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5章 ダンジョン
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「なにあれ!?」
マリナグルースさんがそいつに攻撃を仕掛けると、消えていく。その間はさすがにこちらには構えないようで足元に影が現れることはない。だが、そいつにばかりかかりきりになるとほかのやつがこちらに攻撃を仕掛けてくる……。
「なら、他のやつからやりますか……。
ちょっと俺は守りに徹します」
「守りなら私が‼」
「闇魔法でもですか!?
足元の影にひきずりこもうとしてきます!」
「シールディリア!」
「はっ、誰だと思っている!
だが魔力はかなりもらう」
「リーンスタさん、魔力の残量はどれくらいですか?」
あまり苦労せずにここまで来れたとはいえ、魔力は確実に消耗されている。ここから先、余計に大変になってくることを考えると守りは必要だ。
「まだ大丈夫」
そういうと、盾が細かく細かく砕かれていく。パキンっと甲高い音が響いたかと思うと足元に薄い板、のようなものができあがっていた。そしてリーンスタさんの手元には一回り以上小さくなった盾が。こういう使い方もできるのか……。
「あまり動かないでくださいね。
場所が限定されているので」
「わかっている、よ!」
これでここの守りは大丈夫だろう。なら。
「ちょっと行ってきます」
「ハール!?」
魔法攻撃だけだと一体いつまでかかるかわからない。ぐっと跳躍して一気に敵陣の中に入り込む。攻撃が放たれてもある程度はシャリラントが勝手に対処してくれるから安心して突っ込める。ほんと、神使ってすごい。
「シャリラント!」
「無茶しないでくださいよ!」
「炎よ、剣にまとい敵を燃やし尽くせ」
ごおっと音をたてて剣が炎に包まれる。それを確認してこちらに向けてくる腕を切り落としていく。相変わらず叫び声は耳障り。って、なにこれ……。
「……血?」
「ハール、そいつらは魔獣の一種です。
魔獣でも血は流れます、あたりまえでしょう?」
「でも、これは」
違う。魔獣の血とは。もっと、もっと鮮やかな……。
「リーンスタさん!」
フェリラの叫び声にハッとする。そちらに目を向けようとするとバチッ! と音がすぐそばで響く。そうだ、今はまだ戦闘中だ。敵なら、どんなものでも倒すしかない。リーンスタさんも気になるが、今そっちに戻る余裕はない。なら、まずは。
「後で説明しろ、シャリラント」
「ええ、すべて」
なら、今は気にするときではない。
そのあとはただただ無心で剣をふるった。そうして、ようやく例の黒魔法の兵士にたどり着く。一つ覚えで足元に魔法を展開しても意味がない。跳躍した勢いのまま兵士に刃を向ける。それと同時にマリナグルースさんが攻撃を仕掛ける。どちらを対応したらいいのか迷ったのだろう。両方の攻撃は共に兵士に直撃することとなった。
刃が鎧を溶かし、奥深くまで刃が突き刺さる。マリナグルースさんが風魔法がさらに兵士を切り刻む。そして、ついに最後の一体が崩れ落ち、そのあとには魔石が遺された。先ほどマリナグルースさんが見せてくれたものよりもかなりどす黒い。
「うわ、あいつの特性通りだな」
いつの間に横に来たのだろう。ひょい、とマリナグルースさんがその魔石を持ち上げる。そんなためらいなく拾えるのか……。
「思っていたよりもドロップしたな。
君も多少は持っていくといい」
「え、でもあなたのものでは……」
「ふん、そりゃ大部分はもらう。
だが独り占めするほど心は狭くない」
とはいえ、下の階のものはだいぶもらってしまったのだが……。
「この国は、これから前に進んでいくんだろう?」
ぽつり、とマリナグルースさんが言う。その足しにすればいい、と言ってくれるのだ。今まで皇国のことをよく思っていなかった神島の人が。
「ありがとうございます」
俺の言葉にマリナグルースさんはふん、とすぐに他の魔石を拾いに行ってしまった。シャリラントのおかげで俺のカバンはかなり特別製だ。マリナグルースさんの好意に感謝しつつ、しっかりと回収した。
「フェリラ、リーンスタさんのけがは?」
「もう少しで治療が終わる」
フェリラが叫んだあの時、やはりリーンスタさんは負傷していた。今までシールディリアの補助もあり、誰もけがをしていなかったが守りを分散したことで防ぎきれなかったらしい。
「君は、優秀な治癒師だな」
「ありがとう、ございます」
怪我をしていない手でフェリラの頭を優しくなでるリーンスタさんに涙目になりながらもフェリラは治療を完了させた。服は割けたままだが、傷はしっかりとふさがったようだ。
「でも血はもとに戻せていないので、無理はしないでください」
傷の具合を確かめるように体を動かしたリーンスタさんにフェリラが言うと、リーンスタさんはしっかりとうなずいた。
「よし、回収は終わったぞ」
どこか満足げなマリナグルースさんの呼びかけで俺たちは階段を目指し歩き出した。もうここに入ってかなりの時間が経ったのだろう。窓から見える景色はすっかり闇に沈んでいる。
「どれくらい経ったのでしょうか……」
「わかりません。
この景色が正しいものとも限りませんし」
そうか、そう言うこともあるのか。
「ねえ、一度休憩しない?
ちょうどソファもあるし、さすがにお腹すいちゃって……」
言いづらそうに声をあげたフェリラに顔を見合わせる。確かにお腹がすいた。他の2人はどうだろうか、とそちらを見ると賛成のようだ。
「じゃあ、休んでいこうか」
早く攻略した方がいいと言っても休憩は大切。出現後、すぐに攻略に入り今まで駆け上がってきたことだし、多少は休んでも問題はないはず。
「ついでに少し仮眠もとりますか。
交代で眠りましょう」
正直ここで眠るのはどうかとは思うが、ここは敵をせん滅したばかり。それに、おそらくあの黒魔法の兵士がこの階の長だったのだろう。それを考えるとここにはしばらく敵は現れないはず。なら休めるとしたらここか。
「なら、3交代制で休もうか。
フェリラ、君は起こすまで寝ていていいよ」
「え、でも」
「フェリラは戦闘要員ではないから、休めるときに休んでほしい」
フェリラの目を見て言うと、納得してもらえたようだ。ひとまず俺とリーンスタさんとマリナグルースさんのうち2人ずつ見張りにたつことになった。
マリナグルースさんがそいつに攻撃を仕掛けると、消えていく。その間はさすがにこちらには構えないようで足元に影が現れることはない。だが、そいつにばかりかかりきりになるとほかのやつがこちらに攻撃を仕掛けてくる……。
「なら、他のやつからやりますか……。
ちょっと俺は守りに徹します」
「守りなら私が‼」
「闇魔法でもですか!?
足元の影にひきずりこもうとしてきます!」
「シールディリア!」
「はっ、誰だと思っている!
だが魔力はかなりもらう」
「リーンスタさん、魔力の残量はどれくらいですか?」
あまり苦労せずにここまで来れたとはいえ、魔力は確実に消耗されている。ここから先、余計に大変になってくることを考えると守りは必要だ。
「まだ大丈夫」
そういうと、盾が細かく細かく砕かれていく。パキンっと甲高い音が響いたかと思うと足元に薄い板、のようなものができあがっていた。そしてリーンスタさんの手元には一回り以上小さくなった盾が。こういう使い方もできるのか……。
「あまり動かないでくださいね。
場所が限定されているので」
「わかっている、よ!」
これでここの守りは大丈夫だろう。なら。
「ちょっと行ってきます」
「ハール!?」
魔法攻撃だけだと一体いつまでかかるかわからない。ぐっと跳躍して一気に敵陣の中に入り込む。攻撃が放たれてもある程度はシャリラントが勝手に対処してくれるから安心して突っ込める。ほんと、神使ってすごい。
「シャリラント!」
「無茶しないでくださいよ!」
「炎よ、剣にまとい敵を燃やし尽くせ」
ごおっと音をたてて剣が炎に包まれる。それを確認してこちらに向けてくる腕を切り落としていく。相変わらず叫び声は耳障り。って、なにこれ……。
「……血?」
「ハール、そいつらは魔獣の一種です。
魔獣でも血は流れます、あたりまえでしょう?」
「でも、これは」
違う。魔獣の血とは。もっと、もっと鮮やかな……。
「リーンスタさん!」
フェリラの叫び声にハッとする。そちらに目を向けようとするとバチッ! と音がすぐそばで響く。そうだ、今はまだ戦闘中だ。敵なら、どんなものでも倒すしかない。リーンスタさんも気になるが、今そっちに戻る余裕はない。なら、まずは。
「後で説明しろ、シャリラント」
「ええ、すべて」
なら、今は気にするときではない。
そのあとはただただ無心で剣をふるった。そうして、ようやく例の黒魔法の兵士にたどり着く。一つ覚えで足元に魔法を展開しても意味がない。跳躍した勢いのまま兵士に刃を向ける。それと同時にマリナグルースさんが攻撃を仕掛ける。どちらを対応したらいいのか迷ったのだろう。両方の攻撃は共に兵士に直撃することとなった。
刃が鎧を溶かし、奥深くまで刃が突き刺さる。マリナグルースさんが風魔法がさらに兵士を切り刻む。そして、ついに最後の一体が崩れ落ち、そのあとには魔石が遺された。先ほどマリナグルースさんが見せてくれたものよりもかなりどす黒い。
「うわ、あいつの特性通りだな」
いつの間に横に来たのだろう。ひょい、とマリナグルースさんがその魔石を持ち上げる。そんなためらいなく拾えるのか……。
「思っていたよりもドロップしたな。
君も多少は持っていくといい」
「え、でもあなたのものでは……」
「ふん、そりゃ大部分はもらう。
だが独り占めするほど心は狭くない」
とはいえ、下の階のものはだいぶもらってしまったのだが……。
「この国は、これから前に進んでいくんだろう?」
ぽつり、とマリナグルースさんが言う。その足しにすればいい、と言ってくれるのだ。今まで皇国のことをよく思っていなかった神島の人が。
「ありがとうございます」
俺の言葉にマリナグルースさんはふん、とすぐに他の魔石を拾いに行ってしまった。シャリラントのおかげで俺のカバンはかなり特別製だ。マリナグルースさんの好意に感謝しつつ、しっかりと回収した。
「フェリラ、リーンスタさんのけがは?」
「もう少しで治療が終わる」
フェリラが叫んだあの時、やはりリーンスタさんは負傷していた。今までシールディリアの補助もあり、誰もけがをしていなかったが守りを分散したことで防ぎきれなかったらしい。
「君は、優秀な治癒師だな」
「ありがとう、ございます」
怪我をしていない手でフェリラの頭を優しくなでるリーンスタさんに涙目になりながらもフェリラは治療を完了させた。服は割けたままだが、傷はしっかりとふさがったようだ。
「でも血はもとに戻せていないので、無理はしないでください」
傷の具合を確かめるように体を動かしたリーンスタさんにフェリラが言うと、リーンスタさんはしっかりとうなずいた。
「よし、回収は終わったぞ」
どこか満足げなマリナグルースさんの呼びかけで俺たちは階段を目指し歩き出した。もうここに入ってかなりの時間が経ったのだろう。窓から見える景色はすっかり闇に沈んでいる。
「どれくらい経ったのでしょうか……」
「わかりません。
この景色が正しいものとも限りませんし」
そうか、そう言うこともあるのか。
「ねえ、一度休憩しない?
ちょうどソファもあるし、さすがにお腹すいちゃって……」
言いづらそうに声をあげたフェリラに顔を見合わせる。確かにお腹がすいた。他の2人はどうだろうか、とそちらを見ると賛成のようだ。
「じゃあ、休んでいこうか」
早く攻略した方がいいと言っても休憩は大切。出現後、すぐに攻略に入り今まで駆け上がってきたことだし、多少は休んでも問題はないはず。
「ついでに少し仮眠もとりますか。
交代で眠りましょう」
正直ここで眠るのはどうかとは思うが、ここは敵をせん滅したばかり。それに、おそらくあの黒魔法の兵士がこの階の長だったのだろう。それを考えるとここにはしばらく敵は現れないはず。なら休めるとしたらここか。
「なら、3交代制で休もうか。
フェリラ、君は起こすまで寝ていていいよ」
「え、でも」
「フェリラは戦闘要員ではないから、休めるときに休んでほしい」
フェリラの目を見て言うと、納得してもらえたようだ。ひとまず俺とリーンスタさんとマリナグルースさんのうち2人ずつ見張りにたつことになった。
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