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3章 冒険者養成校
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しおりを挟むこっち、と楽しそうに手を引くケリー。さすがにそれに逆らうことはできない。
「ハミルとか、フィーチャの話、聞きに来たんだろ?」
「……え?」
「喜ぶよ、きっと」
それ以上ケリーは何も言わなくて。さっき、シラジェさんは確かに俺のために皇国に手を出したと言っていた。どうして。
「どうして、そんなに優しいんだよ……」
こんなに醜い俺なのに。何の価値もない俺なのに。どうしてそんなに助けてくれる?
「違うよ、ハールが優しいんだ。
だから皆助けたいと願う」
「俺、優しくない」
「じゃあ、そういうことにしてあげるよ。
あ、そうだ。
親父、この国の王太子の話していた?」
「王太子の話……?」
「忘れたのかよ……。
この国の王太子、キンベミラ・オースラン殿下っていうんだけどな。
その人、ハールが提案した商品に妙に食いついたんだ。
それでこれを発案したのは誰だって聞かれて。
勝手に答えるのもどうかと思って、今はもう抜けてしまった人、とだけ答えたんだけど……。
妙にそれが必死だったからさ。
一応気を付けておいた方がいいかと思ったんだ」
俺が提案した商品……。そういえば、いろいろ言ったな。水運びが楽になるようにと、ボール型の水入れ、暇すぎて作ったチップという名のオセロ、あとハサミ……、等々。懐かしい。それに反応した? まあ、今はいい。
「わかった、ありがとう」
「うん。
あ、着いたよ」
先日例の服飾店の家が大きいと驚いたが、こちらはそれ以上だった。大人数で住んでいるのだ、あちらよりも大きいのは当たり前かもしれないが……。まあ、いい。
「ハール!
本当に来てくれたのね!」
「ううう、ぐすっ」
「すっかり大きくなってなぁ」
まさか、こんなにも歓迎されるとは……。というか、勢ぞろいしている。なぜ。いや、ハミルさんたちがいるのはありがたいけれど。
「ご飯食べていって!
ああ、本当にハールだ……」
「あ、ミグナさん、手伝います」
「え、あの、この子誰?」
なんか小さい子が俺の足しがみついてきている。こんな子、いなかった。遊んでほしいのか?
「あ、その子ナミカとブラザの子だよ。
向こうで先日生まれた子も寝てる」
「ナミカさんとブラザさん!?
そ、そっか……、おめでとう」
「本人たちに言ってよ」
ほらこっち、と呼ばれた先にはすやすやと眠る赤子。……かわいい。……、ナミカさんとブラザさん、そこからここへ、命がつながっているんだな……。少しして、シラジェさんも帰ってくる。ああ、皆そろった。
「ほら、ご飯できたよ!」
机の上には乗り切れないほどのごちそう。これを短時間に作れるわけがない。
「……おいしい」
「ふふん、だろ!
あの頃から味付け変わってないからな~」
「そうそう。
お金は前よりもずっと持っているんだけどね」
小気味よく笑う声に、ひどく懐かしい味。そう、懐かしいんだ。皆のことも、この味も。あの時はずっとうつむいていて気が付けなかったけれど、きっと、俺はとっくにこの人たちを……。
「ハール?
泣いているの?」
「泣いていない」
泣いてなんか、いない。泣くなら、全部終わってからだ。
「それで?
俺たちに聞きたいことがあるって?」
夕食後、ミハルさんがそう話しかけてくれる。その奥ではシラジェさんがうなずいていた。話は通しておいてくれたらしい。そうだ、どんなに楽しくても、懐かしくても俺がここに来た目的を忘れてはいけない。
「うん」
「じゃ、上行こう。
俺たちの部屋があるんだ」
上に行くとたくさんの扉が。やっぱり見た目広いだけある。その中の一部屋に俺たちは入っていった。
「聞きたいのは皇国のことか?」
「うん」
すると、どこから話したらいいかな、と頭をガシガシするミハルさん。そんななか、始めに口を開いたのはフィーチャさんだった。
「そうっすね。
まず、俺たちが商売している相手は、基本貴族っす。
平民は貧しすぎて、俺たちの商品はあまり買えないんす」
貧しすぎて買えない。そんなこともあるだろう。ここの商品は以前と違ってなかなか高い。もちろんその分質もいいのだが。
「おい、口調」
「あ、ごめんなさい。
それで、えっと、だから、どちらかというと俺らが知っているのは貴族の暮らし、かな」
「正直、平民の暮らしはひどいものだ。
かなり疲弊していると言えるか」
「そう、ですか」
思い出すのは活気がある市場。あの人達は今何をしているのだろうか。元気に、暮らしてくれていたらいいのだけれど。
「貴族も内部腐敗が進んでいるといった様子か。
民があんなにも疲弊しているのに、貴族たちは移動商会という見ようによっては怪しいところから、自由に買い物をしている。
皇宮には行ったことがないが、どうやら皇后陛下がかなり、その、あれな人らしい」
あれな人。どうやら、人間性ができていないのは変わっていないらしい。それにしても、このふたりは一体どこまで潜り込んでいる? 貴族を相手にしているというだけで危ないのに、皇后陛下の情報が入るほど? それはどれだけ中枢に近い。
「そんな顔しないで。
もう皇国には行かないよ。
前回のが最後の商会だったんだ」
「最後?」
「ああ。
現状は大方わかったし、さすがにこれ以上は危険だと言われてね。
そうだ、向こうで聖女のようにあがめられている人がいたよ」
「聖女?」
「そ。
皇妃様の双子の皇女様たちだ。
あんな中各地を回って、施しているらしい」
皇妃様の皇女……。会ったことはないな。施しか。ついつい裏を疑ってしまうが、どうなのだろう。
「ハール?」
「あ、ごめん。
それで?」
「それで……。
えっと、整理すると、平民は貴族の取り立てや不作によってかなり消耗している。
現皇室にかなり不満がたまっているようだ。
特に皇帝陛下と皇后陛下に。
そんな中でも双子の皇女様方が、炊き出しなどを行うことで平民の人気を集めている。
その影響もあり、同腹の兄である第一皇子が平民には人気だと思う。
皇后陛下はかなり自由にふるまわれているらしい。
平民があんな状態なのに、今も金を惜しみなく使っていると。
まあ、直接的な言葉を口にされることは決してなかったが、貴族のご夫人は擁護派と批判派がいる感じか。
ま、皇后側にたてばいろいろと便宜を図ってもらえるらしく、それにすがりたい人にとっては、な。
そんななか、一番の問題は後継だ。
いまだ皇太子殿下が決まっていないみたいで、平民人気の第一皇子になるか皇后陛下のごり押しで第二皇子になるかでごたごたしている、と。
こんなものか」
よく、ここまで集められたな。かなり詳しい事情だ。つまり、自分を着飾ることで精いっぱいで下を見れていない、と。それに加え、ただ自分の子を皇帝にすることしか見えていない。成人してなお、精神年齢あんなに低かったあいつに国を治められるはずがないのに。さすがにあいつのもとで、7年間で心入れ替えることもないだろう。
相変わらずな性格なようで、同情心が一切いらずに済む。
「よくそこまで潜り込めましたね」
「兄貴は貴族相手でも堂々としていて、本当にすごかったっす。
俺が活躍できたのは、結局平民相手だけっした」
「十分役に立ってくれたよ。
俺も別に貴族の相手が得意なわけではなかったし。
ま、皇后陛下が出てきそうになったから、さすがに帰ってきたが」
「こ、皇后陛下!?」
「そう。
次行ったら本当に紹介されそうだったから、あわてて帰ってきたんだ」
「よ、よかった……。
無事に帰ってこれて」
皇后陛下にまであって、実際オースラン王国の商会だったとばれたら……。想像だけでぞっとする。そう考えると、オースラン王国がサーグリア商会が皇国で情報収集しているとわかっていてよかったと思える。うん、とりあえず、思っていた以上の収穫があった。
「ありがとうございます。
ここまで詳細に教えいただいて」
「いや。
ハールが欲しい情報はあったか?」
「はい」
「それはよかった。
寮まで送るか?」
「大丈夫です。
それでは、また」
ミハルさんにフィーチャさんに、他のみんなも。一通り別れの挨拶を済ませて、一人寮へと戻っていった。
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