18 / 178
1章 皇国での日々
17
しおりを挟む
皇后の視点/第一皇子キャバランシアの視点/リヒトの視点
の順になっています。
「それで?」
「はっ、役目はきちんと果たしたかと。
この目で第三皇子の死を確認いたしました。
あ、しかし……」
視線が泳ぐ。言いたいことがあるならはっきりせよ。こういう態度が癪に障るのだ。
「その、第七皇子の姿が見えず、手を出せませんでした」
あやつの姿が? ということは、どこかへ行ったのか。だが、一番あり得るのは、スランクレトがなんとか逃がしたということだろう。しかし、あやつが、か。
「まあよい。
あれはいまだ毒にも薬にもならぬ存在だからな。
そう、神剣はどうした?」
「それが、どこにも見えませんで……」
見えない、つまり消えた? ならばやはりあやつが主だったと? 噂程度だが、神剣は主が死ねば次の主を待つために忽然と消えると。
あやつが、神剣の主。
「どこまでも目障りな奴よ!」
「こ、皇后陛下……?」
ガシャン! と大きな音がする。手元を見れば血が伝っていた。グラスが割れたか。中身も散らばり、実に不愉快。
「すぐに手当てを」
ああ、煩わしい。だが、ひとまずの邪魔は排除したわ。わたくしはもう止まれない。止まる気もない。これでよいのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この者は今なんといった? スランクレトの遺体が発見された、だと?
「あいつか!!」
間違いない、あいつが手をまわしたんだ。神剣の主がこの国の皇族にいる。それがどれほどの価値がある事実なのか理解していないのか? いや、理解しているからこそ、かもしれないが。
「神剣はどうなった?」
「それが、消えた、と」
消えた。ならばほぼ確定だろう。本当に余計なことを……。
「そうだ、スーベルハーニはどうなった?」
「あの、どこにも、いらっしゃらないそうです」
どこにもいない? どういうことだ? 遺体が見つからないということは、恐らく死んではいないのだろう。なら、逃げだした? あの幼さで自分の判断で逃げたとは思えない。むしろ助けようとするだろう。報告ではよくなついていたようだし。
ならば結論は一つ。おそらくスランクレトが逃がしたのだ。あやつは元からスーベルハーニをここにかかわらせたくないと思っていた節があった。
「追いますか?」
目の前の人物も同じ結論に達したのだろう。そう問いかける。ふむ、どうしようか。
「……いや、いい」
わざわざ身近に毒ともなりえる存在を置く必要もないだろう。必要になった際にまた探せばいい。今はそれよりもやらなくてはいけないことが多すぎる。
「本当に余計なことを」
思わず最後に一つ、恨み口を漏らしたのは許してもらいたい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
妙に酒を飲まされて、目が覚めたのは昼近くだった。その時には宿舎内が騒がしく、とても嫌な予感がした。
なぜか私に強い酒を勧めてきたのに、自分は水。そいういった真似をするのが珍しく、なにかわけがあるのだろうとは思った。だから、今日はそれに騙されてやろう、と。その時からずっと嫌な予感はしていた。私にいきなりスーベルハーニ皇子が生まれた際の話をしたことも。
「副隊長!
目、覚めてますか!」
「ええ、起きています。
一体何があったのですか?」
「何がって、その……。
隊長が、亡くなったと」
亡くなった。その言葉が耳に入ってきて、最初に思ったのは、ああ、やっぱりという感想だった。それなら昨夜の行動の意味が分かる。でも。
「どこでですか?」
「それが、南門近くの城内でやられていたらしく」
城内。最も安全でなくてはならない城内で皇子が殺された。この事実が他国にどうとらえられるのか、あいつはわかっているのか? いや、きっとそこまで頭が回らないのだろう。
「それと、神剣と……、スー皇子も見当たらず」
「皇子が!?」
神剣とスーベルハーニ皇子が消えた。それから考えられるのは、スラン皇子が何かした、ということだけだ。きっと神剣を正当な主に渡し、ここから逃がした。きっと元からそのつもりだったんだ。でも、ならばこそ。
「私も、巻き込んでくださいよ……」
「あの、副隊長?」
私をこの貴族の世界にとどめたあなたがいないのならば、今すぐにでも去りたい。でも、最大の釘として約束を用意してしまった。スーベルハーニ皇子を助けるという、この国の中枢にいないと果たせない約束を。最後の約束となってしまったこれを、私が破ることができないなんてきっとあの人にはお見通しだろう。
今はどこにいるのかわからない。でも、どうか無事に逃げ切ってください。私が力になれることは本当に少ないですが、それでも精一杯お役に立ってみせましょう。
恨みますよ、スラン皇子。あなたが巻き込んだ騒動に、私を取り残していったことを。でも、親友として支えて差し上げます。
「まずはこの隊を守らなくては」
さあ、やることは多い。すぐにでも動き始めなくては。ねえ、スラン皇子。あなたが引き起こしたこの騒動が終わったとき、その時なら私が涙をこぼしても許してくださいますか?
今はこのつらさに蓋をしましょう。これは今必要ない。でも、いつか必ず思い出せるように。あなたを悼めるように、大事に鍵を付けてしまっておこう。
今立ち止まったらきっと、もう動けなくなるから。でもそれではだめだ。
「すべてが終わった後に、絶対に文句を言ってやる」
今は、動き続けなくては。
「副隊長、な、……いえ、なんでもありません」
の順になっています。
「それで?」
「はっ、役目はきちんと果たしたかと。
この目で第三皇子の死を確認いたしました。
あ、しかし……」
視線が泳ぐ。言いたいことがあるならはっきりせよ。こういう態度が癪に障るのだ。
「その、第七皇子の姿が見えず、手を出せませんでした」
あやつの姿が? ということは、どこかへ行ったのか。だが、一番あり得るのは、スランクレトがなんとか逃がしたということだろう。しかし、あやつが、か。
「まあよい。
あれはいまだ毒にも薬にもならぬ存在だからな。
そう、神剣はどうした?」
「それが、どこにも見えませんで……」
見えない、つまり消えた? ならばやはりあやつが主だったと? 噂程度だが、神剣は主が死ねば次の主を待つために忽然と消えると。
あやつが、神剣の主。
「どこまでも目障りな奴よ!」
「こ、皇后陛下……?」
ガシャン! と大きな音がする。手元を見れば血が伝っていた。グラスが割れたか。中身も散らばり、実に不愉快。
「すぐに手当てを」
ああ、煩わしい。だが、ひとまずの邪魔は排除したわ。わたくしはもう止まれない。止まる気もない。これでよいのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この者は今なんといった? スランクレトの遺体が発見された、だと?
「あいつか!!」
間違いない、あいつが手をまわしたんだ。神剣の主がこの国の皇族にいる。それがどれほどの価値がある事実なのか理解していないのか? いや、理解しているからこそ、かもしれないが。
「神剣はどうなった?」
「それが、消えた、と」
消えた。ならばほぼ確定だろう。本当に余計なことを……。
「そうだ、スーベルハーニはどうなった?」
「あの、どこにも、いらっしゃらないそうです」
どこにもいない? どういうことだ? 遺体が見つからないということは、恐らく死んではいないのだろう。なら、逃げだした? あの幼さで自分の判断で逃げたとは思えない。むしろ助けようとするだろう。報告ではよくなついていたようだし。
ならば結論は一つ。おそらくスランクレトが逃がしたのだ。あやつは元からスーベルハーニをここにかかわらせたくないと思っていた節があった。
「追いますか?」
目の前の人物も同じ結論に達したのだろう。そう問いかける。ふむ、どうしようか。
「……いや、いい」
わざわざ身近に毒ともなりえる存在を置く必要もないだろう。必要になった際にまた探せばいい。今はそれよりもやらなくてはいけないことが多すぎる。
「本当に余計なことを」
思わず最後に一つ、恨み口を漏らしたのは許してもらいたい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
妙に酒を飲まされて、目が覚めたのは昼近くだった。その時には宿舎内が騒がしく、とても嫌な予感がした。
なぜか私に強い酒を勧めてきたのに、自分は水。そいういった真似をするのが珍しく、なにかわけがあるのだろうとは思った。だから、今日はそれに騙されてやろう、と。その時からずっと嫌な予感はしていた。私にいきなりスーベルハーニ皇子が生まれた際の話をしたことも。
「副隊長!
目、覚めてますか!」
「ええ、起きています。
一体何があったのですか?」
「何がって、その……。
隊長が、亡くなったと」
亡くなった。その言葉が耳に入ってきて、最初に思ったのは、ああ、やっぱりという感想だった。それなら昨夜の行動の意味が分かる。でも。
「どこでですか?」
「それが、南門近くの城内でやられていたらしく」
城内。最も安全でなくてはならない城内で皇子が殺された。この事実が他国にどうとらえられるのか、あいつはわかっているのか? いや、きっとそこまで頭が回らないのだろう。
「それと、神剣と……、スー皇子も見当たらず」
「皇子が!?」
神剣とスーベルハーニ皇子が消えた。それから考えられるのは、スラン皇子が何かした、ということだけだ。きっと神剣を正当な主に渡し、ここから逃がした。きっと元からそのつもりだったんだ。でも、ならばこそ。
「私も、巻き込んでくださいよ……」
「あの、副隊長?」
私をこの貴族の世界にとどめたあなたがいないのならば、今すぐにでも去りたい。でも、最大の釘として約束を用意してしまった。スーベルハーニ皇子を助けるという、この国の中枢にいないと果たせない約束を。最後の約束となってしまったこれを、私が破ることができないなんてきっとあの人にはお見通しだろう。
今はどこにいるのかわからない。でも、どうか無事に逃げ切ってください。私が力になれることは本当に少ないですが、それでも精一杯お役に立ってみせましょう。
恨みますよ、スラン皇子。あなたが巻き込んだ騒動に、私を取り残していったことを。でも、親友として支えて差し上げます。
「まずはこの隊を守らなくては」
さあ、やることは多い。すぐにでも動き始めなくては。ねえ、スラン皇子。あなたが引き起こしたこの騒動が終わったとき、その時なら私が涙をこぼしても許してくださいますか?
今はこのつらさに蓋をしましょう。これは今必要ない。でも、いつか必ず思い出せるように。あなたを悼めるように、大事に鍵を付けてしまっておこう。
今立ち止まったらきっと、もう動けなくなるから。でもそれではだめだ。
「すべてが終わった後に、絶対に文句を言ってやる」
今は、動き続けなくては。
「副隊長、な、……いえ、なんでもありません」
30
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる