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4章 皇国
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「名前を変えるなら」
反応がしやすいようにフェリラのもとの名前から決めようと、全員で頭を悩ませていると、ふとフェリラが声を上げた。視線が再びフェリラに集まる。
「チェシャ、がいい」
「チェシャ、かい?
君が反応できる名前なら、まあいいのですが……」
元の名前とは全く違う提案に戸惑いを見せるリヒト。かくいう俺たちもどうしてその名前に? と顔を見合わせる。提案したフェリラはというと、どこか暗い表情だし。
「うん、ちゃんと反応できるよ。
だから、チェシャがいい」
「わかりました。
では、そうしましょう。
ああ、そうだ、これはその第一皇子から三人への伝言なのですが。
『余計なことは決してするな』だそうです」
リヒトの言葉に俺とフェリラがきょとんとする中、リキートだけが何やら苦笑いをしている。えっと、余計なこと?
「まあ、あなた方はただこの国でダンジョン攻略をしてもらうだけなので余計なこともできないでしょうけれど。
いいですか、あくまでダンジョン攻略だけです。
皇宮の中に関わろうとしないでくださいね」
「基本的には関わりたくないですよ、できればね」
リヒトとリキートの視線がかち合う。少しの間、そうしていたかと思うと不意に視線が外れた。そして、リキートはフェリラと共に部屋を出ていった。
「リキート殿は、相変わらずなのですね」
「相変わらず……?」
「もっと自分のことだけを考えられれば、もっと楽に生きられたでしょうに……。
いえ、そんなことを言っても仕方ないですね」
独りごとのようなリヒトの言葉。明確な返事をもらえたわけではないが、リヒトの中で何かしらの区切りがついたらしい。空になったカップに新しい紅茶が注がれる。
「さて、次はスーハル皇子の話ですね。
女装する決心はつきましたか?」
「じょ、じょそ……!
つ、ついてないです!」
「ふふ、冗談ですよ」
こ、これはからかわれた……? こんな風に笑うリヒトは初めて見たかもしれない。
「なんだか妙に思いつめた顔をしてらっしゃいましたから。
どうぞ、紅茶でも飲んで落ち着いてください」
「あ、ありがとう……」
勧められたからには、と飲んだ紅茶。あれ、これさっきとは違う? ちらりとポットの方を見ると、そこでようやくポットが二つ用意されていることに気が付いた。なんだか懐かしい味の紅茶な気がする……。それに、なんだかこう、どういえばいいのかわからないけれど、ほっとする。
「落ち着きましたか?」
「あ、はい」
「では、話の続きを。
スーハル皇子はハールという名で皇宮に入る、ということで大丈夫ですか?」
「はい。
その名が一番親しんでいるから。
下働きということだけど、何をすればいいのかな」
「細かいことは向こうへ行ってから教育係に聞くといいでしょう。
私も怪しまれない程度に手をまわしておきます。
そうですね、私の遠い親戚が私に仕事の斡旋を頼んだとでも言いましょうか。
そうすると私が気にしていてもおかしくないでしょう」
教育係……。そうだよな、さすがにいきなり一人で放り投げられることはならないよな。いい人だといいんだけれど。
「ありがとう、リヒト。
いろいろと手を尽くしてくれて」
「いいえ、気にしないでください」
もう一つ、聞きたいことが。そう口を開こうとしたけれど、何となくそれを聞くのは今じゃない気がする。聞いてしまったら、そればかり気にしそうで。
今は考えないと。皇族としてでなく、下働きとしてでも皇宮に戻る理由。俺の価値がただここにいるだけ、クーデターが成った後にだけ必要な存在だとすると、それこそ二人と一緒にダンジョン攻略をやっていてもよかったわけだ。
というか、そもそもあいつらにばれないためには皇宮に入れないのが一番確実だ。でも。当たり前のように皇宮に戻る話をしていた。そこに意味があるなら。
ふてくされて何もしないままだと、何も変われない。だけど、考えないと。俺にできるのが考えることだけでも、それをやっていくしかないよね。
「よかった、だいぶいい顔色になりましたね。
……その紅茶、懐かしい味ではありませんでしたか?」
「え?
ああ、はい。
確かに懐かしい、不思議な味でした」
そういうと、リヒトが微笑んだ。そして、覚えていたんですね、と添える。覚えていた?
「よければ、あとで茶葉を届けます。
残りはあまり多くないので、丁寧に飲んでもらえると嬉しいですけれど。
その時にお茶の入れ方も教えますので、好きな時に飲んでください」
「え、あの、この紅茶って?」
そう聞くも結局リヒトが教えてくれることはなく、そのまま解散。一体何だったんだ? 茶葉はそのあと届けられました。
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