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三章~魔界冒険譚~
決断
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次の日、帰り支度を済ませた僕達は食堂にいた。
「ほぉのご馳走ともほ別れっふれぇ。ふぉっとはん念っふ」
両頬に食べ物をパンパンにつめたディーナスは、もう何を言っているのか分からない。
「ちょっと、アンタもう少しゆっくり食べなさいよ」
「あっちはこれから八人も乗せた馬車をひっぱらなきゃいけないんすよ!? 今どれだけ詰め込めるかが勝負っす! 全く、馬使いが荒いにも程があるっす!」
「ナギ、もう少しゆっくりしていってもいいんじゃないかい?」
「いえ、姉さん。お店もありますからね。今度、遊びに来て下さいよ」
思い思いに談笑しながらの、最後の食事。
そんな中、アミルだけは静かだった。
物思いに耽るように、静かだった。
「あー。食べた食べた。魔王、色々とお世話になったわ」
「そうですね。手厚いおもてなし、感謝しています」
「何、礼には及ばぬ。貴様等には面倒をかけたからな。だが――」
グラスを飲み干したアミルと、目が合った。
「――ケンセイは置いていけ」
一波乱ありそうな予感がした。
「置いていけって、ちょっと魔王、どういう事よ?」
「どうも何も、言葉の通りだ。貴様等は勝手に帰ればよかろう」
「ま、魔王さん。理由を聞かせてもらえますか?」
「理由? 妻が夫を求めるのに理由が必要か?」
有無を言わせぬ物言いと、その鋭い眼光に、返す言葉は上がらない。
「初めて会ってからもう半年。あまり待たされるのには感心せぬ。貴様等も、もう十分一緒におったであろう?」
「そ、そんなの、アンタが決める事じゃないでしょ……」
「そ、そうですよ。行くか残るかは、ケンセイさんの問題です……」
全員の視線が、一斉に刺さる。
何だこの状況。この二者択一。
どうしてこうなった。どうしてこうなった。
「どうするケンセイ?」
「ちょっとどうすんのよアンタ?」
「ケンセイさん、どうするんですか?」
「どう――する?」
僕は――。
◇
「本当に、あれで良かったのか?」
「うん。多分、これで良かったんだと思う」
庭園から眺める赤い月は、その輝きを弱めている。
「けしかけておいてアレだが、言葉が足り無すぎだとは思うぞ。あれではまるで――」
「うん。それで良いと思う」
残ると決めた僕は、彼女達にその理由を告げてはいなかった。
嘘はバレてしまうし、正直に言えば彼女達を傷つけると思ったから。
「――昨日の話だがな」
僅かな沈黙の後、アミルが口を開いた。
月を眺めたまま、月に語りかけるように。
「余は、お前の事を愛しているとは言えぬ」
「……うん」
「この好意も、その魔装具の力などではないと言い切れん。不甲斐ない話だがな」
「……うん」
「だが。お前に魔装具を渡したのは、間違いではないと思っている」
正直、少しだけ嫉妬した。
さらりと百点満点の答えをくれる彼女に。
初めて会った時からそうだった。
彼女の格好良さに、僕は憧れたんだ。
「まぁ、精々精進する事だな。人間の時間は短い」
意味深な言葉を残し、歩き出す。
「余に勝って、抱くのだろう? 我が夫よ」
振り返り挑戦的に微笑む、彼女は何よりも美しい。
背中を眺めながら、そう思った。
「ほぉのご馳走ともほ別れっふれぇ。ふぉっとはん念っふ」
両頬に食べ物をパンパンにつめたディーナスは、もう何を言っているのか分からない。
「ちょっと、アンタもう少しゆっくり食べなさいよ」
「あっちはこれから八人も乗せた馬車をひっぱらなきゃいけないんすよ!? 今どれだけ詰め込めるかが勝負っす! 全く、馬使いが荒いにも程があるっす!」
「ナギ、もう少しゆっくりしていってもいいんじゃないかい?」
「いえ、姉さん。お店もありますからね。今度、遊びに来て下さいよ」
思い思いに談笑しながらの、最後の食事。
そんな中、アミルだけは静かだった。
物思いに耽るように、静かだった。
「あー。食べた食べた。魔王、色々とお世話になったわ」
「そうですね。手厚いおもてなし、感謝しています」
「何、礼には及ばぬ。貴様等には面倒をかけたからな。だが――」
グラスを飲み干したアミルと、目が合った。
「――ケンセイは置いていけ」
一波乱ありそうな予感がした。
「置いていけって、ちょっと魔王、どういう事よ?」
「どうも何も、言葉の通りだ。貴様等は勝手に帰ればよかろう」
「ま、魔王さん。理由を聞かせてもらえますか?」
「理由? 妻が夫を求めるのに理由が必要か?」
有無を言わせぬ物言いと、その鋭い眼光に、返す言葉は上がらない。
「初めて会ってからもう半年。あまり待たされるのには感心せぬ。貴様等も、もう十分一緒におったであろう?」
「そ、そんなの、アンタが決める事じゃないでしょ……」
「そ、そうですよ。行くか残るかは、ケンセイさんの問題です……」
全員の視線が、一斉に刺さる。
何だこの状況。この二者択一。
どうしてこうなった。どうしてこうなった。
「どうするケンセイ?」
「ちょっとどうすんのよアンタ?」
「ケンセイさん、どうするんですか?」
「どう――する?」
僕は――。
◇
「本当に、あれで良かったのか?」
「うん。多分、これで良かったんだと思う」
庭園から眺める赤い月は、その輝きを弱めている。
「けしかけておいてアレだが、言葉が足り無すぎだとは思うぞ。あれではまるで――」
「うん。それで良いと思う」
残ると決めた僕は、彼女達にその理由を告げてはいなかった。
嘘はバレてしまうし、正直に言えば彼女達を傷つけると思ったから。
「――昨日の話だがな」
僅かな沈黙の後、アミルが口を開いた。
月を眺めたまま、月に語りかけるように。
「余は、お前の事を愛しているとは言えぬ」
「……うん」
「この好意も、その魔装具の力などではないと言い切れん。不甲斐ない話だがな」
「……うん」
「だが。お前に魔装具を渡したのは、間違いではないと思っている」
正直、少しだけ嫉妬した。
さらりと百点満点の答えをくれる彼女に。
初めて会った時からそうだった。
彼女の格好良さに、僕は憧れたんだ。
「まぁ、精々精進する事だな。人間の時間は短い」
意味深な言葉を残し、歩き出す。
「余に勝って、抱くのだろう? 我が夫よ」
振り返り挑戦的に微笑む、彼女は何よりも美しい。
背中を眺めながら、そう思った。
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