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12話

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 「本日はお忙しい中、足を運んでいただきまことに感謝する。国では10歳は特別な歳だ、ゆえに今宵は皆様からの祝いの心遣いへの感謝も込めてささやかながらのこの場を用意させていただいた。心ばかりではあるが時間が許す限り楽しんでいっていただきたい」

 パーティーの開始を知らせるかのようにハスク公爵が来客者たちへ挨拶をし、次はアンジェリーナが呼ばれ挨拶をする番と知っている俺はなぜか自分のことのように緊張した。

 「それでは本日の主役を紹介させていただこう!我が最愛の娘、アンジェリーナだ!」

 ドーンという効果音が聞こえそうなほど大袈裟にハスク公爵が両手を広げアンジェリーナを呼ぶとアンジェリーナは物おじせず堂々と登場しきれいなカーテシーを決めた。

 「お初にお目にかかります。アンジェリーナです。本日は私のためにご足労いただきありがとうございます。またすばらしいプレゼントの数々までいただき重ねて感謝申し上げます」 

 アンジェリーナの挨拶が終わると盛大な拍手がまきおこり堂々とした挨拶を大したもんだと俺が見ているとアンジェリーナと目が合いニコリとわらってきた。

 「セイジュ様、こんなところにおられましたか」

 「セルジュさん、いや、場違いすぎて…出席させていただいたせめてもの感謝に邪魔にならない様にと…それでどうなさいましたか?」

 「ふふっ、相変わらずにございますね。ハスク様とカリーナ様がセイジュ様に顔を出すようにとおっしゃられておりますのでご同行願います」

 「え゛…わ、わかりました」

 会場から離れ壁際に立ちパーティの様子を遠巻きにみていた俺にセルジュが声をかけてきて、俺は何かしでかしたかと不安に駆られながら案内されるまま進んだ。

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 「失礼いたします。セイジュ様をお連れいたしました」

 「どうぞ入ってもらって」

 ハスクの執務室にたどり着きセルジュが知らせると珍しくカリーナから入室を促す声をかけられ俺はますます不安にかられながら恐る恐る部屋に入った。

 「し、失礼いたします。本日はこのようにすばらしい…」

 「挨拶は要りません。是非にと呼んだのはこちらですから」

 「は、はい…あのそれで…」

 俺が入室と同時に感謝の礼をしようとするのを遮りカリーナが俺を自身の前にくるように促した。

 「そのように怖がらずともよい、せっかくの所、呼び出してすまんな」

 「い、いえ!…それで…」

 よほど俺の顔がこわばっていたのか笑いをかみしめるようにハスクが俺に優しく声をかけてきた。

 「セイジュ!」

 「へ?は、はい」

 日ごろおしとやかでいつも優しいカリーナが興奮気味に俺に声をかけてきたがいつもは君付けだったのにちゃん呼びで俺は驚いて変な声が出てしまった。

 「あなたがアンジェに作ったこれのことです」

 「あ…も、申し訳ありません!」

 カリーナが手にもって見せてきたのは俺がアンジェリーナへの誕生日プレゼントにと全財産はたいて作ったものだった。

 「何を謝っておられるのかわかりませんが、これは本当にあなたがおつくりになられたのかしら?」

 「は、はい。私が作りました。平民の手作りなど渡してしまい…申し訳ありませんでした」

 「そんなことはいいのです。セイジュちゃんあなたが一からつくったのですか?」

 「は、はい。材料は父にお願いし集めてもらいましたが私がつくりました」

 「そう…」

 やはり平民の俺からの手作りなど色々な意味でまずかったかと俺は冷や汗をたらし小刻みに体が震える中、カリーナが俺を信じられないものを見るような目で見ながら小さく答えた。

 「セイジュ君、これをアンジェ以外に手渡したことはあるのかね?」

 「いえ、今回のプレゼントのためだけに作ったので他の方には…あ、試作段階から手伝ってもらった母には少々あげました」

 「そうか、では母親とアンジェ以外には持って居る者はおらんということだな?」

 「はい。似たような品が売っているのであればわかりませんが、私が作ったものはそうです」
 
 「これはまだ作れるのですか?」

 「えっと、母に頼まれて次を作る予定で準備をすすめていますので…材料がそろえばまた作るつもりですが…」

 「そうなのね!」

 「は、はい」

 矢次早に二人から質問され困惑する俺をよそにカリーナはどんどん目を輝かせて興奮していった。

 「セイジュちゃん!材料費は私がお支払いするので私にもおつくりになってくださるかしら!」

 「へ?」

 「くっくっく…すまんなセイジュ君、君の作ったこれを試したメイドの髪をみてずっとこの調子なのだ。すまんが資金はこちらで持つ故カリーナのために1つ作ってはくれんか?」

 余りの勢いに固まってしまった俺にハスクが笑いをこらえて事情を説明してくれたので俺は準備している次の者について話してみることにした。

 「えっとですね…実は…」

 「ん?なんだ?なんならセイジュ君の母の分の費用ももつが?」

 「いえ!そんな恐れ多いこと!…そうではなくてですね…あの…もし今回試していただき問題なしと言っていただきアンジェリーナ様に受け取っていただけたら…その…元々次はアンジェリーナ様とカリーナ様にと思ってそれぞれの瓶を準備しておりまして…ですので…」

 「ほぅ?」

 「えっ!?そうでしたのっ!?」

 「は、はい。今回は誕生日という特別な日の物なのでバラの香りをつけましたが、次のは普段でも使いやすいようにそれぞれ別の花の香りをと思い今準備している段階ででして…」

 「まぁ!まぁ!まぁ!そうなのですねっ!ち、ちなみに私用の香りはどのようなお花の香なのかしら!」

 「え?カリーナ様用に作ろうと思っていたのはジャスミンの香りをつけようと思ってました」

 「まぁ!私の好きな香りだわ!」

 「はい。セルジュさんに前もって聞いておりましたので…」

 「まぁ!そうだったのね!!素敵!!」

 俺の返答を聞くたびにきらきらと目を輝かせ大げさに喜ぶカリーナとそれを苦笑気味にみているハスクを前に俺はどうしていいのかわからずただただあっけにとられていた。

 「ふむ。では使用に問題なしのようなのですまんが二人にも作ってくれ」

 「は、はい!ありがとうございます!!」

 「うむ、足止めさせてすまなかったな、パーティーに戻って楽しんでくれ」

 「はい。失礼いたします」

 俺は一礼をし部屋を出てパーティー会場へともどると、俺をこっそり探し回っていたらしいアンジェリーナが俺を見つけ思いっきり睨みつけており俺は冷や汗を隠せずに愛想笑いをうけべるだけで精いっぱいだった。
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