった。声の主はアミル。
僕は何事も無かったかのように、平常を装う事を忘れない。
「う、うん。ずっと寝てたからね。アミルも?」
「余はあまり眠らぬ」
「そっか」
隣に並んだアミルと二人、空を眺める。
浮かぶ赤い月は、えぐられたような三日月だった。
「何か――悩んでいるのか?」
顔には出していないつもりだったんだけど。
アミルが鋭いのか、僕が分かり易いのか。
「何でもないよ」と、とぼける事は出来そうに無い。
でも話すなら、やっぱりアミルになのかもしれない。
「色々――考えちゃうんだよ」
左腕に付けられた銀色の腕輪を、月に透かす。
「皆が僕の傍に居てくれるのは、コレのおかげなんだろうなって」
女性の精、フェロモンを魔力として蓄える、セクシーアーマー。
蓄えたフェロモンを刀身に変えるセクシーソード。
淫魔の力を参考に、魔王であるアミルが創り上げた魔装具。
だが、この魔装具に秘められた能力はそれだけじゃない。
女性の心までも――奪ってしまう。
女性の身も心も支配する、インキュバスの『魅力』と同じだ。
勿論、そこまで強力なモノじゃない。
精々、好意を抱かれるだけ。
でも、無条件の好意は――怖い。
いつか本当に全てを奪ってしまいそうで、怖い。
全てを失ってしまいそうで――怖い。
ハーレムチートの主人公なんて、現実に存在するわけがない。
次々と登場するヒロイン達に無条件の好意を抱かれて、アプローチされながらも気づかない。
そんな馬鹿な男が何処にいる?
そんな都合の良い話は何処にある?
全ての事象には理由が存在する。
向けられる好意にも、理由があってしかるべきなのだ。
それが僕自身の魅力ではなく、魔装具の魅力だと知ってしまった。
その事実がどれ程恐ろしいか。
「え? 何か言ったか?」と「やれやれ」が口癖の、そんな仮想人物には分からないだろう。
「そうか。やはり、ソレが原因か」
「あ、誤解しないでほしいんだ。これをくれた事には、本当に感謝してるんだよ」
僕を守り、力をくれた。
沢山の人に出会って、色んな経験をした。
この魔装具がなければ、今の僕は無い。
「僕が――弱すぎるんだ」
身体は勿論。心も弱い。
捨て去る勇気も、開き直る図太さもない。
なあなあで中途半端で、責任を全てコレに押し付けて。
そんな自分に嫌悪して、勝手にナーバスになって。
「――ならば、ここにずっと居ればいい」
真っ直ぐな瞳で、アミルが言った。
「お前はどこにも行かないし、余もどこにも行かぬ。誰も介せず、二人だけでいればいい。それに余は強い。この世の誰よりもだ。だからお前が弱かろうと、何を心配する事もない」
率直で、単純な言葉だった。
だけど、今の僕には、どんな言葉も届かない。
「それは――本心なのかな」
「何だと? 余が冗談を言っているように見えるか?」
アミルの言葉に若干の怒りが混ざった。それでも、僕の言葉は止まらない。
「アミルは、僕を愛しているの?」
こんな台詞を赤面せず、さらりと言える日が来るとは。
だがこの台詞は――最悪だ。
「――ゴメン。明日は早いから、もう寝るよ」
一瞬だけ、戸惑いの色が浮かんだアミルの言葉を、僕は聞きたくなかった。
僕は弱くて――最低だ。
逃げるように、その場を離れた。
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