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79話

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 「やっと誕生祭もひと段落ね」

 「ええ、そうね」

 「こうやって自分の屋敷以外で本当の身内だけでゆっくりできるのって案外貴重よね」

 「ええ、ホントそれね」

 「貴族の方々はなにかと本当にお忙しいのですね」

 「あなただって今はそうゆっくりできてるけどセイちゃんが活躍したらした分あなただって忙しくなると思うわよ?」

 「えぇ…それはセイちゃんがすごいのであって親の私はただの平民ですから……」

 「いえ?5国間の交易が軌道に乗ればモンドもあなたも貴族から引く手あまたに誘いを受けると思うわよ?」

 「えぇ…それはあの人にお任せして私はちょっと……」

 「ふふ、セイジュ様はセシリーちゃんあなたに似たのねぇ」

 無事にダイナン領での誕生祭を終え2日後、セイジュ達の家にホーネット、ホルマトロ、グラドス、ホマス、ダイナンそしてモンド夫妻が集まり身内だけでゆっくりできる場をセイジュが設けていて母親達とエスメラルダの母エステルが和やかにお茶を飲みながら談笑していた。

 「ところで家主はどこなんだい?」

 「もう一人お誘いしたい方がいらっしゃると出かけてしまいましたわ」

 「ほぅ、セイがそのように動くのは珍しいな」

 「ええ、私にも誰なのかおおしえしてくれませんでしたの!」

 アンジェリーナがハンスとハスクにプンプンと怒りをぶつけていた。

 「セイジュ様がお戻りになられました」

 「こちらです足元におきをつけください」

 「すまんな……」

 「なっ!!」

 執事の言葉に全員が入り口に注目する中、セイジュが手を取り連れてきた人物にハスクが驚きの声を上げ他のメンバーは驚きすぎて息をのんだ。

 「あ、あなた…」

 「お父様……」

 「ドラル!貴様!!」

 「ハスク様!ダムズ様!お待ちください!!」

 「しかし!セイジュ君!!」

 両手で口を押え驚くエスメラルダと恐怖をはりつけた表情のメリダ、怒りを爆発させたハスクとダムズをセイジュが必死にとめたがリカルドが困惑しながら理由をたずねた。

 「今日は私達の場ですから」

 「だからといって!」

 「ドラル様はもう国王ではなくなんです」

 「セイよ!その男がしでかしたことでリカルドがどれほど苦労したと思っておるのだ!」

 「それは…申し訳ないとは思っておりますが…」

 「よいのだセイジュ君…気を使わせてすまなかったな」

 「ドラル様」

 必死に自身をかばおうとするセイジュに窶れずっと老けたようなドラルが力なく笑ったあと手を離し一歩前にでた。

 「みな、すまなかった…本来私は王になる器ではないことはずっと昔からわかっていた……ゆえにリカルドが後を継ぐまでの繋ぎとしてこれまで頑張ってきたのだが…自身でもわからぬうちに……あのようなことをしてしまっていた…許してくれとは言わぬが…せめて一言だけでも自らの口で謝罪したかったのだ」

 「父上……」

 「僕はずっと不思議に思っていたんです」

 「ん?セイなにをだい?」

 涙を流し深々と頭をさげたドラルに全員が言葉を失う中、セイジュが話を切り出した。

 「僕が初めてドラル様にお会いした時から闘技大会をへて婚約の時……まるで別人のようになっていたんです」

 「それはこの馬鹿が勝手にプレッシャーから逃げていただけではないか」

 「ハスク様、それも確かにあったと思うのですが今までのドラル様でしたらエスメラルダ様やハスク様にご相談なさっていたと思うのですがどうでしょうか?」

 「ん…言われてみれば確かにそうであったな」

 「ええ…そうですね」

 「ですから僕はずっと不思議に思っていて…あんなにこんな僕のようなものにまで優しい目で接していただいてた方がそんなにすぐかわってしまうのかと…ですから色々調べていたんです」

 「それで?」

 「モナ先生が教えてくださったんです。精神が病んでしまったり、やられた人にヒールをかけると治ることがあると…なので」

 「まさか…君がそれを?」

 「はい」

 「いつからだい?」

 「リカルド様が正式に国王になられた翌日からです」

 「なんと…」

 「すると…徐々に元々のご自分と新たなご自分がぶつかりあうかのような症状が出てきまして、モナ先生にお願いし見ていただいたところ、なにか強い暗示のようなものを何度も刷り込まれたのではないかということでした」

 「なっ!?で、ではドラルは何者かに操られておったということか!」

 「はい、その可能性が高いとおっしゃられていました。それでそれからは僕とモナ先生が内密に通って治療をしていたんです」

 「では…今の父上は…」

 「かなりきつい暗示だったのかヒールもかなり強くなんどもおかけしたのでその後遺症でこのような状態ですがモナ先生が問題なしとおっしゃってくださったので僕が初めて会った時のドラル様にお戻りになっております」

 セイジュの言葉にエスメラルダとメリダは涙を流しリカルドは小刻み震えていた。

 「今思えば…頭の中に靄がかかったかのような時が幾度となくあり、それが徐々に多くなっていっておった…しかし操られていたとはいえ…私がしたことは国を亡ぼすこと…到底許されるものではない」

 「お父様……」

 「ゆえに国を出てどこかでひっそり暮らし一人で死んでいこうと思っておる」

 「…あなた…」

 「また貴様はそうやって逃げるのか!この馬鹿者が!!」

 「ダムズ様…私ができる唯一のことはリカルドの邪魔をせぬことだとおもっております」

 「それを逃げておるというのじゃ!貴様はこれよりダイナンへと来い!儂がみずから鍛えなおしてやる!!」

 「!?」

 「おじい様!?」

 「そうね、ドラルちゃん?一度ゆっくりお家でやすみましょ?ね?」

 「あ、ありがとうございます…」

 「あなた…もう一度ゆっくりやっていきましょ?」

 「ああ…エスメラルダ…すまん…」

 ダムズの粋な計らいを受け全員が感動の涙をながした。

 「では、家族全員そろいましたしささやかながら食事でもしましょう!おねがいします!!」

 にこやかにセイジュがいうと執事やメイドが次々と料理をはこんできた。

 「本日は皆さまこちらにお泊りになり誰に気兼ねすることなくごゆっくりしていっていただければ幸いです」

 セイジュの挨拶でみんなが笑顔でグラスを掲げ食事会が始まった。

 「しかし国の主要人物が一か所に集まるのは少々抵抗がありますね」

 「ブルリック殿、それには心配に及びません。さきほどセイジュ様より警備について確認をしましたがまず我々が通った道以外はここまでたどり着けません」

 「グラドスでもですか?」

 「はい」

 「な、なら大丈夫ですね」

 ブルリックの何気ない一言にダンが真面目に答えセイジュの防衛とはと一瞬考えたが頭を振って楽しむことにした。

 「セシリアお義理母様、こちらもおいしいですよ」

 「あら、マーリン様ありがとうございます…うふふっ、美味しいですね」

 「ええ、とっても美味しいです」

 「お義理母様!こちらをどうぞ!」

 「え?マチルダ様わざわざありがとうございます。よろしかったらご一緒につまみましょ?」

 「はい!」

 「うふふふっ!うれしいわぁ…」

 貴族の中にいるセシリアに気を使いマーリンとマチルダがセシリアの元へと行きあれこれ3人で食べあうとセシリアははにかむ様に笑みを浮かべ心からの幸せを声に出していた。

 「まったく貴様は油断しおって!学生のころよりずっと面倒ばかりだ」

 「すまん…返す言葉もない」

 「まったく仕方のない奴だ!ほら!せっかくの娘たちとの場だ辛気臭い顔をするな!のめ!」

 「そうですよ?もう我々の時代ではないのですから気軽に行きましょう」

 「自分はまだまだ若い者たちには負けません!」

 「ダン貴様もう酔っておるのか!」

 うなだれるように椅子に座っていたドラルにハスク達がバシと一人一人背中をたたき顔を上げさせると笑顔で酒をすすめドラルは憑き物がおちたかのように穏やかな顔でグラスを受け取った。

 「お父様、お母様あの人を受け入れてくださりありがとうございます」

 「しかたなかろう、まだ暗示をかけたものが城におるやもしれんしな」

 「ふふふ、ドラルちゃんも家族ですもの気にしないでいいわ」

 「ありがとう」

 エスメラルダはダムズとエステルに深々と頭を下げ礼をした。

 「仕方ありませんから譲って差し上げますわ」

 「え?アンジェ…ありがとうございます」

 アンジェリーナが深いため息をつき笑顔でメリダの背中を押し驚きながらも礼をいいメリダはセイジュの前にいった。

 「セイ様!あの…お父様のことですが」

 「もとにお戻りになられよかったですね、しばらくはごゆっくりご養生させてあげてくださいね」

 「はい!…はい!セイ様!お父様をお救い頂きありがとうございます!!」

 「うわっ!」

 「この御恩は絶対忘れません!!」

 「おおげさですよ…よかったですね」

 「はい!私幸せです!!」

 感極まり抱き着いたメリダを軽々と優しく受け止めいったセイジュの言葉にメリダはうれしさをかみしめ胸に顔をうずめ幸せをかみしめた。

 「はぁ~世話がやけますわね」

 「ふふ、そうですわね」

 ため息交じりに苦笑するカリンにアンジェリーナがふっと笑いこたえた。

 「はぁ~…最高ですわねぇ」

 「セイジュ様には色々感謝せねばなりませんわ」

 「ふふふ、ソフィー様セイちゃんはそんなこと望んではおりませんわ」

 「ですが……」

 「みんなが笑顔でいることが一番のお礼であり恩返しですわ、ですから皆さんも笑顔を絶やさぬようみんなで幸せになりましょ」

 「そうですわね」

 食事会がおわり姉たちは大浴場をつかいゆっくりしながら笑顔で日ごろの疲れをいやした。

 「やはりアデラかな?」

 「でしょうね…しかし西ということもあり得ますし今もその勢力がいる可能性もあるのでリカルド様おきをつけくださいね?」

 「ああ、これからどのように不穏分子をあぶりだすか考えねばならんな」

 「そうですね」

 「はぁ~…アキュオスだけでも頭が痛いのに困ったもんだね」

 「まったくですよ」

 「しかしどちらもほっておくわけにはいきません」

 「わかっている」

 「今後重要な話し合いはセイには悪いがここを使わせてもらうほうがいいだろうね」

 「そうですね、もはやどこで誰が聞いているかわかりませんからね」

 「妹たちに迷惑をかけるのは忍びありませんが一刻も早く解決するのが得策ですね」

 セイジュに案内され地下の奥にある会議室のような部屋でリカルドたちが今後のことを話し合った。

 「ふぅ~…ん?どうなされました?アンジェ様」

 「いえ、疲れていないかと思いまして…入ってもよろしくて?」

 「あ、どうぞ!」

 「ありがとうございます」

 それぞれが自由に過ごし始めたため自室にもどり本を読んでいたセイジュの元にアンジェリーナが訪れた。

 「お熱いのでお気を付けください」

 「ええ」

 「アンジェ様も立て続けのパーティーでお疲れではないですか?」

 「慣れておりますから大丈夫ですわ」

 「さすがですね、でも無理はなさらずに」

 「それはこちらのセリフですわ、たまにゆっくりおやすみください」

 「あははは、きをつけます」

 「ん、よろしい」

 「あはははは ふふふふふ」

 二人は顔を見合わせ噴出しわらった。

 「セイ色々ありがとうございました」

 「いえ、たいしたことなどしてませんよ」

 「そんなことはありませんわ、昔からずっとセイの優しさに救われてきたんですもの」

 「そういっていただけてうれしいです。やはりには笑顔でいてほしいですからね」

 「ふぇ?」

 「ど、どうしました?」

 「な、なんでもありませんわ!もう…急に言われると心の準備が追いつきませんわ」

 「アンジェ様?」

 「もう!なんでもありませんって!と、とりあえずごゆっくりおやすみになられてくださいね!」

 「は、はい!」

 顔を真っ赤にしアンジェリーナが部屋を後にしよくわからないがセイジュは皆が笑顔だったことに満足して眠りについた。
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