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4章 皇国
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しおりを挟む「さて、君は一体何をしてくれているのかな?」
いい笑顔の第一皇子が俺の目の前に。ルックアラン皇子と偶然の再会? を果たした俺に待っていたのはリヒト、というよりもおそらく目の前にこの人物。キャバランシア皇子からの呼び出しだった。部屋に帰ってみると、現状を知りたいからという名目でリヒトから呼び出されたのだ。
久しぶりに会えるリヒトに少しワクワクしながら部屋に入るとこの人がいた、と。俺はリヒトに会いに来たはずなのに本人は何か考え込んでいる様子だし。というか情報回るの早くないですか?
「す、すみません……」
「すみませんって何に対して?」
うぐっ、俺この人苦手だ。何に対してと言われましても……。俺にとってもいろいろ予想外というか、避けようがなかったというか。そのまま何も返せないでいると、目の前の人物がため息をついた。
「理由もないのに謝るな。
簡単に自分の価値を下げる」
それはもう前世日本人のさがというか。生まれ変わっても変わらなかったのだから、もう変えるの難しい気がする、うん。さてこのままだと話が進まない。二人もそう考えたのかようやく本題に入れそうだ。
「かなり厄介なことになったと思いましたが……。これはこれでチャンスかもしれません」
「厄介なこと?」
「ルックアラン皇子にお会いしたでしょう?」
確かめるようなリヒトの言葉にうなずく。今度はキャバランシア皇子が何か考え込んでいるし。
「その後に皇子から申し出があったのです。
あなたを自分付きの侍従にほしいと」
「……は?」
え、あの皇子が俺を侍従に? 一体どういう思考回路しているんだ。なんて実際に口に出すわけにはいかない。だけど、本気でそんなことを言ったのか。これはどうするんだ、と二人の方を見る。その視線に気が付いたのかキャバランシア皇子がふとこちらに視線を向けた。そして何を思いついたのかにやりと笑う。
「ハールはこの件、どうしたらいいと思う?」
どうしたら? どんな答えを求められているのかわからなくて戸惑う。とっさにリヒトの方を見るとリヒトもこちらを見ていた。これは自分で結論を出さなくてはいけないやつですね……。
単純に答えは侍従になるかならないかの二つだけ。正直なりたくない。あの皇子自体は好きにはなれないが別に嫌いでもない。問題はその背後にいるやつ。あの時のことを思い出すと今は会いたくないという思いがある。でも。でも、いずれは向き合わなくてはいけないのだ。なら、今そのそばでどんな奴なのか見るのもありなのかもしれない。下働きのままでは触れられなかったものに、触れるチャンスなのかもしれない。
すべてが終わった後に行動しなかったことを後悔するくらいなら。今しかあいつのことを見るチャンスがないならば。
「なります、侍従に。
何ができるかはわかりませんが」
決めたなら迷わないように。うつむいていた視線を上げてそう言い切る。すると少し意外そうにしている二人の顔が視界に入った。その様子がなんだか面白い。結局二人にとっても悩ましい問題ではあったのだろう。俺の意見を尊重してくれたのか、この話は特に二人が介入しないことで決着がついた。
まあ、普通に考えて何もしなかったら皇子の意見が優先されるに決まっているものね。しかも相手はただの下働きで、本来ならこれは俺にとって大出世。断る理由もない。この話がまとまったところで会は終了に、ってちょっと待った! 言うなら間違いなく今だ。
「あの、二人はこれのことを知っていますか?」
そう言って取り出したのは以前拾った紙の包み。リヒトに会えるとわかって部屋から持ってきたのだ。あの時会でもらったものはとっさにマーシェさんに上げてしまったから、これは拾った方のものだけどおそらく物は同じだろう。
俺が取り出した包みを訝し気に見る二人。やっぱり知らなかったか。
「これは?」
「掃除の際に落ちていたものを拾いました。
中身は恐らく、麻薬」
麻薬、その単語が出た瞬間二人の目が見開かれる。麻薬、それはこの世界においても決して簡単に手に入るものではない。生産自体が制限されている上にその利用制限はさらに厳しい。基本的には医療用でしか認めれていないのだ。それが皇宮の一角に落ちていた。まあ、これだけでもおかしな状況といっていいだろう。
「どこからこんなものが?」
「実はそれを配っている場に招待されたことがあるのです」
「配っている場に、招待された……?」
どういうことだ、と視線で問いかけられる。まだ思考が追いついていないのか、どこかその様子はぎこちない。そんな二人に対して俺は見てきたこと、聞いてきたことを一通り話した。
「まて、ハールもそれを飲んだのか?」
「ええ、まあ」
飲んだことは飲んだ。うなずくと二人はそろって顔を青くする。
「心配してくれたのですか?」
意外、そんな思いが素直に口に出てしまった。しまった、と慌てて口を押えたが一度出た言葉はなかったことにできない。リヒトなんかは当たり前です! と強く言ってくれた。そしてキャバランシア皇子はまあ、とあいまいな様子で返事をしてくれる。そっか、心配してもらえているのか。そんなことを考えている間にも飲んでしまったものに対してどう対処したらいいか目の前で話されている。これは早く止めないと!
「あ、安心してください。
飲んだものはすぐにシャリラントが対処してくれましたので」
「ほ、本当ですか?
よかった……」
「ハールはもう少し警戒心というものを持った方がいいな。
それにしても皇后が……」
皇后が指示したものではない、その見解はこの三人で一致した。だってあの人がそんな下働きのことなんて思いやれるわけないもの。では、誰が何の目的で行っているのか。自然と部屋の空気は重くなる。
「この件は一度あずかろう。
そうだな、ハールがルックアランのもとへついた後ほどにもう一度集まろう。
あちらの様子も知りたいからな」
「わかりました」
この場で判断するには情報が少なすぎる。そのためこの場ではお開きになった。
「ああ、スーベルハーニ皇子。
くれぐれもこれ以上余計なことに首を突っ込まないように」
去り際そんな言葉と共に見せたリヒトの笑みはお手本のように整っていて。今までに感じたことがなかった恐怖に俺は思わずこくこくとただうなずいていた。麻薬の件もルックアラン皇子の件も俺が自分で首を突っ込んだわけではないんだが……、さすがにそんなことを言える空気ではなかった。
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