71 / 178
4章 皇国
7
しおりを挟む
どうしよう、とリヒトから視線を逸らすと目に移ったのは困惑顔の二人だった。って、そっか。二人にはこちらの会話は聞こえていないから、急にシャリラントが現れてなおかつ馬車の空気冷たくして帰っていっただけだもんね。てっきり感覚的に気温が下がっただけかと思っていたけれど、本当に下がっていたようだ。
少し気の毒には思うけれど、今はとにかくリヒトとの話が優先だ。そっとリヒトを伺うと、シャリラントが去った直後は愕然と言った様子だったリヒトだが、少し回復したらしい。何かを考えこんでいる様子だったか、ふとこちらに視線を上げた。
「リヒト……?」
「あ、はい。
えっとなんの話でしたっけ?」
きょとんとするリヒト。なんだかすみません。シャリラントの話が出てきたからちょうどいいかと思ったけれど、話が全部終わった後の方がよかったか?
ぱちぱちと数回瞬きをした後、ああ、と小さくつぶやいた。そして仕切り直すように
「先ほどの話……」
「え?」
「シャリラント殿の先ほどの話、忘れないようにします。
ス、スーハル、皇子は皇国が赦された証拠など、そういうのではないと。
でも、あの国、いや国を問わず周りの人はそういう捉え方をする人がいることを覚えていてください」
あなたのためにも。そう言うリヒトに素直にうなずく。知っているということは大切だ。さて、あとは何を聞けばいいんだっけ。第一皇子がなんでクーデターを起こしたいかはわかった。後、皇后が第二皇子を皇帝にしたいことはわかった。あとは……。
「ああ、そうだ。
ちなみに、第二皇子は一部の人からは支持を受けています。
それらは私腹を肥やしたいだけの、碌のやつではないのでわかりやすいですね」
あ、はい。第二皇子を支持するなんてどんな奴? と思っていたけれど納得ですね。愚鈍なやつが上に立てばそれは操りやすいでしょうよ。
「そういえば、皇国に聖女がいるという話を聞いたんだけれど」
ふと口をついて出たのはそんな言葉。ミハルさんたちの言葉を思い出すことで、ふと思い浮かんだのだ。確か双子の皇女がそう呼ばれている、と。
「そのことをご存じだったのですね。
そう呼ばれている方々はいらっしゃいます。
皇妃殿下のご息女、サラジシア皇女とララベシア皇女のお二人のことです。
兄であるキャバランシア皇子の力になろうと、未だに嫁がれてはいません。
「そ、そうなんだ?」
未だに嫁いでいないことはわかった。でも、貴族がどれくらいの年齢で結婚するものなのかよくわからないのだ。成人したら嫁げるようになるのは知っているが、そこは前世の感覚が邪魔をする。20歳にもなっていない歳では結婚していないのも当たり前では、と思ってしまうのだ。
「あの、他の皇女は?
というか、他の皇族は?」
もう手っ取り早く全部聞いてしまえ! と尋ねると、リヒトはすらすらと答えてくれた。さすがに第一側妃が実家へと戻り、子である第五皇子が皇籍を抜けて側妃の実家を継いだというのは驚いた。ちなみに同腹の姉である第二皇女は結婚している。また、第二皇子の同腹の妹である第一皇女は皇后の祖国に嫁ぎ、結婚していない皇女は先ほどの二人だけ、と。
皇子については、第一皇子、第二皇子、第五皇子は言っていたとおりであり、第四皇子は現在騎士団に勤めている。この第四皇子、かなり微妙な立場らしいく、未だにどちら派にもついていないようだ。第六皇子は第一皇子を支えているようだ。
ううん、なるほど。唯一、第四皇子だけがよくわからないのか。まあ、皇位を狙っているのでないのなら勝つ方につきたいよな。他は思ったよりもまとまっている。皇子が6人もいるのに不思議なくらいだ。まあ、この辺はひとえに皇位に興味がある人が少ないからこそだろうが。
「他に何か聞きたいことは?」
「あとは……、妃のことくらい?」
「ああ……。
皇后と第一側妃は先ほど申し上げた通りですね。
皇妃は第一皇子に従っている、と言った感じでしょうか。
積極的に権力を欲しているわけではないようですが、第一皇子を止めるわけではない。
第二側妃は下手に巻き込まれないように様子を見ているところです」
じゃあ、警戒するべきは皇后くらいか。厄介な状況ではあるのだろうが、警戒すべき人が絞れているのはありがたい。……いや、まあほかの貴族はわからないが。
そんな話をしているうちに馬車は動きを止めた。思っていたよりも時間が経っていたようで、外を覗くともう暗くなり始めていた。今日はここで泊まっていくのだろう。
少し気の毒には思うけれど、今はとにかくリヒトとの話が優先だ。そっとリヒトを伺うと、シャリラントが去った直後は愕然と言った様子だったリヒトだが、少し回復したらしい。何かを考えこんでいる様子だったか、ふとこちらに視線を上げた。
「リヒト……?」
「あ、はい。
えっとなんの話でしたっけ?」
きょとんとするリヒト。なんだかすみません。シャリラントの話が出てきたからちょうどいいかと思ったけれど、話が全部終わった後の方がよかったか?
ぱちぱちと数回瞬きをした後、ああ、と小さくつぶやいた。そして仕切り直すように
「先ほどの話……」
「え?」
「シャリラント殿の先ほどの話、忘れないようにします。
ス、スーハル、皇子は皇国が赦された証拠など、そういうのではないと。
でも、あの国、いや国を問わず周りの人はそういう捉え方をする人がいることを覚えていてください」
あなたのためにも。そう言うリヒトに素直にうなずく。知っているということは大切だ。さて、あとは何を聞けばいいんだっけ。第一皇子がなんでクーデターを起こしたいかはわかった。後、皇后が第二皇子を皇帝にしたいことはわかった。あとは……。
「ああ、そうだ。
ちなみに、第二皇子は一部の人からは支持を受けています。
それらは私腹を肥やしたいだけの、碌のやつではないのでわかりやすいですね」
あ、はい。第二皇子を支持するなんてどんな奴? と思っていたけれど納得ですね。愚鈍なやつが上に立てばそれは操りやすいでしょうよ。
「そういえば、皇国に聖女がいるという話を聞いたんだけれど」
ふと口をついて出たのはそんな言葉。ミハルさんたちの言葉を思い出すことで、ふと思い浮かんだのだ。確か双子の皇女がそう呼ばれている、と。
「そのことをご存じだったのですね。
そう呼ばれている方々はいらっしゃいます。
皇妃殿下のご息女、サラジシア皇女とララベシア皇女のお二人のことです。
兄であるキャバランシア皇子の力になろうと、未だに嫁がれてはいません。
「そ、そうなんだ?」
未だに嫁いでいないことはわかった。でも、貴族がどれくらいの年齢で結婚するものなのかよくわからないのだ。成人したら嫁げるようになるのは知っているが、そこは前世の感覚が邪魔をする。20歳にもなっていない歳では結婚していないのも当たり前では、と思ってしまうのだ。
「あの、他の皇女は?
というか、他の皇族は?」
もう手っ取り早く全部聞いてしまえ! と尋ねると、リヒトはすらすらと答えてくれた。さすがに第一側妃が実家へと戻り、子である第五皇子が皇籍を抜けて側妃の実家を継いだというのは驚いた。ちなみに同腹の姉である第二皇女は結婚している。また、第二皇子の同腹の妹である第一皇女は皇后の祖国に嫁ぎ、結婚していない皇女は先ほどの二人だけ、と。
皇子については、第一皇子、第二皇子、第五皇子は言っていたとおりであり、第四皇子は現在騎士団に勤めている。この第四皇子、かなり微妙な立場らしいく、未だにどちら派にもついていないようだ。第六皇子は第一皇子を支えているようだ。
ううん、なるほど。唯一、第四皇子だけがよくわからないのか。まあ、皇位を狙っているのでないのなら勝つ方につきたいよな。他は思ったよりもまとまっている。皇子が6人もいるのに不思議なくらいだ。まあ、この辺はひとえに皇位に興味がある人が少ないからこそだろうが。
「他に何か聞きたいことは?」
「あとは……、妃のことくらい?」
「ああ……。
皇后と第一側妃は先ほど申し上げた通りですね。
皇妃は第一皇子に従っている、と言った感じでしょうか。
積極的に権力を欲しているわけではないようですが、第一皇子を止めるわけではない。
第二側妃は下手に巻き込まれないように様子を見ているところです」
じゃあ、警戒するべきは皇后くらいか。厄介な状況ではあるのだろうが、警戒すべき人が絞れているのはありがたい。……いや、まあほかの貴族はわからないが。
そんな話をしているうちに馬車は動きを止めた。思っていたよりも時間が経っていたようで、外を覗くともう暗くなり始めていた。今日はここで泊まっていくのだろう。
19
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる