勇者パーティーを離脱したので黒狼さんと旅に出ます。

葵沙良

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    武器屋の奥に案内された更紗は、とても広い部屋に案内された。部屋の中央にポツンと置かれたテーブルの横に、縦に長い箱の中に収まっている、杖を見付けた。

    昆とは違い、上に向けられている方が少し太く、下に見ていくにつれて細くなっている。極端に華美な装飾は無く、上部先端に磨かれた無色透明の球体が嵌め込まれている。それを支える銀の装飾部分には、それを掲げ持つような女神の浮き彫りが施され、下に下がるにつれて蔦の細工が杖の中間少し手前で杖の木製部分に溶け込んでいる。
    一体どうやったらこんな造りになるのかは、更紗は全くもって分からない。

「綺麗なのにカッコいい……!」

「だろう?戦闘魔法師バトルメイジの職業はなかなか出会えないレアな職業なんだ。俺も初めて見たのはまだ見習いの時でね。その時の親方に言われたんだよ。『万が一、戦闘魔法師に出会ったらその人となりを見れ。自分の武器を託すに値すると判断出来た時には、己の技術を出し惜しみせずに武器を作ってやれ』ってね」

    ルトは箱から出さずに静かに抱えると、更紗の前に持ってきた。

「ここからは更紗の魔力を流して、更紗しか使えないように仕上げる。俺はこれ以上触れない。更紗、魔力は万全かい?」

「ちょっとだけ使ったけど、もう回復してるから大丈夫」

「そうか。さあ、杖を取り出してくれ」

    ルトに促され、前に置かれた箱から更紗はおずおずと杖を取り出すと、その軽さに驚いた。

「軽い…………!」

「そうだろう!軸の木はトレント材を特殊加工してある。装飾は魔力伝導率や魔力消費に効率の良いミスリルを、薄く加工して組み込んだ。加工は企業秘密だから言えないけれど、絶対気に入るはずだ。俺の持てるだけの技術を注ぎ込んであるからね。もう一度作れと言われても、同じものは二度と作れない。振ってみてくれないか?」

    ルトの言葉に、更紗は杖をじっと見つめてゆっくりと構える。

    目を閉じて深呼吸を繰り返し、目を開くと────瞳に鋭さを乗せ、雰囲気がピリッと引き締まる更紗。幼い頃から学んでいた武術の型を開始。その見事な流れに、ルトの表情が驚きで固まる。

「更紗、お前…………!」

    外見からは、考えられない動き。
この世界の戦闘経験のレベルで言えば、ベテランクラスだ。

「うん、軽くてしなる。扱いやすい」

    くるくると前方で回して、ストンと床に杖の下部を付けて動きを止め、ルトの方を見た。

「ル、ルトさん?」

    戸惑い気味に首を傾げて見てくる更紗にハッとしたルトは、更紗の両肩をがっしりと掴んだ。

「やっぱり俺の目に狂いはなかった!さあ!今度は魔力を流してくれ!」

    肩を掴んでいた手を外したルトは、更紗と一定の距離を置いて離れた。

「わ、分かりました」

    ルトに言われるがままに、更紗は深く深呼吸。精神を統一させていく。
瞼を半分程伏せ、無心を心がける。

(魔力……練気……杖に)

    緩やかに杖へと魔力を流し込んでいくと、スムーズな流れで杖に拡がってゆく。杖を包み込んだ魔力に目を向けると、じわりじわりと杖の木製部分の色が、真っ白にコーティングが施され、ミスリルの銀が映える。

「純白…………。更紗、その魔力を杖の先にある魔石に流し込んで。出来る限りの範囲で集めるんだ!」

    ルトの指示に頷くと、更紗は杖に更なる魔力を込め、先端部にある魔石を見つめ、魔力をに流し込む。
集約すればするほど、魔石の色がじわじわと青く染まっていく。
サファイアブルーに魔石が染め上げられたと同時に──────更紗が膝を着いた。

「も…………限界」

荒い呼吸を落ち着かせながら、ぺたんと座って更紗は呟く。

「スゴいぞ……!この国では、青は至宝なんだ……!」

    青の深みが増し、夜闇の空色に染まった魔石が淡く光り続け、細かな星のような模様が魔石に刻み込まれる。

    光がミスリルで作られた女神へと下がっていき、女神へと吸収されると────その背中に真っ白い翼が1対生えた。

    その翼と杖全体が淡い光に包み込まれ、その光が消えると同時に──────優雅に翼を羽ばたかせてミスリルの女神の背中に吸い込まれるように消えた。

「これは、本当に更紗しか使えない杖だ」

    床に倒された杖を、ルトが拾おうと手を掛けたのだが、びくともしない重さに唸る。

「更紗、マジックバッグに仕舞って」

ルトに促され、更紗は軽々と杖を拾ってマジックバッグの中へ仕舞った。

「その杖は、更紗以外が触れると、持ち上げられない重量に変化するようだね。この俺が身体強化を使っても持ち上げられなかった。魔力枯渇を起こして気を失うような事が無いように気を付けること。盗めないから心配は無いだろうが、万が一を想定するんだ」

    ルトの言葉に更紗は頷きで返し、呼吸をゆっくりと調えるのだった。




─────1時間後。

    落ち着きを取り戻した更紗は、ルトの家のキッチンで夕飯を作る。
武器を作って貰ったお礼になればと、腕を振るうことにしたのだ。

「ん、こんなものかな?」

    今日のメニューは、オーク肉のシチュー。コトコト煮込んで柔らかくなった野菜や肉の感触と味を確かめると、木の器に盛り付けて近くのテーブルにサラダとパンを並べていく。
木のカップに水を注ぎ、テーブルに置いた。

「ルトさーん!出来たよー!」

「ああ!こっちも一段落ついたところだ。美味そうな匂いだな!」

    ルトは作業場から出てくると、更紗の座る向かいの席についた。

「「いただきます」」

お互い手を合わせて、食事を始める。

「これからどうする?」

「んー……。杖の扱いに慣れたら、他の街に移動したい。勇者たちが居るこの街は嫌だから。暫くはルトさんとのんびり旅したいし……。マリちゃんに挨拶してから出るけどね」

「ああ、幼馴染みって言ってたな。そのお嬢ちゃん、弓使いだよな?」

「うん。それがどうかしたの?」

「後で良いもの渡すから、それをお嬢ちゃんに渡してくるといいよ。きっとお嬢ちゃんは喜ぶハズ。更紗にも同じものあげるから」

   最後の一欠片になったパンを口へと放り込んだルトは、席を立って作業場へと戻っていった。

    首を傾げながらも、食事を続けていた更紗も少し後に食べ終わり、食器を洗い場へと運んでいく。桶に魔法で水を張り、食器を浸けて小粒の無香料の石鹸を落とす。溶け始めると、ポコポコと細かい泡が立った。

「ん、良い感じ」

    その泡の中で食器を浸けたままカチャカチャと洗い始めると、ルトが作業場から戻ってきた。

「また、便利なもの作ったな」

    モコモコの泡の中に手を入れている更紗の、スポンジのような布を使って洗われている食器に目をやり、ルトは苦笑する。

「これ、浸け置きでも大丈夫から便利。小さな粒だから、かなりの数持ってるの。ルトさんが必要なら1袋置いておくよ?」

「いや、更紗が来たときに使ってくれたらそれでいい。終わったら奥の部屋に来てくれるかい?」

「はーい」

   更紗は引き続き食器を洗い、返事を聞いたルトは作業場へと再び入って行った。





    
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