4 / 7
4
しおりを挟む武器屋の奥に案内された更紗は、とても広い部屋に案内された。部屋の中央にポツンと置かれたテーブルの横に、縦に長い箱の中に収まっている、杖を見付けた。
昆とは違い、上に向けられている方が少し太く、下に見ていくにつれて細くなっている。極端に華美な装飾は無く、上部先端に磨かれた無色透明の球体が嵌め込まれている。それを支える銀の装飾部分には、それを掲げ持つような女神の浮き彫りが施され、下に下がるにつれて蔦の細工が杖の中間少し手前で杖の木製部分に溶け込んでいる。
一体どうやったらこんな造りになるのかは、更紗は全くもって分からない。
「綺麗なのにカッコいい……!」
「だろう?戦闘魔法師の職業はなかなか出会えないレアな職業なんだ。俺も初めて見たのはまだ見習いの時でね。その時の親方に言われたんだよ。『万が一、戦闘魔法師に出会ったらその人となりを見れ。自分の武器を託すに値すると判断出来た時には、己の技術を出し惜しみせずに武器を作ってやれ』ってね」
ルトは箱から出さずに静かに抱えると、更紗の前に持ってきた。
「ここからは更紗の魔力を流して、更紗しか使えないように仕上げる。俺はこれ以上触れない。更紗、魔力は万全かい?」
「ちょっとだけ使ったけど、もう回復してるから大丈夫」
「そうか。さあ、杖を取り出してくれ」
ルトに促され、前に置かれた箱から更紗はおずおずと杖を取り出すと、その軽さに驚いた。
「軽い…………!」
「そうだろう!軸の木はトレント材を特殊加工してある。装飾は魔力伝導率や魔力消費に効率の良いミスリルを、薄く加工して組み込んだ。加工は企業秘密だから言えないけれど、絶対気に入るはずだ。俺の持てるだけの技術を注ぎ込んであるからね。もう一度作れと言われても、同じものは二度と作れない。振ってみてくれないか?」
ルトの言葉に、更紗は杖をじっと見つめてゆっくりと構える。
目を閉じて深呼吸を繰り返し、目を開くと────瞳に鋭さを乗せ、雰囲気がピリッと引き締まる更紗。幼い頃から学んでいた武術の型を開始。その見事な流れに、ルトの表情が驚きで固まる。
「更紗、お前…………!」
外見からは、考えられない動き。
この世界の戦闘経験のレベルで言えば、ベテランクラスだ。
「うん、軽くてしなる。扱いやすい」
くるくると前方で回して、ストンと床に杖の下部を付けて動きを止め、ルトの方を見た。
「ル、ルトさん?」
戸惑い気味に首を傾げて見てくる更紗にハッとしたルトは、更紗の両肩をがっしりと掴んだ。
「やっぱり俺の目に狂いはなかった!さあ!今度は魔力を流してくれ!」
肩を掴んでいた手を外したルトは、更紗と一定の距離を置いて離れた。
「わ、分かりました」
ルトに言われるがままに、更紗は深く深呼吸。精神を統一させていく。
瞼を半分程伏せ、無心を心がける。
(魔力……練気……杖に)
緩やかに杖へと魔力を流し込んでいくと、スムーズな流れで杖に拡がってゆく。杖を包み込んだ魔力に目を向けると、じわりじわりと杖の木製部分の色が、真っ白にコーティングが施され、ミスリルの銀が映える。
「純白…………。更紗、その魔力を杖の先にある魔石に流し込んで。出来る限りの範囲で集めるんだ!」
ルトの指示に頷くと、更紗は杖に更なる魔力を込め、先端部にある魔石を見つめ、魔力をに流し込む。
集約すればするほど、魔石の色がじわじわと青く染まっていく。
サファイアブルーに魔石が染め上げられたと同時に──────更紗が膝を着いた。
「も…………限界」
荒い呼吸を落ち着かせながら、ぺたんと座って更紗は呟く。
「スゴいぞ……!この国では、青は至宝なんだ……!」
青の深みが増し、夜闇の空色に染まった魔石が淡く光り続け、細かな星のような模様が魔石に刻み込まれる。
光がミスリルで作られた女神へと下がっていき、女神へと吸収されると────その背中に真っ白い翼が1対生えた。
その翼と杖全体が淡い光に包み込まれ、その光が消えると同時に──────優雅に翼を羽ばたかせてミスリルの女神の背中に吸い込まれるように消えた。
「これは、本当に更紗しか使えない杖だ」
床に倒された杖を、ルトが拾おうと手を掛けたのだが、びくともしない重さに唸る。
「更紗、マジックバッグに仕舞って」
ルトに促され、更紗は軽々と杖を拾ってマジックバッグの中へ仕舞った。
「その杖は、更紗以外が触れると、持ち上げられない重量に変化するようだね。この俺が身体強化を使っても持ち上げられなかった。魔力枯渇を起こして気を失うような事が無いように気を付けること。盗めないから心配は無いだろうが、万が一を想定するんだ」
ルトの言葉に更紗は頷きで返し、呼吸をゆっくりと調えるのだった。
─────1時間後。
落ち着きを取り戻した更紗は、ルトの家のキッチンで夕飯を作る。
武器を作って貰ったお礼になればと、腕を振るうことにしたのだ。
「ん、こんなものかな?」
今日のメニューは、オーク肉のシチュー。コトコト煮込んで柔らかくなった野菜や肉の感触と味を確かめると、木の器に盛り付けて近くのテーブルにサラダとパンを並べていく。
木のカップに水を注ぎ、テーブルに置いた。
「ルトさーん!出来たよー!」
「ああ!こっちも一段落ついたところだ。美味そうな匂いだな!」
ルトは作業場から出てくると、更紗の座る向かいの席についた。
「「いただきます」」
お互い手を合わせて、食事を始める。
「これからどうする?」
「んー……。杖の扱いに慣れたら、他の街に移動したい。勇者たちが居るこの街は嫌だから。暫くはルトさんとのんびり旅したいし……。マリちゃんに挨拶してから出るけどね」
「ああ、幼馴染みって言ってたな。そのお嬢ちゃん、弓使いだよな?」
「うん。それがどうかしたの?」
「後で良いもの渡すから、それをお嬢ちゃんに渡してくるといいよ。きっとお嬢ちゃんは喜ぶハズ。更紗にも同じものあげるから」
最後の一欠片になったパンを口へと放り込んだルトは、席を立って作業場へと戻っていった。
首を傾げながらも、食事を続けていた更紗も少し後に食べ終わり、食器を洗い場へと運んでいく。桶に魔法で水を張り、食器を浸けて小粒の無香料の石鹸を落とす。溶け始めると、ポコポコと細かい泡が立った。
「ん、良い感じ」
その泡の中で食器を浸けたままカチャカチャと洗い始めると、ルトが作業場から戻ってきた。
「また、便利なもの作ったな」
モコモコの泡の中に手を入れている更紗の、スポンジのような布を使って洗われている食器に目をやり、ルトは苦笑する。
「これ、浸け置きでも大丈夫から便利。小さな粒だから、かなりの数持ってるの。ルトさんが必要なら1袋置いておくよ?」
「いや、更紗が来たときに使ってくれたらそれでいい。終わったら奥の部屋に来てくれるかい?」
「はーい」
更紗は引き続き食器を洗い、返事を聞いたルトは作業場へと再び入って行った。
1
あなたにおすすめの小説
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる