『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
120 / 178
5章 ダンジョン

17

しおりを挟む
 先頭を歩くリーンスタさんが先制攻撃を防ぎ、そのあとに俺かマリナグルースさんが魔法でせん滅する。意外とこの戦略だけで塔の半分は登ることができた。もう俺たち3人とフェリラだけしかいない。

 1階層からここまで、一体どれほど階層を上がっただろうか。ふいに天井が今までの2倍ほど高くなる。

「なあ、このダンジョン何かおかしくない……?」

「ええ……」

「おかしい?」

「俺たちもあまり多くのダンジョンに行っていないので確信は持てませんが……。
 通常、上に行けば行くほどダンジョンの長が近くなるので空気が重くなりますが、ここは1階層から今まで同じです。
 しかもダンジョンの構造も複雑、中はきれい」

 階段などが大体端に位置していて上がるごとにかなり歩かさられる。そして魔獣の種類がなんというか、虫とかではないのだ。人に近いというか……。そのせいで余計に精神が摩耗する。

「まあ、私の魔法があれば楽に行けるわね。
 見かけ倒しって感じ」

「油断は禁物だよ」

「わかってる」

 危なげもなくその階の長を倒すと俺たちはまた階段を上がっていった。

「……何これ?」
 
 思わず声が漏れる。それも仕方ないと思う。今までは妙に小ぎれいとは言ってもダンジョンではあった。でも、ここは。

「住居、か?」

「うわ、このソファふかふか」

「マリナグルース!?」

「あ、本当。
 ……それにしてもすごいね。
 屋敷の廊下みたい」

「ねえ、これ何の音?」

 ガシャン、ガシャン、と金属がすれる音が聞こえてくる。こんなところでは聞こえるはずのない音に全員の目がそちらにくぎ付けになる。そして、姿を現したのは。

「兵士……?」

「魔獣、じゃない」

 ぐっと力をためる姿勢。そこから一気にこちらに跳躍してくる。

「シャリラント!」

 ぐっとリーンスタさんが前に踏み出す。シャリラントによって大きくなった刃にガキンッと兵士のもつ剣が当たった。お、重い。ぐぐっと少しのつばぜり合いの後、すぐに俺の方が優勢となる。ふっ、と相手の力が不意に抜けた瞬間、剣を横凪に振り切った。

 その鎧自体はあまり頑丈ではなかったらしく、すぐに真っ二つに切れて消えていく。だが、ガシャン、という音は未だに聞こえる。

「嘘だろ……」

 そこには横に列を組み、道を埋め尽くすかのように進んでくる兵士たちがいた。

「多い……。
 でも、間に合うか」

 すっと目を細めると、マリナグルースさんが杖をそちらに向ける。そしてこちらをちらりと見てから火柱をあげた。それは幅を取ったからか下で見たものよりも威力が弱い。それでは兵士達を倒すことは敵わない。

 シャリラントを構えて俺はマリナグルースさんの火柱にかぶせるように風魔法をかける。あまり強すぎてはいけないけれど弱すぎてもいけない。ここ数回でつかんだコツのおかげで一発で威力調整に成功したようで、火柱はすぐに威力をあげる。

『うぐぅ、ぐぅあぁぁぁぁ!!!!』

 なに、これ。なんでこんな人間みたいな声で断末魔をあげているの? 衝撃に動けないでいると、袖を引かれる感覚がする。そちらを見るとフェリラが兵士たちから目をそらせないまま、顔色を悪くしていた。

「聞かなくていいよ」

 開いている手でフェリラの両耳を抑えるとこわばっていた方から力が抜ける。魔獣を倒したことは何度もあるけれど、人は手にかけたことはない。フェリラは。

「ハール、両手がふさがっていては危険です。
 私に任せて」

 シャリラントの言葉にうなずいて、フェリラから手を離す。どうやら俺たちの声だけが聞こえるようにしてくれたらしい。

「ハール、ありがとう」

「ううん。
 ……階段が見えてきた。
 行こう」
 
 俺がフェリラと話している間にもマリナグルースさんとリーンスタさんの二人で残った敵を屠っていく。ここに中長はいないのか、似たような兵士たちだけしか出てこなかった。

 警戒をしながら上がった先。上がり切ったときにすぐ魔法が飛んできた。それをリーンスタさんの盾が防ぐ。魔法の主はやはり下の階と似たような兵士。先ほどの兵士はそろって鈍色の鎧を着ていたのに対し、今度は紫色の鎧を着ている。

 それがまた大量にいるんだよね……。

「ねえ、今回のドロップ品は私もらっていい?」

 声の方を見るとマリナグルースさんが目をきらめかせながら兵士軍団の方を見ていた。リーンスタさんは私はいいが……、とこちらを見る。フェリラもよさそうだ。

「大丈夫です。
 でも、そんなにいいものが?」

「前言撤回はできないから。
 ……ほら、見てよ」

 言いながらずいっと目の前に出されたのは石、おそらく魔石だった。でも今まで見たのとは違う。石の中で様々な色が渦巻いていて色が定まっていない。しかもラメのように細かくきらめいている?

「こんな魔石は見たことがない!
 きっと研究すれば新しい発見がある!」

 お、おお。なんかスイッチが入ったようだ。上に上がるにつれて口数が多くなってきたなーとは思っていたが、こんな力強い声は初めて聴いた。リーンスタさんは苦笑いしているし。

「ふふふ、さぁて。
 たくさん魔石をだしなさい?」

 にこり、と笑みを浮かべたマリナグルースさんは次々と魔法を兵士たちに打ち込んでいく。ただ、向こうも魔法を使える身。先ほどよりもうまく攻撃が通らない。それを補佐したり、向こうからの魔法攻撃を防いだりとせわしなく視線を配っていく。

「これ、兵士一体につき使える魔法は一つみたいですね。
 マリナグルースさん、先にあの兵士倒しくれませんか?」

 そういってとある一体を示す。あいつ、闇魔法が使えるみたいでさっきから俺たちを影の中に引きずり込もうとしている。他にもいるかわからないが、ひとまずあいつだ。他の人に気づかれる前になんとか対処している、がそろそろ……。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...