62 / 178
3章 冒険者養成校
21
しおりを挟む今日の会場は王立学園らしい。遅刻しては大変なので早めに養成校をでることにした。朝ごはんもしっかり食べることができた。寮に関しては大会終了後にこちらで行う卒業式のようなもの、それが終わった後で退出らしい。贈呈されるのは卒業証書ではなく冒険者のランクだが。
大会は2日間。今日は予選で明日が本選だ。まあ、バタバタするだろうともう荷物はまとめている。そもそも全然荷物はないが。予選では王族は見に来ないようなので必ず本選に残る必要がある。気は抜けない。
「あああ、き、緊張してきた……」
「そんな緊張しなくても。
フェリラは直接対決はしないんだろ?」
「うん……。
あたしは弓しかできないから」
「しか、じゃないだろ?」
「……うん!」
お偉いさんの退屈な話を聞き流してやっと大会が始まる。さすが王立学園の学生。いかにも金持ちといった様子なやつもいる。本当に戦えるのか? ってくらい。でも確かに強そうな人もいる。警戒すべきはそいつらか。
ちなみに俺とリキートが出演するのは魔法剣部門。名前のまんま魔法と剣両方使える人の部門だ。本選は部門混合になるみたいだが予選は別々らしい。
魔法剣部門の出場者が集まるところに行くと、明らかに場所違い。他の部門よりも出場者が少なめか? あー、視線がいたい。肩身狭いわ。
「はっ、高貴な出でもない癖に魔力もちか。
運がいいことだな」
「くく、どうせまともな使い方もできないやつだろう。
当たった人運がいいな」
「ま、見ものじゃないか?」
くすくすと笑う声が聞こえる。余裕があるようで何より。ま、そんなのいちいち気にしないが。隣にいるリキートもそれは同じようで平然としている。それが面白くないらしいやつらはまたそれに対して何か言っていたが、まあ知らない。
そして先に俺の番が回ってきた。
「よろしくお願いします」
「はは、俺ラッキーだわ。
まさか養成校行ってるようなやつと当たれるなんて」
相手の実力が測れないってそれだけ自分と能力値離れてるって公言しているようなものだけれど、まあいいや。
相手の命を奪うことや体の一部を切り落とすことはもちろん禁止だが、別に怪我させるのはいいらしい。なにせ治るから。ということで遠慮なく。
「はじめ!」
言葉と同時に一気に距離を詰める。一応部門的に魔法と剣、両方使った方がいいらしいので、ここで風を使っておく。そして剣をその喉元に突き付けた。その間相手は一歩も動いていない。
「しょ、勝者、ハール!」
審判員が俺の名を呼ぶと同時に周りがざわつき始める。相手は未だに呆然としている。ま、あっというまに決着付けたからな。
「さすがハール!
あっという間だったね」
「まあ、言葉だけの弱者は倒すの簡単だよね」
しかも自覚のない弱者はもっと楽。自分が強いと思い込んでいるからな。次のリキートももちろん即決着がつく。まあこんなもんだろう。
2回戦目の相手は、1回戦目と違ってちゃんとしたやつだった。挨拶もちゃんとしたし、油断もしていない。ということで多少は時間がかかったが、まあこれも勝った。よかった、これだったら本選にはちゃんと出れそうだ。
さすがに回を重ねるごとに対戦相手も強くなってくる。剣に魔法に、お互いが出し合って火花が散る。初戦がいかにぼんくらだったかわかるよな、本当に。
「正直、養成校の人がここまで戦えるとは思わなかったよ。
剣の扱いに長けている人はいると聞いていたが、魔法はうまく扱えない人がほとんどらしいからな。
だが、君も、もう一人も同程度扱える。
さすがだよ」
「あ、ありがとうございます」
と、なぜか上から目線でほめてきてくれる人も。本当に人それぞれ。まあとにかくそんなこんなで俺たちはなんとか本選に残ることができた。
「あ、あたし、明日は二人のこと応援しているから。
そのために、わ、わざとだから……!」
「うんうん、ありがとうな」
「フェリラも頑張ったよ」
どうやらフェリラは本選に残れなかったらしい。でも十分頑張ったのだろう。泣きそうになりながらも必死にそういっている。どれだけ正確に的に当てられるか、という部門だったらしいが、その武器は様々。弓を初めて一年ほどのフェリラには厳しかったろう。
まあ、俺もリキートも一年以上やっているからな。でもそれ以上に、魔獣を相手に実技をこなしてきた俺たちにとって自分の魔法とか剣技とか、そういったものを見せつけたいだけのやつと対戦で戦うのは楽勝。だが、的を射るというのはまた話が違う。本当に仕方がないと思われる。
「うん、ありがとう、慰めてくれて。
もう大丈夫。
本当に頑張ってね、明日も!」
「ああ」
「もちろん」
フェリラも回復したところで、今日はもう寮に戻る。明日に備えないと、というのは確か。でもどうしてもサーグリア商会に顔を出していきたかったのだ。次にいつ会えるのか、そもそも会えるのかもわからないから。
行ってらっしゃいと二人が見送る中、サーグリア商会、というよりも家の方に向かう。事前に伝えていたこともあって温かく迎えてくれた。
そしておいしいご飯を食べて、たわいもない話をして。そんな普通なら何ともない時間もとても大切に思えた。ああ、本当に。俺が本来望んでいたものはこういうものだったはずなのだ。こういう幸福な時間の、かけがえのない一人になること。どうしてこんなになっているんだろうな……。
久しぶりに嫌な奴を思い出した。
19
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる