『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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3章 冒険者養成校

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 次の日、ちゃんと用意しておいた服を着る。これだと例の国章が浮かんでしまうのは確認済み。知らず、心拍数があがるのがわかる。緊張しているのか。

 これでうまくいかなくてもどうにかなる。自分の足で動けばいいだけだ。だから今はとにかくできることをするだけ。

 本日はオースラン王家の御臨席もございます、という司会者の言葉に示す方向を見てみると人が立ち上がって手をふる。ここからでは顔はあまり見えないが、あそこか。いかにも豪華で居心地がよさそうな空間が構成されている。後はタイミングを見計らおう。

「ハール、大丈夫?
 ……何か手伝えることがあったら言ってね」

「うん、ありがとう」

 さて、今日までいろいろと考えてきたが、最終的には運任せ。さすがに明らかに脱ぐのははばかれるし、一番はこの状態のまま気づいてもらえること。次点で服が破れるかなんかして、か。狙ったことをするには相手との実力差が必要。だが本選にまで残った人たちだ。それなりに強い。

 そんなことを考えていても仕方ない、という結論に至るしかない。そしてあっという間に俺の順番が回ってきた。初戦は剣部門の人が相手。絶対的なルールではないが、剣相手なら剣で、魔法相手なら魔法で、といったように基本的に俺たちは相手に合わせて戦い方を変えることを求められている。初戦は俺がきちんとしていると思われた方がいい。ちゃんと剣だけで戦おう。

 リキートに頑張れ、と言われながら舞台に上がる。予選では観客はいなかったが今は違う。いろんな声が飛び交っている。なるほど舞台からはこんな風に見えるのか。ぐるりと人が座っている。で王家の席はあそこ、と。

「よろしくお願いいたします」

「よろしく。
 ずいぶんといい剣だね。
 いいなぁ」

 にやりと笑うそいつ。気持ち悪い。一体何が言いたいのか。

「なあ、俺が勝ったらそいつ、俺にくれよ」

「……は?」

「貧乏人が持つには不相応だろ」

 じゃあそういうことで、と勝手に話を切り上げるな。こいつは俺の相棒だ。そうやすやすとあげるわけないだろう。取り上げているのに慣れているかのような言いぐさ。高貴なお方がただ巻き上げる、なんてしないよな。

「じゃあ、俺が勝ったらあなたの持っているものくださいね」

「あ?」

「まさか、あなたのような高貴なお方が、私のような貧乏人から巻き上げるだけ、とはいかないですよね?」

「あ、当たり前だ!」

 よし、言質はとった。ということで張り切っていこう。

「初め!」

 前回の初回と同じように一気に距離を詰める。今回は魔法を使わない。だがさすがに今回は防がれる。そこから押してみるが、だめ。やっぱり本選に残るだけある。一度引こうとするも、向こうが追いかけて無理。なんでこんなにしつこいんだよ!

 埒が明かない。横に多少でも流した後に少しだけ風の力を借りて後ろに大きく下がる。魔法を使ってしまったが、これくらい許容範囲、というかばれてもいないだろう。これで立て直せる。ああ、はやし立てる声がうるさいな。もう終わらせよう。


「な、なんで……」

 がくりとうなだれる対戦相手。まあ、意外にも強かったが負けるほどではない。そして悔しそうな顔のまま自分の剣を差し出してきた。これまた意外だが、義理は通す性格なのか?
 
「いらないよ、別に」

「……は?」

 相手が呆然としている間にさっさと退散。今そんなのもらったって邪魔になるだけだし。言ってみただけで本当に差し出すとは思わなかったのだ。ということで初戦は快勝。今の試合のおかげで王族の席も把握できたからありがたい。

 そして控室に戻ってくるとなぜかリキートの顔色が悪くなっていた。緊張で体調でも崩したか? でもなんだか俺を見る目自体変わった?

「リキート?」

「え、あ、何……?」

「何って……。
 顔色悪いけれど大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫……」

 本当に大丈夫か? と不安になったものの、ちゃんと試合には勝ってきた。そのあと声をかけるといつもよりも口数が少ない。そんなリキートの試合を見守った後は第二回戦。不安だったが、リキートも順調のようだ。次は俺たちと同じ魔法剣の人だからどちらも自由に使える。とうとうしっかりと魔法を使うときが来た……。深呼吸をして舞台に上がる。この人は昨日当たらなかったから、どういう人なのか全然わからないな。

 じりじりと距離を詰める。何となく、今までどおり突っ込むのは危険な気がしたのだ。相手もこちらを伺っているから全然動かない。今まで魔獣を倒すことばかりしてきたから、正直対人戦は苦手だ。相手の実力が明らかにしたならいいのだが、互角だと下手に魔法を使おうとすると相手を必要以上に傷つけそうだ。

 だから。小手調べもあり、ひとまず風で攻撃を仕掛けてみる。見えない刃なのにきちんと防いでいる。やっぱり強いか。

 とにかく動かないと仕方ない、と仕掛けてみる。そのあとも剣で斬り結び、魔法でお互いに仕掛けあい、その繰り返し。俺は魔力が有り余っているし、疾走するのも風の手助けがあるからだいぶ楽。魔力が俺よりも少ないらしい相手の方が先にへばっている。

 結論は俺の粘り勝ち。息も荒く集中力が落ちてきたところを狙って、死角に潜りこんだのだ。これでようやく決着がついた。魔力の差がなくても、実力は同程度だったと信じたい。

「ありがとう、ございました」

 何とも言えない目でこちらを見てくる対戦相手。何かわかっているかはわからないが、確かに対戦中、魔法を使うたびに胸元が光っていた。それに気が付いたか? とにかくやれるだけのことは、やった。

 さてこれ以上戦う理由は特にないが、大会は続いている。せっかくだからちゃんと最後まで参加しようとは思う。貴重な対人戦だしな。

 結局、俺もリキートもいいところまでは行ったのだが最後まで残ることはなかった。慣れない対人戦、そして一日に何回も繰り返してから疲れたのだ。剣も魔法も思い切り使えればまた別なのかもしれないが、間違って治らない怪我でも負わせたら大変と気をつかうことのがここまで大変とは……。まあ、もうそこまで頑張る理由もないので特に悔しくはなかったが。

 そして最後まで大会を見守った後、俺はとある人物に呼び出された。

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