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5章 ダンジョン
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しおりを挟むその日の夜、俺は再び陛下に呼び出されることとなった。どうやら話はまとまったらしい。夜なこともあってか、場所は陛下の私室。中に入ると会議の場よりもラフな格好をしていた。とはいえ、疲労の色はだいぶ濃いが。
当たり前ではあるが、クーデターを起こしたあの日からこの人は人一倍忙しくしていた。直後に行われた国内に向けた簡易版即位式が大歓迎のムードのなか終えられたのにほっとしたのもつかの間、すぐに粛清に動かなくてはいけなかったし、今度は他国へ向けた連絡と即位式の準備を行わなければならなかったし。その中でこうしたダンジョン問題も勃発したし。
うん、さすがに気の毒になってきた。自分で選んだこととはいえね……。
「陛下、少し失礼します」
ん? とこちらを見てくるけど、これはもうやってしまった方が早い。陛下の手を取って、小さな声で魔法を唱えて慣れない光魔法を使う。そんなに得意ではないけれど、多少体を楽にする程度なら使えるはずだ。ふわっと、優しい光が灯る。ちゃんと魔法が発動したみたいだ。
「これは……」
「お疲れだったようですので」
「そうか、スーベルハーニは光魔法も使えたか」
「一応、全属性使えますよ」
そうか、と陛下は苦笑いを浮かべた。身体的な疲れは一応とれたはずだけど、心理的なものはどうしようもない。後ははやくこの状況を脱するしかないだろうな。
「こんなのでよければ、また魔法をかけますよ」
「ああ、ありがとう」
さて、もう夜も遅い。きっとこの人は明日も多忙なのだろうし、早く話を終わらせた方がいいだろう。
「それで、どのようなお話でしょうか?」
「ああ、そうだな。
もう少ししたらカンペテルシアが来るが、その前に神殿の件だけでも話してしまうか」
あれ、カンペテルシア殿も来るのか。神殿以外に一体何の話だろうか、と思いつつも勧められた席におとなしく座る。すぐに侍従が茶を差し出して、軽食を置いて去っていった。側には氷に付けられた瓶も置いてある。なんの飲み物だろう?
「その瓶が気になるのか?
話が終ったら飲もうか」
そ、そんなに見ていたか? なんだか恥ずかしい……。
「そ、それで……」
「神剣の持ち主に連絡を取る、という件だが、ぜひお願いしたい」
「いいのですか?」
「ああ。
そうだ、会議の時は貴重な意見をありがとう。
おかげで話が進んだ」
「お役に立てたなら何よりです」
……どうして、この人はこういう目を俺にも向けているのだろうか。こんな、慈愛を持っているかのような目を。こういう目を向けられると、兄上が俺に向けていたような目を向けられると、勘違いしそうになる。まるで俺のことを弟として見ているかのように。
そんなこと望んではいない。そりゃ、今の俺にとって大切な人が住む国の長が慈愛を持った人であることは喜ばしい。でも、それは俺に向けてほしいわけではない。俺の兄はたった一人だけなのだから。この人が、見殺しにしたであろうたった一人だけ。
……いや、今はそんなことを考えている場合ではないか。少なくともこの人は黒幕ではないし、俺だって救えなかったのは一緒なのだから。
「どうした?」
「いいえ。
ではシャリラントにあしたにでも頼みます」
「ああ、頼む。
……これから、この国はきっと私が想像もできないほど変わっていくのだろうな。
私たちも変わっていかねば」
「そう、ですね」
少しだけ、安心した。神殿を受け入れて、変化を受け入れられるこの人が皇国の頂点に立つならば、この国もいい方向に向かってくれるのではないか、なんて。そんなことを考えていると、扉がノックされる。カンペテルシア殿が来たのかな?
「遅くなりました」
「いや、問題はない。
ちょうど、神殿の話が終ったところだ」
陛下の言葉を聞きながら、カンペテルシア殿は席に着く。それを見て、陛下はカンペテルシア殿に話を向けた。どうやら陛下からではなく、カンペテルシア殿から話があるようだ。
「先日、麻薬の件について話しただろう?
シングレ王国から反応があってな」
「シングレ王国から……。
どういう反応が?」
「あそこは、お金を送ってきた。
明確な言葉はなかったが、賠償金替わりだろうな。
オースラン王国がこちらに同盟を持ち掛けてきたと聞いて、慌てたんだろう」
「なにもないよりはまし、ですか」
「ああ……。
こちらとしてもこれで手を打つつもりでいる。
今はあまり多くのことを相手にできないからな」
「わかりました」
麻薬を口にした人たちへの治療は進められている。時間はかかるだろうが、いつか何事もなかったようになってくれるといいな。
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