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4章 皇国
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しおりを挟むそれからの4日間は緊張をはらむ俺の心情とは裏腹に特に変わり映えのしない日々だった。いつこちらの計画がばれるのか、もしかしたら皇后側も何か行動を起こすかもしれない。そんな思いは現実にはならなかった。
決行の時間である夜。それは日課であるルックアラン皇子が皇后へ就寝の挨拶に行く時間でもあった。その方が一気に片を付けられるという判断だ。あの年にもなって就寝の挨拶って……。赴任時はそんなことも考えていたが、今は気にしないことにしている。
「明日、か……」
「不安ですか?」
夜、自分の部屋に帰ると知らずそんな言葉が口から出ていた。最近は俺が一人になるとすぐに姿を現すシャリラントはそう返す。不安、か。
「不安というよりも、信じられないな。
長くこの国で下準備をしていた第一皇子の手があってのことではあるが、こんなに早く行動に移せるなんて」
「こんなに早く、と言ってももう季節が二つは変わっていますよ」
「まあ、そうだけど。
でももっとかかると思っていた」
なにせ決心をするのに何年かかったことか。それが一年もせずにこうして実行日を迎えようとしている。まあ、不安がないのはシャリラントのおかげだろうけれど。
「おそらく、計画はうまくいくでしょう。
不安なのはそのあと、ですが」
「そのあと……?」
国内をうまくまとめられるかとか? でもそれをシャリラントが心配するだろうか。正直、シャリラントは俺にだいぶ配慮してくれていると思う。だって、神使であるシャリラントにとって、きっと一国家のことなど正直あまり関心はないだろう。それも、神に嫌われているとさえ言われているこの国ならば特に。それでも、俺のために力を貸してくれている。だからこそ、この言葉の意味があまりわからなかった。
「すみません、失言でした。
いずれわかることです。
今は目の前のことだけ考えてください」
微妙に納得はできない。でも、シャリラントがそう言うならば、とうなずいた。
いつもと変わらない日中。それでも、よく見ればいつもよりも配置されている騎士の数が多いことがわかる。すでに、夜に向けた準備は始まっているのだ。
妙に長く感じる時間を経て、ルックアラン皇子が皇后の私室へと向かう。あまり長い時間を皇子の侍従として過ごしたわけではないけれど、もう慣れた道だ。そしてそうしている間になんとか皇后の顔を見れるようになってきた。
ルックアラン皇子が私室を出たのを確認した第一皇子の手のものがそっと姿を消す。きっとその足で第一皇子に報告に行ったのだろう。時が来た、と。おそらく、第一皇子の方でも皇帝のもとへ詰めかけているはず。
心臓がばくばくとする。こんなにも緊張するのは一体なぜなのか。復讐を遂げられる喜び? 初めて人の命を奪う恐怖? わからない。
いつも通りを装いながら、服の上から懐中時計に触れる。記憶の中の母と兄に、どうか見守っていて、と願った。
皇后の部屋につく。その付近にはすでに殿下の手のものという騎士が控えていた。こんな堂々としていて疑われないのか? とは思うが、こそこそとしているよりもいっそ目立たないらしい。実際、誰も疑問を口にしないまま皇后の部屋へと入っていった。
『ハール、大丈夫です。
私が付いているのですから、必ずやり遂げられます』
『ありがとう、シャリラント』
ルックアラン皇子が皇后に挨拶をする。開始の合図は先ほどの騎士が部屋に乗り込んできたとき。俺は速やかに皇后の身をシャリラントの刃でとらえる。ふー、と気持ちを抑えるために一度深呼吸をする。
いつものように終わるはずだった一日。同じくルックアラン皇子についている侍従たちも一日の終わりを喜ぶような、そんな緩んだ空気を感じる。
そんな空気を切り裂くように、扉の方から女性の、侍女の悲鳴。そして名ばかりの護衛となっている騎士たちの怒号が響いた。
「ショコランティエ皇后、ルックアラン皇子、皇国のためにその命を投げ出せ」
ああ、始まったんだ。
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