『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
121 / 178
5章 ダンジョン

18

しおりを挟む
「なにあれ!?」

 マリナグルースさんがそいつに攻撃を仕掛けると、消えていく。その間はさすがにこちらには構えないようで足元に影が現れることはない。だが、そいつにばかりかかりきりになるとほかのやつがこちらに攻撃を仕掛けてくる……。

「なら、他のやつからやりますか……。
 ちょっと俺は守りに徹します」

「守りなら私が‼」

「闇魔法でもですか!?
 足元の影にひきずりこもうとしてきます!」

「シールディリア!」

「はっ、誰だと思っている!
 だが魔力はかなりもらう」

「リーンスタさん、魔力の残量はどれくらいですか?」

 あまり苦労せずにここまで来れたとはいえ、魔力は確実に消耗されている。ここから先、余計に大変になってくることを考えると守りは必要だ。

「まだ大丈夫」

 そういうと、盾が細かく細かく砕かれていく。パキンっと甲高い音が響いたかと思うと足元に薄い板、のようなものができあがっていた。そしてリーンスタさんの手元には一回り以上小さくなった盾が。こういう使い方もできるのか……。

「あまり動かないでくださいね。
 場所が限定されているので」

「わかっている、よ!」

 これでここの守りは大丈夫だろう。なら。

「ちょっと行ってきます」

「ハール!?」

 魔法攻撃だけだと一体いつまでかかるかわからない。ぐっと跳躍して一気に敵陣の中に入り込む。攻撃が放たれてもある程度はシャリラントが勝手に対処してくれるから安心して突っ込める。ほんと、神使ってすごい。

「シャリラント!」

「無茶しないでくださいよ!」

「炎よ、剣にまとい敵を燃やし尽くせ」

 ごおっと音をたてて剣が炎に包まれる。それを確認してこちらに向けてくる腕を切り落としていく。相変わらず叫び声は耳障り。って、なにこれ……。

「……血?」

「ハール、そいつらは魔獣の一種です。
 魔獣でも血は流れます、あたりまえでしょう?」

「でも、これは」

 違う。魔獣の血とは。もっと、もっと鮮やかな……。

「リーンスタさん!」

 フェリラの叫び声にハッとする。そちらに目を向けようとするとバチッ! と音がすぐそばで響く。そうだ、今はまだ戦闘中だ。敵なら、どんなものでも倒すしかない。リーンスタさんも気になるが、今そっちに戻る余裕はない。なら、まずは。

「後で説明しろ、シャリラント」

「ええ、すべて」

 なら、今は気にするときではない。

 そのあとはただただ無心で剣をふるった。そうして、ようやく例の黒魔法の兵士にたどり着く。一つ覚えで足元に魔法を展開しても意味がない。跳躍した勢いのまま兵士に刃を向ける。それと同時にマリナグルースさんが攻撃を仕掛ける。どちらを対応したらいいのか迷ったのだろう。両方の攻撃は共に兵士に直撃することとなった。

 刃が鎧を溶かし、奥深くまで刃が突き刺さる。マリナグルースさんが風魔法がさらに兵士を切り刻む。そして、ついに最後の一体が崩れ落ち、そのあとには魔石が遺された。先ほどマリナグルースさんが見せてくれたものよりもかなりどす黒い。

「うわ、あいつの特性通りだな」

 いつの間に横に来たのだろう。ひょい、とマリナグルースさんがその魔石を持ち上げる。そんなためらいなく拾えるのか……。

「思っていたよりもドロップしたな。
 君も多少は持っていくといい」

「え、でもあなたのものでは……」

「ふん、そりゃ大部分はもらう。
 だが独り占めするほど心は狭くない」

 とはいえ、下の階のものはだいぶもらってしまったのだが……。

「この国は、これから前に進んでいくんだろう?」
 
 ぽつり、とマリナグルースさんが言う。その足しにすればいい、と言ってくれるのだ。今まで皇国のことをよく思っていなかった神島の人が。

「ありがとうございます」
 
 俺の言葉にマリナグルースさんはふん、とすぐに他の魔石を拾いに行ってしまった。シャリラントのおかげで俺のカバンはかなり特別製だ。マリナグルースさんの好意に感謝しつつ、しっかりと回収した。

「フェリラ、リーンスタさんのけがは?」

「もう少しで治療が終わる」

 フェリラが叫んだあの時、やはりリーンスタさんは負傷していた。今までシールディリアの補助もあり、誰もけがをしていなかったが守りを分散したことで防ぎきれなかったらしい。

「君は、優秀な治癒師だな」

「ありがとう、ございます」

 怪我をしていない手でフェリラの頭を優しくなでるリーンスタさんに涙目になりながらもフェリラは治療を完了させた。服は割けたままだが、傷はしっかりとふさがったようだ。

「でも血はもとに戻せていないので、無理はしないでください」
 
 傷の具合を確かめるように体を動かしたリーンスタさんにフェリラが言うと、リーンスタさんはしっかりとうなずいた。

「よし、回収は終わったぞ」

 どこか満足げなマリナグルースさんの呼びかけで俺たちは階段を目指し歩き出した。もうここに入ってかなりの時間が経ったのだろう。窓から見える景色はすっかり闇に沈んでいる。

「どれくらい経ったのでしょうか……」

「わかりません。
 この景色が正しいものとも限りませんし」
 
 そうか、そう言うこともあるのか。

「ねえ、一度休憩しない?
ちょうどソファもあるし、さすがにお腹すいちゃって……」

 言いづらそうに声をあげたフェリラに顔を見合わせる。確かにお腹がすいた。他の2人はどうだろうか、とそちらを見ると賛成のようだ。

「じゃあ、休んでいこうか」

 早く攻略した方がいいと言っても休憩は大切。出現後、すぐに攻略に入り今まで駆け上がってきたことだし、多少は休んでも問題はないはず。

「ついでに少し仮眠もとりますか。 
 交代で眠りましょう」

 正直ここで眠るのはどうかとは思うが、ここは敵をせん滅したばかり。それに、おそらくあの黒魔法の兵士がこの階の長だったのだろう。それを考えるとここにはしばらく敵は現れないはず。なら休めるとしたらここか。

「なら、3交代制で休もうか。
 フェリラ、君は起こすまで寝ていていいよ」

「え、でも」

「フェリラは戦闘要員ではないから、休めるときに休んでほしい」

 フェリラの目を見て言うと、納得してもらえたようだ。ひとまず俺とリーンスタさんとマリナグルースさんのうち2人ずつ見張りにたつことになった。


   
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...