59 / 178
3章 冒険者養成校
18
しおりを挟むまず、魔獣の量がおかしい。倒しても次から次へとやってくる。しかも強い!
確実に弱点を狙って、そんなことを考えている余裕すらない。というか、弱点なんてわからないのが多い。魔獣を認識する。炎、氷、風、そして土。その時ぱっと思いついたものをすぐに口にする。そして動きが鈍ったところで剣でとどめを刺す。ああ、血が噴き出す。これは確かに返り血を浴びるかも。
3人とも魔法以外の言葉を口にしようとしない。先生たちは基本監視体制らしい。とにかく無言でひたすら倒していく。そしてけがをしたらフェリラに治してもらう。その繰り返し。
時折フェリラが射っているいるらしい矢が横を飛んでは天井や床にいる魔獣、とにかく何かしらにあたっていく。はたしてこれはフェリラのコントロール力のおかげなのか、それほど魔獣がいるという証なのか。
そしてそうしていると奥の方からうなり声が聞こえてきた。それだけで空気が揺れる。今までのやつらとは違う……。もしかしてあの時の中長、みたいなやつか?
「ミノタウロス?」
つぶやいたのはリキート。ミノタウロス。聞いたことはある。じりじりとほかの魔獣を相手にしつつ、中長の様子を伺う。今までは奥で座っていたミノタウロスが不意に立ち上がった。来るか?
ああ、見つかったな。こちらを見ている。そしてうめき声、いや、雄たけびを上げる。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うぐっ!」
「っ!」
なんだ、これは。声だけで周りにいた魔獣がバタバタと倒れていく。俺もいまだにびりびりとしびれている。そしてそいつがにやりと笑った。
「ぐっ!」
ガキン! と火花が散る。いつの間に! ほぼ目では見えていない。条件反射で何とかしのいだようなものだ。このまま脳天ぶち抜きたいが、無理。
「ハール!」
「リキー、ト」
こっちはいいから、自分のこと考えろよ! そう思っていても口に出せる状況じゃない。だめだ、力で勝てるわけがない。
『ハール』
(うん、お願い)
言った瞬間、先ほどよりも力が出る。そしてぱきっ、という音がした。角が割れた? するとミノタウロスが身を引く。と思ったら、今度はリキートの方に行った。大丈夫か!?
「くそっ!」
おお、避けた。そして剣で挑むのではなく、魔法でミノタウロスに攻撃していく。初回のダンジョンの時、決して魔法を使わなかったが何か心境の変化があったらしい。今日は魔法を使っている。
っと、感心している間はない。
「フェリラ、少し離れていろ」
さすがに魔法をまとわせてもいない矢はおそらくあいつには効かない。下手に手出しされるくらいなら何もしないでほしい。
さて、どうやって倒すか。
(シャリラント、こいつの弱点は?)
『そうですね……。
首を狙うのが一番かと』
首か。あんなにがっしりしてそうなのに、あそこが一番いいのか。まあ、シャリラントがそういうならそうなのだろう。首か……。
「土の刃よ、ミノタウロスの首を貫け」
床に手をつき、そう唱える。だが、さすがに無理があったようだ。土は途中まで盛り上がるも、首まで届かずに終わる。だが、予想外の収穫があった。
俺が思っていたのとは違ったが作り出した土の刃は、そのままミノタウロスの足を貫いてくれた。動きが止まる。その隙を見逃さずリキートが剣を突き立てた。だが場所が悪い。シャリラントが手助けする中、走りよる。そして首をめがけて剣を振りかぶる。ずしり、と剣を持つ手に重みがかかる。これは俺一人の力では掻き切れない。だが、剣は途中で止まることなくミノタウロスの首を刎ねた。シャリラントが力をかしてくれたのだ。
「いやー、まさか本当にこいつに勝っちゃうとは」
「いや、笑い事じゃないんですけれど」
「でも、本当に君たちは期待以上だ。
さあ、上に行こう」
上? あ、確かにあいつがいたところの後ろになんだか階段が見える。これ、階が上がったらどうなるんだ……?
こっちは恐る恐る上っているのに先生たちはまったく気にしていない。って、なんだが魔獣たちが皆倒されている……?
途中でたまに出てくる魔獣を先生たちが倒しながらも無言のままとにかく登っていく。一体どのくらい登っただろうか。不意に明らかにやばそうな扉が現れた。大きく、豪華な扉。絶対長だろ……。
「行きますよ」
行きますよって……。さっきからとにかく説明が足りなすぎる。従うしかないからちゃんと従うが。そして、重そうな扉がゆっくりと開かれた。
中で誰かが戦っている? そんな音が絶えず聞こえてくる。俺の中でダンジョンの長と言えば、フェリラの村のやつだ。だからきっと真っ白な、そんなものを想像していた。だがこの部屋にいた長は濃い灰色、といった色合いで、ぎょろぎょろと目を動かしていた。気持ち悪い……。そして足が、動かない。
しかも何か黒い靄が覆っている。見間違えではない、よな? それの圧力がすさまじいのか、収まっていた冷や汗がまた噴き出してきていた。
恐らくダンジョンに入ったときに感じていたものは、これだ。大切なものを失うといった恐怖とは違う、本物の命の恐怖。手負いの獣が放つ殺意はすさまじいものがある。
そして謎の男と戦っていたそいつは不意にこちらに狙いを定めた。
「え……?」
来る、そう思った瞬間には長は倒れこんだ。そして苦し気なうめき声を上げ始める。これだけで空気が震えている……。
『クルシイ……、イタイ……、ナンデ……』
……え? 今のは、一体? 疑問に思っている間に長の体は消えていく。誰も、なにも反応しない。聞こえていない……?そしてそのあとに残ったものを謎の男は手に取った。
「はー、やっと終わった」
「お疲れ様です」
そう息をついた、謎の男。あの顔って……。
「イシュー、さん?」
サーグリア商会と旅をしていた時、一度一人で外を歩いた時がある。その時に声をかけてくれた男性。なぜか今まで忘れることはなかった。なんでここに?
19
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる