『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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4章 皇国

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 リヒトと別れた後、俺はすぐに寝る準備をして布団にもぐりこんだ。目を閉じてもあの、第一皇子の視線が忘れられない。前世では何度か遭遇して、成長するにつれて俺は自然と『誰かの期待に応える』ことに気を張っていた。だからこんな感覚、久しぶりだ。こっちに来てからはやさしい人ばかりに会っていて、だからこんなことなかった。

 誰かに興味を失われて、失望されてショックを受けたことは。

 才能がない、いわゆる平凡な陽斗にかけられる期待は多くなかった。でも、いや、だからこそ失望が怖かった。少しずつ自分が孤独になっていく気がして、それが怖くて、『特別』を願った……。
 
「なんだか落ち込んでいますね」

「うわっ、びっくりした……。
 そりゃあね、まあ」

 自業自得とはいえ、そりゃ落ち込むよ。あんなことがあったあとじゃ。しかもそれに引きずられて前世のことまで思い出してしまった……。

「まあ、仕方がないのでは? 
 あなたが自分の頭を動かし始めたのはつい最近。
 いうなればまだまだ赤ちゃんなのですから」

「あ、赤ちゃん……?」

「そうでしょう? 
 今までずっと何も考えずに生きていたのですから」

 なんだよ、それ。俺は俺なりに考えて生きてきたのにさ。そんなに呆れたような顔しやがって。むっとしているそんな表情にすらシャリラントは楽しそうに笑って返す。

「悩めばいいんですよ、あなたは。
 ここから始めていけばいいのですから」

「ここから?」

 すでに前世と合わせて約35年生きているというのに。いや、ここまで生きて対して成長していない俺が問題なのはわかっている。

「ええ。
 いつからでも成長していけるというのは、人間の良いところですよ。
 存分に生かしていかなければ」

 いつからでも成長できる……。そう言ったシャリラントの表情が微笑んでいるようにも、悲しんでいるようにも見えて。どんな感情なのかわからない。
 
 シャリラントはそのままおやすみなさい、とついていた明かりが消してしまった。表情も見えなくなってしまったや。そのあとになんだか優しく頭を撫でられる感覚がした。俺、別に小さい子供じゃないんだけど……。でも、その手になんだか安心して、自然と瞼が重くなってきた。

 
 翌朝、昨日よりも幾分すっきりとした気持ちで目が覚める。焦っても仕方ない、と割り切ることができたわけではないけれど睡眠はやっぱり大事らしい。悩んでいても仕方ない。もう動き出してしまった以上、考えるとしても走りながらするしかない。

 うん、そうだよな。

「スーベルハーニ皇子、お目覚めでしょうか?」

「あ、はい!」

「中に入ってもよろしいですか?」

「どうぞ!」

 入ってきたメイドが洗顔用のお湯を持ってきてくれたようだ。それを機に朝の身支度を始めることに。朝食はリキートたちとも一緒に食べる予定、と。昨日は結局ここについて風呂に入った後は会えなかったから楽しみだ。

「おはようございます、スーハル皇子。
 よく眠れましたか?」

「おはよう、リヒト。
 うん、すごく寝心地がよかった……」

 ふかふかのベッドは、孤児院とか冒険者養成校の寮にあったものどころか、皇宮で暮らしていた時のものよりも高級なのではないかと思うほどだったのだ。あ、まあオースラン王国の王城のベッドも同じようにふかふかだったけれど、あの時は緊張していたしね。

「それは良かったです。
 朝食を食べ終わりましたら、今後のことを相談しましょう」

「はい」

 リキート、フェリラも合流してまずは朝食。リヒトはここまでの旅でもそうだったけれど、朝はあまり食べない派らしく、量は少なめだ。ちなみに、意外なことにリキートもそう。だから一番食べるのが俺、その次がフェリラとなる。食後のお茶までをきっちりともらうと、俺たちは昨日第一皇子とも話したあの部屋へと移動することになった。

「さて、まずはリキート殿とフェリラ嬢のことですね。
 あなた方には冒険者としての資質を存分に生かしてもらいましょうか」

「冒険者としての……?
 僕たちを例の騎士団にでも入れるつもりですか?」

「ええ。
 リキート殿はご存じのとおり、この国ではダンジョンの攻略は完全に国の管理下に置かれていますから」

「だけど、冒険者としての身分しか持たない僕たちがそう簡単に端くれとはいえ騎士団に入れるのですか?
 そのうえフェリラは女性だ。 
 妃殿下、皇女殿下のための女性のみで構成された隊ならまだしも、あそこに女性が入れるとは……」

「身分については大丈夫でしょう。
 私も力を貸しますし、第一皇子にもご協力いただけます。
 フェリラ嬢に関しては……、その、男のふりをしていただくのが一番かと」

 リヒトの言葉に、三人の視線がフェリラに集まった。フェリラが男のふり……。まあ、確かに恰好を男にして、そうだと言い張ればそう見えないこともないか。そう納得したところで、急に視線を集めて固まっていたフェリラが動き出した。

「あ、あたしが男!? 
 いくらなんでもそれは無理だろ……」

「ですが、それが一番確実なのです。 
 どうかご協力いただけませんか?」

「う、うう……」

 迷っている様子のフェリラは、そこでなぜか俺の方をちらりと見てきた。え、どうしろと? 俺に無理だ、やめておけと止めてほしいのか? でも、何となくそういう感じには見えない。

 そして、聞き取れないほど小さな声で何かを言ったかと思うと、よし、とうなずく。

「うまくやれるかわかんないけど、やって、みるよ」

「ありがとうございます」

「あれ……。
 でもそれだと、身分証が使えないのでは?」

 ぽつりとリキートが言う。確かに、性別を偽る以上本来のギルドカードは使えない。あれは色によるランクの証明と名前、性別、パーティの名前、魔法師か剣術士かと言ったことが書かれている。つまり、一発でフェリラが女性だとばれるのだ。

「それに関しては大丈夫でしょう。
 先ほども申し上げた通り、騎士団への入団は私と第一皇子が口添えをしますから。
 それと、男という以上、名前もどうにかしませんと……」

 名前? フェリラという男性がいても、まあおかしくはないかと思うけれど……。念には念をということか? それにしても名前、名前か。フェリラの名前は俺とかリキートと違って最初からシンプルなんだよな。

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