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5章 ダンジョン
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先頭を歩くリーンスタさんが先制攻撃を防ぎ、そのあとに俺かマリナグルースさんが魔法でせん滅する。意外とこの戦略だけで塔の半分は登ることができた。もう俺たち3人とフェリラだけしかいない。
1階層からここまで、一体どれほど階層を上がっただろうか。ふいに天井が今までの2倍ほど高くなる。
「なあ、このダンジョン何かおかしくない……?」
「ええ……」
「おかしい?」
「俺たちもあまり多くのダンジョンに行っていないので確信は持てませんが……。
通常、上に行けば行くほどダンジョンの長が近くなるので空気が重くなりますが、ここは1階層から今まで同じです。
しかもダンジョンの構造も複雑、中はきれい」
階段などが大体端に位置していて上がるごとにかなり歩かさられる。そして魔獣の種類がなんというか、虫とかではないのだ。人に近いというか……。そのせいで余計に精神が摩耗する。
「まあ、私の魔法があれば楽に行けるわね。
見かけ倒しって感じ」
「油断は禁物だよ」
「わかってる」
危なげもなくその階の長を倒すと俺たちはまた階段を上がっていった。
「……何これ?」
思わず声が漏れる。それも仕方ないと思う。今までは妙に小ぎれいとは言ってもダンジョンではあった。でも、ここは。
「住居、か?」
「うわ、このソファふかふか」
「マリナグルース!?」
「あ、本当。
……それにしてもすごいね。
屋敷の廊下みたい」
「ねえ、これ何の音?」
ガシャン、ガシャン、と金属がすれる音が聞こえてくる。こんなところでは聞こえるはずのない音に全員の目がそちらにくぎ付けになる。そして、姿を現したのは。
「兵士……?」
「魔獣、じゃない」
ぐっと力をためる姿勢。そこから一気にこちらに跳躍してくる。
「シャリラント!」
ぐっとリーンスタさんが前に踏み出す。シャリラントによって大きくなった刃にガキンッと兵士のもつ剣が当たった。お、重い。ぐぐっと少しのつばぜり合いの後、すぐに俺の方が優勢となる。ふっ、と相手の力が不意に抜けた瞬間、剣を横凪に振り切った。
その鎧自体はあまり頑丈ではなかったらしく、すぐに真っ二つに切れて消えていく。だが、ガシャン、という音は未だに聞こえる。
「嘘だろ……」
そこには横に列を組み、道を埋め尽くすかのように進んでくる兵士たちがいた。
「多い……。
でも、間に合うか」
すっと目を細めると、マリナグルースさんが杖をそちらに向ける。そしてこちらをちらりと見てから火柱をあげた。それは幅を取ったからか下で見たものよりも威力が弱い。それでは兵士達を倒すことは敵わない。
シャリラントを構えて俺はマリナグルースさんの火柱にかぶせるように風魔法をかける。あまり強すぎてはいけないけれど弱すぎてもいけない。ここ数回でつかんだコツのおかげで一発で威力調整に成功したようで、火柱はすぐに威力をあげる。
『うぐぅ、ぐぅあぁぁぁぁ!!!!』
なに、これ。なんでこんな人間みたいな声で断末魔をあげているの? 衝撃に動けないでいると、袖を引かれる感覚がする。そちらを見るとフェリラが兵士たちから目をそらせないまま、顔色を悪くしていた。
「聞かなくていいよ」
開いている手でフェリラの両耳を抑えるとこわばっていた方から力が抜ける。魔獣を倒したことは何度もあるけれど、人は手にかけたことはない。フェリラは。
「ハール、両手がふさがっていては危険です。
私に任せて」
シャリラントの言葉にうなずいて、フェリラから手を離す。どうやら俺たちの声だけが聞こえるようにしてくれたらしい。
「ハール、ありがとう」
「ううん。
……階段が見えてきた。
行こう」
俺がフェリラと話している間にもマリナグルースさんとリーンスタさんの二人で残った敵を屠っていく。ここに中長はいないのか、似たような兵士たちだけしか出てこなかった。
警戒をしながら上がった先。上がり切ったときにすぐ魔法が飛んできた。それをリーンスタさんの盾が防ぐ。魔法の主はやはり下の階と似たような兵士。先ほどの兵士はそろって鈍色の鎧を着ていたのに対し、今度は紫色の鎧を着ている。
それがまた大量にいるんだよね……。
「ねえ、今回のドロップ品は私もらっていい?」
声の方を見るとマリナグルースさんが目をきらめかせながら兵士軍団の方を見ていた。リーンスタさんは私はいいが……、とこちらを見る。フェリラもよさそうだ。
「大丈夫です。
でも、そんなにいいものが?」
「前言撤回はできないから。
……ほら、見てよ」
言いながらずいっと目の前に出されたのは石、おそらく魔石だった。でも今まで見たのとは違う。石の中で様々な色が渦巻いていて色が定まっていない。しかもラメのように細かくきらめいている?
「こんな魔石は見たことがない!
きっと研究すれば新しい発見がある!」
お、おお。なんかスイッチが入ったようだ。上に上がるにつれて口数が多くなってきたなーとは思っていたが、こんな力強い声は初めて聴いた。リーンスタさんは苦笑いしているし。
「ふふふ、さぁて。
たくさん魔石をだしなさい?」
にこり、と笑みを浮かべたマリナグルースさんは次々と魔法を兵士たちに打ち込んでいく。ただ、向こうも魔法を使える身。先ほどよりもうまく攻撃が通らない。それを補佐したり、向こうからの魔法攻撃を防いだりとせわしなく視線を配っていく。
「これ、兵士一体につき使える魔法は一つみたいですね。
マリナグルースさん、先にあの兵士倒しくれませんか?」
そういってとある一体を示す。あいつ、闇魔法が使えるみたいでさっきから俺たちを影の中に引きずり込もうとしている。他にもいるかわからないが、ひとまずあいつだ。他の人に気づかれる前になんとか対処している、がそろそろ……。
1階層からここまで、一体どれほど階層を上がっただろうか。ふいに天井が今までの2倍ほど高くなる。
「なあ、このダンジョン何かおかしくない……?」
「ええ……」
「おかしい?」
「俺たちもあまり多くのダンジョンに行っていないので確信は持てませんが……。
通常、上に行けば行くほどダンジョンの長が近くなるので空気が重くなりますが、ここは1階層から今まで同じです。
しかもダンジョンの構造も複雑、中はきれい」
階段などが大体端に位置していて上がるごとにかなり歩かさられる。そして魔獣の種類がなんというか、虫とかではないのだ。人に近いというか……。そのせいで余計に精神が摩耗する。
「まあ、私の魔法があれば楽に行けるわね。
見かけ倒しって感じ」
「油断は禁物だよ」
「わかってる」
危なげもなくその階の長を倒すと俺たちはまた階段を上がっていった。
「……何これ?」
思わず声が漏れる。それも仕方ないと思う。今までは妙に小ぎれいとは言ってもダンジョンではあった。でも、ここは。
「住居、か?」
「うわ、このソファふかふか」
「マリナグルース!?」
「あ、本当。
……それにしてもすごいね。
屋敷の廊下みたい」
「ねえ、これ何の音?」
ガシャン、ガシャン、と金属がすれる音が聞こえてくる。こんなところでは聞こえるはずのない音に全員の目がそちらにくぎ付けになる。そして、姿を現したのは。
「兵士……?」
「魔獣、じゃない」
ぐっと力をためる姿勢。そこから一気にこちらに跳躍してくる。
「シャリラント!」
ぐっとリーンスタさんが前に踏み出す。シャリラントによって大きくなった刃にガキンッと兵士のもつ剣が当たった。お、重い。ぐぐっと少しのつばぜり合いの後、すぐに俺の方が優勢となる。ふっ、と相手の力が不意に抜けた瞬間、剣を横凪に振り切った。
その鎧自体はあまり頑丈ではなかったらしく、すぐに真っ二つに切れて消えていく。だが、ガシャン、という音は未だに聞こえる。
「嘘だろ……」
そこには横に列を組み、道を埋め尽くすかのように進んでくる兵士たちがいた。
「多い……。
でも、間に合うか」
すっと目を細めると、マリナグルースさんが杖をそちらに向ける。そしてこちらをちらりと見てから火柱をあげた。それは幅を取ったからか下で見たものよりも威力が弱い。それでは兵士達を倒すことは敵わない。
シャリラントを構えて俺はマリナグルースさんの火柱にかぶせるように風魔法をかける。あまり強すぎてはいけないけれど弱すぎてもいけない。ここ数回でつかんだコツのおかげで一発で威力調整に成功したようで、火柱はすぐに威力をあげる。
『うぐぅ、ぐぅあぁぁぁぁ!!!!』
なに、これ。なんでこんな人間みたいな声で断末魔をあげているの? 衝撃に動けないでいると、袖を引かれる感覚がする。そちらを見るとフェリラが兵士たちから目をそらせないまま、顔色を悪くしていた。
「聞かなくていいよ」
開いている手でフェリラの両耳を抑えるとこわばっていた方から力が抜ける。魔獣を倒したことは何度もあるけれど、人は手にかけたことはない。フェリラは。
「ハール、両手がふさがっていては危険です。
私に任せて」
シャリラントの言葉にうなずいて、フェリラから手を離す。どうやら俺たちの声だけが聞こえるようにしてくれたらしい。
「ハール、ありがとう」
「ううん。
……階段が見えてきた。
行こう」
俺がフェリラと話している間にもマリナグルースさんとリーンスタさんの二人で残った敵を屠っていく。ここに中長はいないのか、似たような兵士たちだけしか出てこなかった。
警戒をしながら上がった先。上がり切ったときにすぐ魔法が飛んできた。それをリーンスタさんの盾が防ぐ。魔法の主はやはり下の階と似たような兵士。先ほどの兵士はそろって鈍色の鎧を着ていたのに対し、今度は紫色の鎧を着ている。
それがまた大量にいるんだよね……。
「ねえ、今回のドロップ品は私もらっていい?」
声の方を見るとマリナグルースさんが目をきらめかせながら兵士軍団の方を見ていた。リーンスタさんは私はいいが……、とこちらを見る。フェリラもよさそうだ。
「大丈夫です。
でも、そんなにいいものが?」
「前言撤回はできないから。
……ほら、見てよ」
言いながらずいっと目の前に出されたのは石、おそらく魔石だった。でも今まで見たのとは違う。石の中で様々な色が渦巻いていて色が定まっていない。しかもラメのように細かくきらめいている?
「こんな魔石は見たことがない!
きっと研究すれば新しい発見がある!」
お、おお。なんかスイッチが入ったようだ。上に上がるにつれて口数が多くなってきたなーとは思っていたが、こんな力強い声は初めて聴いた。リーンスタさんは苦笑いしているし。
「ふふふ、さぁて。
たくさん魔石をだしなさい?」
にこり、と笑みを浮かべたマリナグルースさんは次々と魔法を兵士たちに打ち込んでいく。ただ、向こうも魔法を使える身。先ほどよりもうまく攻撃が通らない。それを補佐したり、向こうからの魔法攻撃を防いだりとせわしなく視線を配っていく。
「これ、兵士一体につき使える魔法は一つみたいですね。
マリナグルースさん、先にあの兵士倒しくれませんか?」
そういってとある一体を示す。あいつ、闇魔法が使えるみたいでさっきから俺たちを影の中に引きずり込もうとしている。他にもいるかわからないが、ひとまずあいつだ。他の人に気づかれる前になんとか対処している、がそろそろ……。
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