14 / 178
1章 皇国での日々
13
しおりを挟む
前半はスランクレト、後半は皇后の視点になっております。
____________________________________
「して、持ち帰ったものは確かに神剣であったのか?」
「まだ、真剣に自分の魔力を込めておらず、抜いていない状態ですのでなんとも」
「なぜすぐにやらない?」
重い空気の中、低い声がよく通る。あれは神剣であるという確信はあるが、まだ駄目だ。あれの主は俺ではないから、俺の魔力では反応しない。だが、本当の主に渡すわけにもいかない。
「時期が、ございます」
ひねり出した言葉に視線が突き刺さる。だが、この意見を変えるわけにはいかない。
「まあ、いいではないですか。
ダンジョンにあった石のような剣、きっと神剣に間違いないのでしょう。
そして、それを探し出し、持ち帰れた。
それ事実が、スランクレトが神剣の持ち主である何よりの証拠ではないですか」
「……ふむ、まあそうだな」
あの王をすぐに黙らせるとは、この長兄は扱いに慣れているのだな、と思う。さて、ここからどうでるか。正直、もう戻りたいがそういうわけにもいかないだろう。特にそこで射殺さんばかりににらんでいるお人もいることですし。
「そうだ、スーベルハーニに会ってみたいんだ。
カンペテルシアが世話になったようだし、お礼を直接言いたいんだ」
かなり急な話題転換。このタイミングでそれを切り出すことに、どんな意味がある? それに、お礼を言いたい、そういっているがきっと本題は違うのだろう。本当に嫌な奴だ。
「その節は手紙、そして贈り物をしていただきありがとうございました。
スーベルハーニもとても喜んでおりました。
それだけでスーベルハーニに十分気持ちは伝わっております」
「喜んでもらえたなら、何よりだ。
だけど直接会ってみたいというのは、スーベルハーニに興味があるからなんだ。
とても優秀だと、ダイシリトが驚いていた」
「ほう。
スーベルハーニ、か。
使えるやつならば、よい」
嫌な予感。なぜ、今ここでスーベルハーニが優秀だとの発言をする? そこでにらんでいる女が我々に、母上の子供になぜか異様な敵意を抱いていると知っているだろうに。ほら、眼光が増した。
「そんなに優秀な子でしたか。
将来、王を、国を支えるよき人材となるでしょう」
にたり、と笑う。気持ち悪い。心のこもっていない言葉は、聞いていて耳障りだ。それにその『王』とは一体誰をさしているのやら。
「機会がありましたら、ご紹介いたしましょう。
まだあまり教養が備わっておらず、皆様方とお会いするのは難しいでしょうから」
「ああ、楽しみにしていよう。
早く会えることを願っているよ」
そういって笑うキャバランシア皇子。この人が一番読めない。笑うし怒る、感情は確かに存在し、それによってちゃんと表情が変わる。だが本質が一切見えてこないのだ。だから、本能的に警戒してしまう。
「神剣の件、進展があれば都度知らせよ」
「かしこまりました」
こちらの会話など興味がない、といったように陛下が会話を切る。そして急にまとめ上げると場は解散になった。この時ばかりはこの人に感謝してもいいかもしれないと思った。
____________________________________
「もう、準備は整ったのかしら?」
「ええ、滞りなく」
「そう、ならいいわ」
なら、もうこれは燃やしてしまわないと。証拠となるものは残しておくわけにはいかないわ。豪華絢爛な室内、クローゼットいっぱいの美しいドレス、指を耳を胸元を、全身を飾り立てる宝石が付いたアクセサリーの数々。わたくしの足元に跪くのもいとわず、わたくしの命に従って忠実に動くもの。そしてかわいい我が子。ほしいものはすべて手に入れた。
それに、あやつの宮も壊してわたくし好みの庭園に造り変えた。
なのに! それなのに、なぜ、まだあやつの影がうろつくのだ! わたくしは、わたくしはずっと。
ぎりっと手に力が入る。いけないわ、こんなことでは。はーっと深く息を吐き出す。そのとき、扉からノックの音が聞こえた。出たものが息子が来たことを告げる。ああ、わたくしのかわいい皇子。きっとあなたを王座につけるわ。
「あの、母上。
寝ますので挨拶に参りました」
「ああ、いい子ね。
ゆっくりとおやすみなさい」
頭をなでてあげると、嬉しそうに目を細める。15歳はもう超えているのに、と苦言を呈すものもいるけれど、わたくしの皇子はこれでいいのよ。
あの子に触れて、決心がついたわ。さあ、始めましょう。あの赤い目の女のことはもう忘れないと。わたくしの、王の愛を、目の前でかっさらった……。
「こ、皇后陛下?」
「いえ、何でもないわ」
わたくしの方が数年先に輿入れしたにも関わらず、わたくしの皇子のすぐ後に生まれたあやつの掃除を早くしなくては。神剣なんぞ手に入れおって! どうせ何者かから奪ったにすぎぬはずだろう! この皇国の皇族の、神に呪われた血、それをしのぐ力なぞ持たぬ小娘の子であるのに。それにふさわしきは我が子だ。このスランテ王国の正当なる血を引く、わたくしの。
「さあ、始めようぞ。
害虫の駆除を」
「陛下、下のものはどうなさいますか?」
下? ああ、あやつか。確か齢は8つ。大した脅威ではないが、恨まれ、力を蓄えられると厄介。それにキャバランシアも持ち上げておった。ならば答えは一つか。
「ともに」
「かしこまりました」
「疾く行け」
はっ、という言葉とともにいなくなる。これで少しは周りが静かになるかしら。
____________________________________
「して、持ち帰ったものは確かに神剣であったのか?」
「まだ、真剣に自分の魔力を込めておらず、抜いていない状態ですのでなんとも」
「なぜすぐにやらない?」
重い空気の中、低い声がよく通る。あれは神剣であるという確信はあるが、まだ駄目だ。あれの主は俺ではないから、俺の魔力では反応しない。だが、本当の主に渡すわけにもいかない。
「時期が、ございます」
ひねり出した言葉に視線が突き刺さる。だが、この意見を変えるわけにはいかない。
「まあ、いいではないですか。
ダンジョンにあった石のような剣、きっと神剣に間違いないのでしょう。
そして、それを探し出し、持ち帰れた。
それ事実が、スランクレトが神剣の持ち主である何よりの証拠ではないですか」
「……ふむ、まあそうだな」
あの王をすぐに黙らせるとは、この長兄は扱いに慣れているのだな、と思う。さて、ここからどうでるか。正直、もう戻りたいがそういうわけにもいかないだろう。特にそこで射殺さんばかりににらんでいるお人もいることですし。
「そうだ、スーベルハーニに会ってみたいんだ。
カンペテルシアが世話になったようだし、お礼を直接言いたいんだ」
かなり急な話題転換。このタイミングでそれを切り出すことに、どんな意味がある? それに、お礼を言いたい、そういっているがきっと本題は違うのだろう。本当に嫌な奴だ。
「その節は手紙、そして贈り物をしていただきありがとうございました。
スーベルハーニもとても喜んでおりました。
それだけでスーベルハーニに十分気持ちは伝わっております」
「喜んでもらえたなら、何よりだ。
だけど直接会ってみたいというのは、スーベルハーニに興味があるからなんだ。
とても優秀だと、ダイシリトが驚いていた」
「ほう。
スーベルハーニ、か。
使えるやつならば、よい」
嫌な予感。なぜ、今ここでスーベルハーニが優秀だとの発言をする? そこでにらんでいる女が我々に、母上の子供になぜか異様な敵意を抱いていると知っているだろうに。ほら、眼光が増した。
「そんなに優秀な子でしたか。
将来、王を、国を支えるよき人材となるでしょう」
にたり、と笑う。気持ち悪い。心のこもっていない言葉は、聞いていて耳障りだ。それにその『王』とは一体誰をさしているのやら。
「機会がありましたら、ご紹介いたしましょう。
まだあまり教養が備わっておらず、皆様方とお会いするのは難しいでしょうから」
「ああ、楽しみにしていよう。
早く会えることを願っているよ」
そういって笑うキャバランシア皇子。この人が一番読めない。笑うし怒る、感情は確かに存在し、それによってちゃんと表情が変わる。だが本質が一切見えてこないのだ。だから、本能的に警戒してしまう。
「神剣の件、進展があれば都度知らせよ」
「かしこまりました」
こちらの会話など興味がない、といったように陛下が会話を切る。そして急にまとめ上げると場は解散になった。この時ばかりはこの人に感謝してもいいかもしれないと思った。
____________________________________
「もう、準備は整ったのかしら?」
「ええ、滞りなく」
「そう、ならいいわ」
なら、もうこれは燃やしてしまわないと。証拠となるものは残しておくわけにはいかないわ。豪華絢爛な室内、クローゼットいっぱいの美しいドレス、指を耳を胸元を、全身を飾り立てる宝石が付いたアクセサリーの数々。わたくしの足元に跪くのもいとわず、わたくしの命に従って忠実に動くもの。そしてかわいい我が子。ほしいものはすべて手に入れた。
それに、あやつの宮も壊してわたくし好みの庭園に造り変えた。
なのに! それなのに、なぜ、まだあやつの影がうろつくのだ! わたくしは、わたくしはずっと。
ぎりっと手に力が入る。いけないわ、こんなことでは。はーっと深く息を吐き出す。そのとき、扉からノックの音が聞こえた。出たものが息子が来たことを告げる。ああ、わたくしのかわいい皇子。きっとあなたを王座につけるわ。
「あの、母上。
寝ますので挨拶に参りました」
「ああ、いい子ね。
ゆっくりとおやすみなさい」
頭をなでてあげると、嬉しそうに目を細める。15歳はもう超えているのに、と苦言を呈すものもいるけれど、わたくしの皇子はこれでいいのよ。
あの子に触れて、決心がついたわ。さあ、始めましょう。あの赤い目の女のことはもう忘れないと。わたくしの、王の愛を、目の前でかっさらった……。
「こ、皇后陛下?」
「いえ、何でもないわ」
わたくしの方が数年先に輿入れしたにも関わらず、わたくしの皇子のすぐ後に生まれたあやつの掃除を早くしなくては。神剣なんぞ手に入れおって! どうせ何者かから奪ったにすぎぬはずだろう! この皇国の皇族の、神に呪われた血、それをしのぐ力なぞ持たぬ小娘の子であるのに。それにふさわしきは我が子だ。このスランテ王国の正当なる血を引く、わたくしの。
「さあ、始めようぞ。
害虫の駆除を」
「陛下、下のものはどうなさいますか?」
下? ああ、あやつか。確か齢は8つ。大した脅威ではないが、恨まれ、力を蓄えられると厄介。それにキャバランシアも持ち上げておった。ならば答えは一つか。
「ともに」
「かしこまりました」
「疾く行け」
はっ、という言葉とともにいなくなる。これで少しは周りが静かになるかしら。
27
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる