『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
19 / 178
2章 孤児院と旅立ち

1

しおりを挟む
 あれから僕はひたすら走った。走って、走って。そしてたどり着いた町で食べるものを買い、乗り合い馬車に乗り。明らかに子供な体格の僕が一人で、しかも目深にフードをかぶっていたから、周りは訝し気な目を向けてきたけれど気にしない。そんなことを気にしている場合ではないから。

 本当に、何度神様を恨んだことか。誰かの特別になりたいという僕の希望を叶えるふりをして、そして失わせる。最初から手に入らないよりどれだけ辛いことか。

 確かに特別な存在だろう、僕は。なにせ皇国の第七皇子でありながら、8歳にして母と同腹の兄を亡くし、国を捨てる決心しているんだもの。そりゃ、こんな人なかなかいない。でも違うんだって……。

 でも、こうなって少しわかる。あの離宮は僕をいろんなものから守ってくれていた。完全に、とは言えないし、それでも危険があったけれど。そしてあの宿舎もそうだ。悪意とか、そういうのから守ってくれていた。まあ、変なのは絡みに来ていたが。

 そんなことを考えながら、なんとか隣国アズサ王国に入る。予想通り、兄上はちゃんと逃がす方向も考えてくれていたようだ。まっすぐ、そうして進んだ方向の国は同盟国ではなかった。

 そして、国境は、まあ、ね。子供という身を利用しました。端的に言うなら不法入国。でも、自分の身分なんて証明するわけにはいかないし、これしか手がない。

 そんなとにかく逃げるだけだった旅の中でも一つの出会いがあった。アズサ王国に入って少ししたころ、子供一人での旅は危ないと拾ってくれた商団の人たちがいたのだ。

「お前、名前はなんていうんだ?」

「な、まえ?」

「ああ。
 名前くらいあるんだろう?」

「ス、……、ハール」

 とっさにスーと言おうとした口を閉じる。この名前は捨てないと、とっさにそう思ったから。スーベルハーニとしての兄上との思い出と、それにスー皇子と呼んでくれた隊員の人たちとの思い出。もう戻れないのだ、どちらも封印しようって。

 それに少しでも気づかれる可能性を低くしたい。ここまでくれば皇国ほどは蒼の瞳が特別視されないだろうけれど、警戒はしとかないと。
 これから先、ずっとそうやって生きていくしか……。

「お、おいおい、名前聞いたくらいでそんな顔しないでくれよ。
 ハールだな」

 よろしく、そういって差し出された手が、今の僕が持てる唯一のつながりのように見えて、思わず手を伸ばしてしまった。

「それで、ハールはどこを目指しているんだ?」

「どこ……。
 オースラン王国に行きたい、と」

「オースランか!
 結構遠くを目指しているんだな。 
 でもちょうどいい。
 俺たちもそこまで行くんだ」

 乗ってけよ、にかっと笑う団長の笑顔に弱っていた僕の心は逆らえなかった。

 そうして一緒に旅をすることになったこの人たちは、みんなとても気のいい人たちで。詳しいことは何も言わなかったのに、一度も探らないでくれた。そして、僕がいつも身に着けているものに関しても。

 きっと一目で訳ありだとわかったはずなのに、厄介そうにもせずいつでも優しく接してくれた。感謝してもしきれない。そして計算が得意な僕を頼って、ほめてくれる。ここにお世話になっていてもいいんだと、そう感じさせてくれた。

 そんなふうに、兄上と別れてからなかった暖かな日常が過ぎるのはあっという間で。トラブルもあったけれど、本当に楽しい日々だった。でも、特定の人たちと一緒にいればいつ迷惑をかけることになるかわからない。

 だから、オースラン王国に入って少ししたころ、わかれることにした。みんなはこのままここで過ごせばいいと、そういって引き留めてくれた。そんな優しい人たちだからこそ、僕はここにはいられない。

 常に、ではないからきっと本格的には探していないとは思うけれど、たまに聞こえてきていたのだ。皇国がいなくなった第七皇子を探しているという話が。今はまだ、僕には力がない。それにきっとわかる人が見たら、一目見たらばれてしまう。だから、僕はここにはいられない。

「それでは、長くお世話になりました」

「おう!
 元気でやれよ、ハール!}

「はい!
 また」

 ぺこりと頭を下げて、去っていく姿を見送る。これで、正しかったんだ。寂しいけれど、この人たち何かあったらいけないから。

 オースラン王国にたどり着いたころ、僕はもう10歳になっていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   さて、商団と別れたはいいがこの後はどうしよう。お金、は実はまだある。あまり多くは残っていないけれど、ゼロではない。とりあえず泊まる場所、と思ったけれど、まずここには宿がない。あったとしても身分も証明できない子供一人が泊まるのは難しいだろう。うーーん。

 悩みながらもひとまず歩く。まだ日は高いから、もしかしたら歩いていれば何かいい案が浮かぶかもしれない。

「ねえ、君一人なの?」

 え……? 誰?

 振り返った先にいた、少し、いやかなりボロボロな服をまとった少年。きっと歳は同じことだろう。この人との出会いが、国を出た僕の二つ目の大きな出会いだった。

「えっと、一人です」

「ああ、やっぱり。
 ねえ、行くところがないなら一緒に暮らす?」

 この人は、何を言っているんだ? そう思いつつ、ついついついていってしまう。いや、でもここにいては商団を抜けた意味がなくなる。

「あの、僕!」

「さあ、ようこそ孤児院へ」

 ……孤児院?

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...