『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
15 / 178
1章 皇国での日々

14

しおりを挟む

スランクレトの視点です。
------------------------------------------------------------

「なあ、リヒト。
 少し付き合ってくれないか?」

 カチャ、と一緒に持ったグラスとボトルが音を鳴らす。久しぶりにお酒に誘うことにしたのだ。あまりにも急な誘いだったからか、怪訝そうな顔をしている。

 でも、こいつは妙に察しがいいからな。こうしておかないと、きっと変に手を出される。

「いいだろう?
 これからする話はお酒が入っていないときついんだよ。
 きっと見間違いだって、馬鹿にされる」

「あなたの話を馬鹿にすることはありませんが……。
 まあ、いいでしょう」

 よし、ようやく席についてくれた。ボトルの中はとてもおいしいがとても強い酒。きっとリヒトは耐えられない。俺のは水にして、と。準備はできた。

「それで、どんな話を?」

「スーハルが生まれた時の話だよ。
 俺が、俺と母上が、どうしてスーハルを救いと呼んだかの話」

「それは確かに興味があります」

 よし、ちゃんと飲んでいるな。確認をしてから口を開く。これを誰かに伝えたかったのは事実だ。この話を、誰かに覚えていてもらいたい。いつかきっと、これがスーハルの力になるから。

「スーハルは、知っての通り陛下の末の子だ。
 なんの気まぐれか、ふらりと母上の宮に立ち寄ってな」

「そういえば、そのころは暮らしていたのはまだあの離宮ではありませんでしたね」

「ああ。
 それを知った皇后が大激怒したんだ。
 きっと自分のところには皇子を生んだ後はろくに来なかったんだろう。
 なのに、と。
 それで激怒した皇后にあの離宮に飛ばされたんだ」

 懐かしい。鬼のような形相の皇后がいきなり詰めかけてきて、お前にこの部屋は豪華すぎる、とか言い出したんだ。そして、当時全く手入れされていなかった離宮に飛ばされた。自分のせいなのに陛下は我関せず。あの時は殺してやろうかと思ったもんな。

「だが、今ではそれでよかったと思っている」

「あの日陰な場所がですか?
 なぜ」

 うんうん、いい感じに顔が赤くなってきた。

「それが先ほど話したいといった内容だよ。
 追いやられて、それでも母上はきちんとスーハルを育てた。
 俺もいろいろ奔走したしな。
 出産の知識も頭に入れた」

「あなたが?」

「そう。
 産婆すら信用できなかったからな。
 陛下にとってはその子が生まれようと生まれまいとどうでもよかっただろうし」

「ふ、確かにあの方ならばそう考えてもおかしくありませんね」

「でも、これも結果としては良かったんだ。
 結果として、スーハルが生まれたときそこにいたのは俺と母上。
 後は、今はもういないが母上の侍女、その三人だけだった」
 
 目を閉じると、今でもその光景が目に浮かぶ。いけないな、水しか飲んでいないのに酔ったみたいだ。この後のことを考えるとかなりまずい。っと、リヒトが視線で早く話せとせかしているな。

「スーハルが生まれたときにな、辺りが光に包まれたんだ。
 柔らかな光に。
 それは、まるで精霊がスーハルの誕生を喜んでいるように見えた」

「精霊?
 今ではもういないのでは、とも言われている精霊ですか!?」

「ああ、そうだ。
 な、信じられないだろう?」

 それは、確かに……、そう口にしながら酒に手を伸ばす。俺だって実際に目にしなければきっと信じられなかった。

「それが、神様からの救いに見えたんだ。
 呪われた皇族にとらわれた母上、そしてそのもとに生まれた俺にとっては」

「とらわれ……。
 そういえば皇子の母君はどこの出身なのですか?
 身分が低いとは聞いているのですが、詳しくは知らず」

「母上は……、実はこの国の民ではないんだ。
 流浪の民、それを父上に見初められてしまった。
 黒髪、赤目はその民の特徴でな。
 本来は神に愛された民のはずなんだが。
 だから、母はたまに陛下のことを悪魔、と呼んでいたよ」

 それすら懐かしい。母上の出身は実はあまり詳しくない。母上が話してくださらなかったからだ。もう、自分はその民ではないから、と。

「だから、自分の堕ちた身を嘆いていた。
 俺ではそんな母上を救えなかった。
 だけど、スーハルが救ってくれた。
 苦しんでいた俺も一緒に救ってくれたんだ」

「それで救いだったんですね。
 神に愛された……、もしかして!
 あの剣の、真の持ち主は」

「きっと考えていることであっているよ」

 そう、あの剣はスーハルのもの。俺はただの運び屋に過ぎないんだ。

「それに、俺が魔法を使うときにわざわざ唱えるのもそれが理由だ。
 皇族は呪われた一族。
 だが、スーハルは違う。
 ならば、この言葉も意味があるものだと思ってな」

「ああ、なるほど。
 いろいろと納得が、いきました。
 精霊は、にわかに、しんじがたい、ですが……」

 お、うとうとしだした。こいつはお酒を飲むと眠くなりやすいからな。これなら大丈夫だろう。

「……、皇子、騙されて、差し上げます。
 ですから、どうか」

「っ!
 ……はは、さすがにリヒトのことは騙せないか。
 なあ、リヒト。
 俺に何があっても、スーハルの力になってやってくれ。
 あの子は本当に優しい子だから」

 だから、どうか。力になってくれ。

 そんなの知っています、と細い声が聞こえてきた。寝てしまったようだ。

    さて、さっきからつけてきているあいつらが我慢しているうちに最後の仕事をしなくては。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...