『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
97 / 178
4章 皇国

33

しおりを挟む
出血などの表現があります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「諦め、る?
 いったい何を言っているの?」

「言葉の通りです。
 私は王座を望んではいない」

「なに、を?」

 本当に何を今さら。こいつらのせいで、一体どれほどの人が苦しめられていると?

「なら、なぜはじめから引かなかった!
 この国の疲弊を知らないとでも!?」

 ルックアランをとらえていた騎士の一人が悲鳴のような声を上げる。きっと、この人たちの振る舞いで何か辛酸をなめた人なのだろう。

「……すまない」

「謝ってすむ問題ではない!」

「すまない、スーベルハーニ」

 ……は? 俺の名前がわかっていた? それになぜこいつが俺に謝る?

「なぜ……」

「あの日から、そなたが消えた日から忘れたことなどなかった。
 きっと母上が何かをしたのだと」

「何か!? 
 ああ、そうだよ!
 こいつが、兄上を殺したんだ!」

 なぜ、こいつはこんなに落ち着いている。こいつがいたから、皇后として思いあがったんだ。皇子が居なければ、きっと。

「る、ルックアラン……?
 あなた、気が付いていたの?」

「初めから」

「なら、どうして!?」

 あいつの声に俺の疑問も重なる。どうして、俺を侍従にしたいと言った? 何が目的だったんだ。

「その方が、きっとスーベルハーニにとって有利でしょう?
こちらの予定も居場所も把握できる」

「ルックアラン!?」

 俺にとって、有利? まさに殺されそうになっているこの状況でこいつは何を言っている。いや、こうして動揺させることが目的なのか?

「スーベルハーニ皇子、いかがいたしましょうか」

 ルックアランを捕らえている騎士が、声をかけてくる。この場では一応俺が指示を出すことになっている。ルックアランをどうするのか聞きたいのだろう。

「確実に逃げられないようにしたうえで生かしておけ。
 処遇はキャバランシア皇子に任せよう」

「はっ」

 そろそろ決着を付けねば。そう感じたのだろう。ルックアラン、と自分の子の名を呼ぶ皇后を見下ろした。

「さて、一応聞いておこうか。
 何か言いたいことは?」

「わたくしの最大の誤りは、あやつの存在を許したことね」

 あやつ。どうしてだろう。それが誰を示しているのかわかってしまった。ははっ、存在を許すだって?

「あんたに一体なんの権限があるって?
 皇帝にとっても、あんたの娘のとっても、母国にとってでさえ価値のない存在のあんたに!」

 まだ、こいつの娘や母国が皇后を大切に思っていていたら、事態はもっと複雑だっただろう。でも、こいつは見捨てられた。その言葉の意味をしっかりと理解したのだろう。目が見開かれていく。ああ、いい気味だ、なんて思うのはいけないことなのだろうか。

「わたくしは!
 国のために、陛下のために、息子のために!」

「その結果が、これだよ。 
 それに、あんたが散在した金がどこからきているのかも知らずに暮らしていたんだろうな」
 
 もしも、この人がこの国にとって良い皇后であったのならば。やはりこうも手荒な手段はとりづらかったのだろう。

「あんたたちがとことん悪だったおかげで、キャバランシア皇子は国の英雄として、皇帝の座につけるよ」

 それだけは感謝してやってもいい。

「スーベルハーニ皇子、そろそろ」

 かすかに、騒がしい音が近づいてくる。その音が味方か敵かわからないが、確かに急いだほうがいいか。

 皇后の口が、何かを紡ごうとする。でも、もうその声を聴く気にはなれなかった。

「じゃあな」

 いっそ笑みすら浮かべて。兄が遺してくれた神剣で。その首を刎ねる。ああ、こんなに簡単なことだったんだ。こいつの首を取るのは。きっと兄上にとってだって。
 でも、兄上は選ばなかった。その道を俺は選んでしまった。

「は、はは……」

 ごとり、と音がする。今更ながら、足元がひどく汚れていることに気がつく。本当に、よくこれであんなにも饒舌だったな。そんな感想すら浮かんで。
 もっとすがすがしい気持ちになると思っていたのに。……もっと、ためらうかと思ったのに。この手は確かに人に手をかけた。それも二人も。でも、後悔はしていない。

 視線をルックアランに向ける。顔面を蒼白にしながら、じっと母の亡骸を見る。こいつにとって、俺は復讐の対象、なのだろう。

「は、母上……」

 一度そうつぶやく。そして。

 先ほどから近づいていた喧騒が部屋に入ってくるのと同時に。
 ルックアランは隠し持っていたのであろう短剣で自分の胸を突いた。

「ははうえ、ひとりには、しません」

 止める暇もなかった。最後に、さも満足そうに笑ったそいつは短剣を引き抜いたことで血をまき散らしながら、床に倒れこんだ。

 頬に生暖かい何かがかかる。ああ、まるで。あの夜のようではないか。状況は全く違うのに、妙に冷静な心の片隅でそんな考えがよぎった。

 ふっと、急に力が抜ける。おわ、ったのか。どっと膝をつくと水音がはねる。服が血を吸い重くなっていく。目には息絶えた数人の体。俺の目に入らなかったところで護衛と騎士たちの戦いがあったらしい。こちらは特に手負いもない。

「ハール!」

 キャバランシア皇子に報告に行かなければ。でも体が重くて動かない。そうしてじっとしていると、扉の方から懐かしいとすら感じる声がした。

「フェリラ、リキート……」

「ハール、怪我を‼」

 怪我、そんなものしたっけ?

「ああ、これは……」
 
 きっとあいつらの血。そう答える前に顔をつかまれる。ああ、本当に二人だ。ぱあっと優しく温かい光を感じる。あれ、本当に傷があったのか?

「ハール、もう大丈夫だよ」

「リキート……」

 ぎゅっと抱きしめてくれるリキート。どうして、二人がここに。そんな疑問がよぎるが、今はただこの熱に甘えていたかった。


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...