『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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4章 皇国

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 出血などの表現があります。

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「ぶ、無礼者!
 早くこの者たちをとらえぬか!」

 皇后の怒鳴り声が聞こえる。この事態がおかしいと理解してはいるのだろうが、動けるものは誰もいない。そんな同僚たちから離れる。

「ハール!?」
 
 首元に下げていたまるでペンダントのトップのようなミベラの神剣を手にする。

「シャリラント」

 一声かけるだけで、その姿は元の大きさに戻る。

「何をっ!?」

「どこに剣が!?」

 ああ、先ほどまで痛いほどバクバクとしていた心臓が嘘のようだ。いつもよりも視界が晴れているような気すらしてくる。たっと、軽く跳ねる。騎士の一人がルックアラン皇子をとらえる。それを視界の端に捉えながら、ただまっすぐ皇后のもとへと刃を向ける。

 ガキッとなったのはシャリラントの刃が別の刃に受け止められたから。まさか、この速度で止められるとは。苦々しく想いながらもその刃の持ち主に目を向ける。

「おいおい、いきなり主の首を取るのは無茶じゃないか?」

 ふいに昔の、一番思い出したくない記憶が頭をよぎる。この声、聞いたことがある。

「レドリグ!
 さっさとそやつをやれ!」

 般若のような表情を浮かべる皇后。そんなのはどうでもよくて。レドリグ。その名を聞いたことがある。ああ、そいつは。

「お前が、兄上を!
 氷よ、こいつを貫け!」

 楽になんて死なせない。兄上と同じように、いや。それ以上に苦しませて殺してやる。お望みの魔力で!

「それ、は……」

 氷は俺の望み通りに目の前の男を貫く。ああ、これは神に、いやこいつに感謝せねば。まさか、兄上に手をかけたやつをこの手で殺せるなんて。魔法を発動するその一瞬、頬を何かがかすめた。

 ごふっ、と汚い血を吐く。もう一本、氷の刃でその体を貫く。だが、このままではそうしないで死んでしまう。俺の中に微弱にあるという光魔法。その力を動員して、わずかな治癒魔法をその上にかける。これですぐに死ぬようなことにはならないはずだ。

「お、お前は……!」

 胸元に光る皇国の国章。もうばれても構わない。いや、むしろ見せつけたいくらいの気持ちになっていた。あの時、お前らが踏みにじった人の弟が、俺が、お前らに復讐を果たしに来たと。そう見せつけたかった。

「はは、今更気が付いても遅いけどな」

 すでに多くのものは逃げまどっている。ここまで庇うやつがいないなんて、まさに人徳じゃないか。シャリラントの刃は想像よりもたやすくその首に届いた。

「なあ、どんな気分だ?
侮っていた俺にこうして逆襲されるのは」
 
 逃げられるわけにはいかない。まずは足をつぶさないと。

「ぐぁ、ああああああああ!」

 ああ、うるさい。こいつも楽には死なせない。切り落とすと、その傷口を軽く治癒する。別に完全に治さなくていい。もうしばらく、絶望を味わわせられればいいのだから。

「ゆ、赦さない、赦されないぞ」

「いいよ、赦さなくて。
 それに、先に赦されないことをしたのはそっちだ」

 どうしてお前に赦されなくてはいけない。

「どうして、どうして殺せたんだ。
 あんな善良な人たちを」

「善良、だと?
 わたくしから陛下の愛を奪っておいて白々しい。
 あいつが、あいつさえいなければ」

 愛を奪っておいて? いいや、母はあいつの愛なんて欲していなかった。むしろ目に留まることになったのがきっと母にとって最大の不幸だったろう。

「ああ、やはりあの時お前も殺して、おけば」

「よく回る口だな。
 俺を殺す?
 探し出せなかったくせによく言うよ」

「それに、その剣はっ!
 わが子にこそふさわしいものをなぜお前が持っている」

 ああ、煩わしい。多少治癒したとはいえ相当な深手。なぜこうも口が回るのか。さすが、生命力も害虫並みか?

『気持ち悪いことを言いますね』

 本当に。

「は、母上」

 ちらりと声の方に目をやる。そこには騎士たちによってとらえられたルックアランの姿があった。最初の方は腰に付けていた剣で対応しようとしていたみたいだが、当たり前のように敵わなかったようだ。

 もしも抵抗するならば生死は問わない。だが、万が一従順の意思を見せたら生かしたまま捕らえよ。
 
 ルックアランの処遇についてはそう達しが来ている。皇帝、皇后は万が一でも逃げ出されると面倒なため確実に手にかける必要があるが、こいつには何の力もない。見せしめ、という形にするためにこの場では生かしておくことがあってもいい、ということだ。

「ああ、かわいいルックアラン。
 すぐにでも将軍が助けに来てくれるわ」

 ああ、気持ちわるい。よくこの場でそんな会話ができるな。

「っ神剣!
 そこの偽物ではなく、私の子を守りなさい!」

 神剣は意思を持って主を選ぶ。だからと言って、こいつが剣に話かける日が来るとはな。はは、と思わず笑いがこぼれる。まあ、シャリラントが聞くわけがないが。

 ああ、シャリラントも嫌悪感を示しているのがわかる。どうやら出てくる気はないみたいだけれど。

 何かをわめき始めた皇后から目をそらし、氷の刃でとらえておいた男に目を向ける。もう動く気力すら残っていないようなのに、眼光のみぎらぎらとしていた。

「なあ、どうだ?
お前があの時望んだ魔力で命を奪われる気分は」

「はっ……、あの場に、いたのか。
 なのに、兄を助けず、逃げるとはな……」

「別に、お前に何を言われても気にしないさ」

 もし、あの時の俺に力があったら。そう考えないことはなかった。でも。幼かった俺にできることがなかったことも確かなんだ。だから、力を付けた。もう後悔したくなかったから。

 男がにやりと笑う。一体何がそんなに面白い?

「はっ、剣の腕で、挑めない、のかよ」

「いいや。
 だが、お前は剣ではなくこっちで殺すことに意味がある。
 あの時、兄上がなぜ魔法を使わなかったかもわからないお前はな」

「なぜ……?」

 教えてやる義理もない。もう一度、ごふっ、という音とともに汚い血を吐きだす。ぜいぜいと荒い息を繰り返したあと、静かになった。さて、次は。

「はやく、離しなさいっ!
 あの子は、皇帝に、なる子なの!」

 まだわめく元気があるんだな。次はどうするか。

「母上、もう諦めましょう……」

 もう勝負はほぼついている、そんなことを考えていると、ルックアランのそんな言葉が聞こえてきた。
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