性剣セクシーソード

cure456

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三章~魔界冒険譚~

不安

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 その晩、僕は庭園に居た。

 魔界――ここガジガラには、陽の光は当たらない。
 空に浮かんでいるのは、真っ赤な月だけだ。

 月の明るさで昼夜の判別は可能だが、基本的に薄暗いから、僕達人間にしてみればずっと夜のようなものだ。
 だから、時間の感覚がわからなくなる。

 それに三日間寝ていたってのもあるんだろう。
 寝るタイミングが分からなくなった僕は、一人夜の散歩としけこんでいるのだ。

 たまに遠くで謎の呻き声が聞こえたりするが多分大丈夫だろう。
 なんていったって魔王の城だし。……多分。


「眠れぬのか」

「ひっ!?」

 突然声をかけられて、心臓が飛び上がった。声の主はアミル。
 僕は何事も無かったかのように、平常を装う事を忘れない。

「う、うん。ずっと寝てたからね。アミルも?」

「余はあまり眠らぬ」

「そっか」

 隣に並んだアミルと二人、空を眺める。
 浮かぶ赤い月は、えぐられたような三日月だった。


「何か――悩んでいるのか?」

 顔には出していないつもりだったんだけど。
 アミルが鋭いのか、僕が分かり易いのか。

「何でもないよ」と、とぼける事は出来そうに無い。
 でも話すなら、やっぱりアミルになのかもしれない。

「色々――考えちゃうんだよ」

 左腕に付けられた銀色の腕輪を、月に透かす。

「皆が僕の傍に居てくれるのは、コレのおかげなんだろうなって」

 女性の精、フェロモンを魔力として蓄える、セクシーアーマー。
 蓄えたフェロモンを刀身に変えるセクシーソード。

 淫魔の力を参考に、魔王であるアミルが創り上げた魔装具。
 だが、この魔装具に秘められた能力はそれだけじゃない。
 
 女性の心までも――奪ってしまう。

 女性の身も心も支配する、インキュバスの『魅力』と同じだ。
 勿論、そこまで強力なモノじゃない。
 精々、好意を抱かれるだけ。

 でも、無条件の好意は――怖い。
 いつか本当に全てを奪ってしまいそうで、怖い。
 全てを失ってしまいそうで――怖い。


 ハーレムチートの主人公なんて、現実に存在するわけがない。
 次々と登場するヒロイン達に無条件の好意を抱かれて、アプローチされながらも気づかない。
 そんな馬鹿な男が何処にいる?
 そんな都合の良い話は何処にある?

 全ての事象には理由が存在する。
 向けられる好意にも、理由があってしかるべきなのだ。

 それが僕自身の魅力ではなく、魔装具の魅力だと知ってしまった。
 その事実がどれ程恐ろしいか。
「え? 何か言ったか?」と「やれやれ」が口癖の、そんな仮想人物には分からないだろう。
 


「そうか。やはり、ソレが原因か」

「あ、誤解しないでほしいんだ。これをくれた事には、本当に感謝してるんだよ」

 僕を守り、力をくれた。
 沢山の人に出会って、色んな経験をした。
 この魔装具がなければ、今の僕は無い。

「僕が――弱すぎるんだ」

 身体は勿論。心も弱い。
 捨て去る勇気も、開き直る図太さもない。

 なあなあで中途半端で、責任を全てコレに押し付けて。
 そんな自分に嫌悪して、勝手にナーバスになって。


「――ならば、ここにずっと居ればいい」

 真っ直ぐな瞳で、アミルが言った。

「お前はどこにも行かないし、余もどこにも行かぬ。誰も介せず、二人だけでいればいい。それに余は強い。この世の誰よりもだ。だからお前が弱かろうと、何を心配する事もない」

 率直で、単純な言葉だった。
 だけど、今の僕には、どんな言葉も届かない。

「それは――本心なのかな」

「何だと? 余が冗談を言っているように見えるか?」

 アミルの言葉に若干の怒りが混ざった。それでも、僕の言葉は止まらない。

「アミルは、僕を愛しているの?」

 こんな台詞を赤面せず、さらりと言える日が来るとは。
 だがこの台詞は――最悪だ。


「――ゴメン。明日は早いから、もう寝るよ」

 一瞬だけ、戸惑いの色が浮かんだアミルの言葉を、僕は聞きたくなかった。

 僕は弱くて――最低だ。
 逃げるように、その場を離れた。
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