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5章 ダンジョン
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ダンジョン攻略については、体を慣らす以外は基本やることがない。イシューさんが到着したことでダンジョン攻略が最優先となり、しばらく執務は控えられることとなった。正直机仕事よりも体を動かすことが好きだから嬉しい。まあ、別に机仕事も苦手ではないのだけれど。
ただ、控えるという話を聞いたときに終わったら本格的に参加してもらう、というなんとも恐ろしい言葉をもらってしまった。今まではそもそも公務もしたことがない上に、ずっと平民として育った俺の素質を見るような試験だったらしい。いつの間にかそれをクリアしていたようで、先ほどの恐ろしい言葉をもらってしまったのだ。
それはさておき、イシューさんは騎士団に訪れた翌朝には早速稽古に出向いてくれたらしい。本当に頭が上がらない。陛下もイシューさんのことは耳に入ったらしく、ダンジョン攻略の末には謁見をしようと話が進んでいるらしい。
さて、俺も騎士団に向かおうか、と準備をしていると少し荒く扉をノックする音が響いた。今となってはこんな風に音を出すのは珍しい。多少の警戒はしつつも扉を開けると、そこにいたのは見覚えのある顔だった。たしか、リヒトの侍従、だったか?
その顔色はどこか優れなく、焦っているようにも見える。一体何が、と困惑していると、その人は焦りを感じさせない動作で一礼をした。
「突然申し訳ございません。
リヒベルティア様の命により、皇子を迎えに参りました」
「何があった?」
「その、神島からお客様がいらっしゃったと……。
今はリヒベルティア様が対応していらっしゃいます」
神島から!? まさか、本当に来てくれるとは……。
「わかった。
すぐに行こう」
そのまま部屋を出ようとすると、止められてしまう。一体何が、と驚いているとその前に着替えと、と言われてしまった。自分の身を見てみると、いまから騎士団に行く予定だったため、かなり動きやすい服装になっている。
面倒な、と思いはしたが、礼儀を欠いて怒らせるわけにはいかない。手を借りながらもすぐに着替えを済ませた。
『さすがに待ってくださいましたか……』
『シャリラント?』
着替え終わった後、はやる気持ちのままに早足でリヒトのいる部屋へと向かっていると不意に頭の中でシャリラントがそうつぶやく。何を言おうとしたのか問いかけると、何でもありませんと言って、そのまま黙り込んでしまった。
執務室の前に着き、侍従がノックをしてくれる。許可と共に扉が開くと、中には数人の男女が座っていた。この人たちが、神島の住民か……。
「お待ちしておりました、スーベルハーニ皇子。
こちらの方々が神島よりいらっしゃったお客人です」
リヒトの言葉に一斉に俺に視線が向く。一瞬、その圧にうっとなりながらもなんとか微笑みを浮かべた。
「初めまして、ようこそアナベルク皇国へいらっしゃいました。
神剣シャリラントの主、スーベルハーニ・アナベルクと申します」
一礼をすると、シャリラントがイシューさんを呼ぶことと共に人払いを促してくる。その言葉をリヒトに伝えると、心配そうな瞳をこちらに向けつつも退室してくれた。
「もう我々以外誰もいないのですから、姿を現しても大丈夫でしょう」
言うなりシャリラントが姿を現す。すると、それにつられるように次々に神使たちが姿を現した。その様子は圧巻、というしかないだろう。
「シャリラント様、久方ぶりにそのお姿を拝見することができ安心いたしました」
そのうちの一人の神使が膝をつくと、それに倣うようにほかの人々も膝をつきはじめる。えっと、これはどういう状況ですかね?
「そう固くならないでください。
こちらに呼んだのは私なのですから」
「そう言ってくださるのなら」
まだ呆然としているうちに目の前の人たちは元の姿勢に戻る。ちなみに膝をついたのは神使だけではない。神島より訪れた人たちもだ。
「改めて、挨拶申し上げます。
初めまして、スーベルハーニ様。
わたくしは癒しの神剣ヒーラスーンの主、ティアナと申します」
一人の女性が杖のようなものを手に一歩前に出ると、おしとやかに挨拶をする。共にその横にいた女性の神使が礼をした。そして次はその横にいた人が包丁を手に一歩前にでた。……、包丁?
「俺は料理の神剣クックマインの主、ジヘドだ」
「魔法の神剣マジカンテの主、マリナグルース」
次の女性は長い杖を手にしている。ぺこっと軽く頭を下げる様子に軽く微笑みながら女性の神使が礼をする。
「僕は魔獣の神剣アニルージの主!
シュリベだよー」
にこりと人懐こい笑顔を浮かべて前に出たのは幼く見える青年。実際には何歳なんだろう……。その人は少し細身の剣を手にしている。
あれって、やっぱりそれぞれの神剣、だよな。こんなにもさまざまな形があったなんて。あと自己紹介をしていないのは2人。ただ、神使は後1人。どちらかは神剣の主ではないということだ。それにしてもあの少女、見覚えが……。まさか……。
「ミー……ヤ……?」
「やっぱり、ハール、なんだよね?
え、でもさっきスーベルハーニって……。
それに皇子って?」
こんなところにいるはずがない。でも、確かに見覚えがある。それに俺のことをハールと呼んだ。その声も、覚えている。
「ミーヤ、この方を知っているの?」
「は、はい、ティアナ様。
私が神島に行く前にいた孤児院で共に育ちました」
「まあ、そうだったの。
でも今はまず顔合わせを済ませないと」
「申し訳ございませんでした」
まだ状況が読み込めない俺を置いて目の前で交わされた会話は終了したようだ。もうこの少女がミーヤであることは間違えない。でも、なぜここに? 見たところミーヤは神剣の主というわけでもなさそうだし。
「相変わらずベベグリアの言うことはよく当たるわね……」
ベベグリア……、そう、ベベグリアだよ! 例の司祭は! 思い出せなくて少しもやもやとしていたからやっとすっきりした。それにしても、まさかまたその名前を聞くとは。今回ミーヤがここにいる理由にも関わっているみたいだし。
「そろそろ挨拶をしてもいいかな」
神剣の主、最後の一人がそう声をあげた。あらためてその男性を見てみると、黒い髪に赤い目となんだか懐かしい色彩をしていた。
ただ、控えるという話を聞いたときに終わったら本格的に参加してもらう、というなんとも恐ろしい言葉をもらってしまった。今まではそもそも公務もしたことがない上に、ずっと平民として育った俺の素質を見るような試験だったらしい。いつの間にかそれをクリアしていたようで、先ほどの恐ろしい言葉をもらってしまったのだ。
それはさておき、イシューさんは騎士団に訪れた翌朝には早速稽古に出向いてくれたらしい。本当に頭が上がらない。陛下もイシューさんのことは耳に入ったらしく、ダンジョン攻略の末には謁見をしようと話が進んでいるらしい。
さて、俺も騎士団に向かおうか、と準備をしていると少し荒く扉をノックする音が響いた。今となってはこんな風に音を出すのは珍しい。多少の警戒はしつつも扉を開けると、そこにいたのは見覚えのある顔だった。たしか、リヒトの侍従、だったか?
その顔色はどこか優れなく、焦っているようにも見える。一体何が、と困惑していると、その人は焦りを感じさせない動作で一礼をした。
「突然申し訳ございません。
リヒベルティア様の命により、皇子を迎えに参りました」
「何があった?」
「その、神島からお客様がいらっしゃったと……。
今はリヒベルティア様が対応していらっしゃいます」
神島から!? まさか、本当に来てくれるとは……。
「わかった。
すぐに行こう」
そのまま部屋を出ようとすると、止められてしまう。一体何が、と驚いているとその前に着替えと、と言われてしまった。自分の身を見てみると、いまから騎士団に行く予定だったため、かなり動きやすい服装になっている。
面倒な、と思いはしたが、礼儀を欠いて怒らせるわけにはいかない。手を借りながらもすぐに着替えを済ませた。
『さすがに待ってくださいましたか……』
『シャリラント?』
着替え終わった後、はやる気持ちのままに早足でリヒトのいる部屋へと向かっていると不意に頭の中でシャリラントがそうつぶやく。何を言おうとしたのか問いかけると、何でもありませんと言って、そのまま黙り込んでしまった。
執務室の前に着き、侍従がノックをしてくれる。許可と共に扉が開くと、中には数人の男女が座っていた。この人たちが、神島の住民か……。
「お待ちしておりました、スーベルハーニ皇子。
こちらの方々が神島よりいらっしゃったお客人です」
リヒトの言葉に一斉に俺に視線が向く。一瞬、その圧にうっとなりながらもなんとか微笑みを浮かべた。
「初めまして、ようこそアナベルク皇国へいらっしゃいました。
神剣シャリラントの主、スーベルハーニ・アナベルクと申します」
一礼をすると、シャリラントがイシューさんを呼ぶことと共に人払いを促してくる。その言葉をリヒトに伝えると、心配そうな瞳をこちらに向けつつも退室してくれた。
「もう我々以外誰もいないのですから、姿を現しても大丈夫でしょう」
言うなりシャリラントが姿を現す。すると、それにつられるように次々に神使たちが姿を現した。その様子は圧巻、というしかないだろう。
「シャリラント様、久方ぶりにそのお姿を拝見することができ安心いたしました」
そのうちの一人の神使が膝をつくと、それに倣うようにほかの人々も膝をつきはじめる。えっと、これはどういう状況ですかね?
「そう固くならないでください。
こちらに呼んだのは私なのですから」
「そう言ってくださるのなら」
まだ呆然としているうちに目の前の人たちは元の姿勢に戻る。ちなみに膝をついたのは神使だけではない。神島より訪れた人たちもだ。
「改めて、挨拶申し上げます。
初めまして、スーベルハーニ様。
わたくしは癒しの神剣ヒーラスーンの主、ティアナと申します」
一人の女性が杖のようなものを手に一歩前に出ると、おしとやかに挨拶をする。共にその横にいた女性の神使が礼をした。そして次はその横にいた人が包丁を手に一歩前にでた。……、包丁?
「俺は料理の神剣クックマインの主、ジヘドだ」
「魔法の神剣マジカンテの主、マリナグルース」
次の女性は長い杖を手にしている。ぺこっと軽く頭を下げる様子に軽く微笑みながら女性の神使が礼をする。
「僕は魔獣の神剣アニルージの主!
シュリベだよー」
にこりと人懐こい笑顔を浮かべて前に出たのは幼く見える青年。実際には何歳なんだろう……。その人は少し細身の剣を手にしている。
あれって、やっぱりそれぞれの神剣、だよな。こんなにもさまざまな形があったなんて。あと自己紹介をしていないのは2人。ただ、神使は後1人。どちらかは神剣の主ではないということだ。それにしてもあの少女、見覚えが……。まさか……。
「ミー……ヤ……?」
「やっぱり、ハール、なんだよね?
え、でもさっきスーベルハーニって……。
それに皇子って?」
こんなところにいるはずがない。でも、確かに見覚えがある。それに俺のことをハールと呼んだ。その声も、覚えている。
「ミーヤ、この方を知っているの?」
「は、はい、ティアナ様。
私が神島に行く前にいた孤児院で共に育ちました」
「まあ、そうだったの。
でも今はまず顔合わせを済ませないと」
「申し訳ございませんでした」
まだ状況が読み込めない俺を置いて目の前で交わされた会話は終了したようだ。もうこの少女がミーヤであることは間違えない。でも、なぜここに? 見たところミーヤは神剣の主というわけでもなさそうだし。
「相変わらずベベグリアの言うことはよく当たるわね……」
ベベグリア……、そう、ベベグリアだよ! 例の司祭は! 思い出せなくて少しもやもやとしていたからやっとすっきりした。それにしても、まさかまたその名前を聞くとは。今回ミーヤがここにいる理由にも関わっているみたいだし。
「そろそろ挨拶をしてもいいかな」
神剣の主、最後の一人がそう声をあげた。あらためてその男性を見てみると、黒い髪に赤い目となんだか懐かしい色彩をしていた。
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