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5章 ダンジョン
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「……、でかいな」
「本当に」
「ここまで禍々しいものは見たことがありません……」
心底、神島から応援が来てくれてよかったと思う。こんなの、俺たちだけでは相手できるわけがない。改めて見てみてもこれだけ巨大なものは見たことがない。しかも、数割増しで空気が重くなっている。
「ダンジョンに入る前からこれか……」
「一度、皇宮に行って上から見てきます。
皆さんも来ますか?」
俺の言葉にうなずく人と戸惑う人に別れる。レッツたちは各々の武器の最終調整がしたいとのことだったので俺たち、神剣の主とリキート、フェリラで行くこととなった。
皇宮、と言ってもそこまで階数があるわけではない。ただ皇宮の一角に塔が立っていて、そこならそれなりに高くまで伸びている。先が見えない状態で向かうよりもその塔と比較して大体のあたりをつけたほうが気持ち楽だろう。
魔法でブーストをかけながら、塔の上の方へ進んでいく。塔の先頭まで到着して、改めてダンジョンを見る。
以前から言われていたことだが、ダンジョンは確かに2塔寄り添うように立っていた。その高さはこの皇宮の塔よりも数階分高いくらいか。手前にある方がわずかに高い。
「これは……かなり高いな」
「しかも歪だねー。
まあ、ダンジョンだし途中でくずれることはないだろうけど」
「怖いこと言わないで。
さて、確認できたことだし行きましょ?」
「ああ、そうだな。
さてハール。
どっちに行く?」
「……では、あの高い方で」
「わかった。
では行くか」
こくりとうなずいて、俺たちは再び演習場へと降りていった。
「あのー、本当に入るんですか……?」
場所はすでにダンジョンの入り口手前。そこには妙に豪華な門が設置されていた。その奥にあるダンジョンの扉には門番のような絵が2体描かれている。それは今にも飛び出してきそうなほどに本物に似たものだった。
そして、とある新人はその門に入るのすら躊躇していた。そんな新人に無理はしないように、と一言だけ言い渡して俺はシャリラントと共に門に一歩踏み入れた。
途端、やはりというか、扉に描かれていた絵が門から抜け出し始める。ここはまだ入ってすらいない場所。そこまで強くはないだろうが、放っておくと後々面倒だ。その門番がとびらから抜けだしきる直前、シャリラントでその胴体を二つにたたき切る。同時にもう一体も魔法による氷で串刺しにされていた。
「さすがですね」
氷を出した主、マリナグルースに声をかけるもぷいと顔を背けられてしまった。なぜだ。
「マリナグルースは人見知りでね。
悪気はないし、仕事はきちんとこなすから気にしないでくれ」
「はぁ……、わかりました」
本当にそれでいいのか、と疑問がわくが今はそれを気にしている余裕はない。俺は先に進むと、扉へと手をかける。いよいよ、始まるんだ。久しぶりのダンジョン攻略。それも過去最大に巨大なものであることにどうも緊張しているようだ。一度大きく深呼吸をする。
そしてこれまた妙に豪華な装飾が施された取っ手に手をかける。こんな風に丁寧に扉が設置されているダンジョンもまたおかしいだろう。そして、取っ手にかけた手に誰かの手が重ねられた。
「……リーンスタさん?」
「ここは私が。
シールディリアがいるから大丈夫だよ」
だから下がっていて、と言われて一度下がることにする。側にはリキートが来ていた。
「ハール、どうか無事で」
まっすぐ、強い目で見られる。そんなリキートを俺もまっすぐ見る。
「ああ。
リキートも」
「では、行きます」
そうして、ダンジョンの扉は開かれた。
1階層目はいっそ、不気味なほど静かだった。だが、入った瞬間目を見張るほどそこかしこに鉱石や宝石が埋まっている。
「これは……ゆっくりと時間をかけて採りたかった……」
誰かのつぶやきが聞こえる。その気持ちはわかるが、さすがにこれを放置しておくわけにはいかないからな。今回、参加している人は全員わが国で最高峰の魔法鞄を所持している。ここで確保できた資材は国の財産にもなる。今回の補助金、これから皇国が立ち直っていくためのお金を確保するために鞄をかき集めたのだ。
そこにできる限りダンジョンで採ったものを入れることになっている。その何割かは本人のものになるし、皆やる気が出るのだろう。
この先何があるかわからない。俺も適当に宝石を入れつつ、周りを警戒しながら進んでいく。外ではあんなに禍々しい空気をまとっていたというのに、ここは何の気配もなかった。ただ、しん、としている。それがいっそ不気味だ。
そのとき。カンッと甲高い音が一体に響く。そして横を何かが……槍が通り過ぎていった。
「来ましたね」
そのリーンスタさんの声が聞こえたのか、奥からミノタウロスが姿を現した。その手には槍が握られている。また、その手から槍が放たれる。いやいや、使い方あってます?
「面倒な」
ぽつりと言ったマリナグルースが魔法を展開していく。ミノタウロスの頭上に数個の紋様が浮かんだかと思うと天井から雷が落ちてきた。あまりの速さにミノタウロスは避けることも忘れて黒焦げになる。さ、さすが……、一瞬だ。
「ここはさすがに弱いね。
一気に進もう」
リーンスタさんの言葉にうなずく。食料は持ってきたけれど、あまり時間をかけたいものではない。付いてこられるものだけ付いてくるように、そう後ろに伝えて一気にスピードを上げた。
「本当に」
「ここまで禍々しいものは見たことがありません……」
心底、神島から応援が来てくれてよかったと思う。こんなの、俺たちだけでは相手できるわけがない。改めて見てみてもこれだけ巨大なものは見たことがない。しかも、数割増しで空気が重くなっている。
「ダンジョンに入る前からこれか……」
「一度、皇宮に行って上から見てきます。
皆さんも来ますか?」
俺の言葉にうなずく人と戸惑う人に別れる。レッツたちは各々の武器の最終調整がしたいとのことだったので俺たち、神剣の主とリキート、フェリラで行くこととなった。
皇宮、と言ってもそこまで階数があるわけではない。ただ皇宮の一角に塔が立っていて、そこならそれなりに高くまで伸びている。先が見えない状態で向かうよりもその塔と比較して大体のあたりをつけたほうが気持ち楽だろう。
魔法でブーストをかけながら、塔の上の方へ進んでいく。塔の先頭まで到着して、改めてダンジョンを見る。
以前から言われていたことだが、ダンジョンは確かに2塔寄り添うように立っていた。その高さはこの皇宮の塔よりも数階分高いくらいか。手前にある方がわずかに高い。
「これは……かなり高いな」
「しかも歪だねー。
まあ、ダンジョンだし途中でくずれることはないだろうけど」
「怖いこと言わないで。
さて、確認できたことだし行きましょ?」
「ああ、そうだな。
さてハール。
どっちに行く?」
「……では、あの高い方で」
「わかった。
では行くか」
こくりとうなずいて、俺たちは再び演習場へと降りていった。
「あのー、本当に入るんですか……?」
場所はすでにダンジョンの入り口手前。そこには妙に豪華な門が設置されていた。その奥にあるダンジョンの扉には門番のような絵が2体描かれている。それは今にも飛び出してきそうなほどに本物に似たものだった。
そして、とある新人はその門に入るのすら躊躇していた。そんな新人に無理はしないように、と一言だけ言い渡して俺はシャリラントと共に門に一歩踏み入れた。
途端、やはりというか、扉に描かれていた絵が門から抜け出し始める。ここはまだ入ってすらいない場所。そこまで強くはないだろうが、放っておくと後々面倒だ。その門番がとびらから抜けだしきる直前、シャリラントでその胴体を二つにたたき切る。同時にもう一体も魔法による氷で串刺しにされていた。
「さすがですね」
氷を出した主、マリナグルースに声をかけるもぷいと顔を背けられてしまった。なぜだ。
「マリナグルースは人見知りでね。
悪気はないし、仕事はきちんとこなすから気にしないでくれ」
「はぁ……、わかりました」
本当にそれでいいのか、と疑問がわくが今はそれを気にしている余裕はない。俺は先に進むと、扉へと手をかける。いよいよ、始まるんだ。久しぶりのダンジョン攻略。それも過去最大に巨大なものであることにどうも緊張しているようだ。一度大きく深呼吸をする。
そしてこれまた妙に豪華な装飾が施された取っ手に手をかける。こんな風に丁寧に扉が設置されているダンジョンもまたおかしいだろう。そして、取っ手にかけた手に誰かの手が重ねられた。
「……リーンスタさん?」
「ここは私が。
シールディリアがいるから大丈夫だよ」
だから下がっていて、と言われて一度下がることにする。側にはリキートが来ていた。
「ハール、どうか無事で」
まっすぐ、強い目で見られる。そんなリキートを俺もまっすぐ見る。
「ああ。
リキートも」
「では、行きます」
そうして、ダンジョンの扉は開かれた。
1階層目はいっそ、不気味なほど静かだった。だが、入った瞬間目を見張るほどそこかしこに鉱石や宝石が埋まっている。
「これは……ゆっくりと時間をかけて採りたかった……」
誰かのつぶやきが聞こえる。その気持ちはわかるが、さすがにこれを放置しておくわけにはいかないからな。今回、参加している人は全員わが国で最高峰の魔法鞄を所持している。ここで確保できた資材は国の財産にもなる。今回の補助金、これから皇国が立ち直っていくためのお金を確保するために鞄をかき集めたのだ。
そこにできる限りダンジョンで採ったものを入れることになっている。その何割かは本人のものになるし、皆やる気が出るのだろう。
この先何があるかわからない。俺も適当に宝石を入れつつ、周りを警戒しながら進んでいく。外ではあんなに禍々しい空気をまとっていたというのに、ここは何の気配もなかった。ただ、しん、としている。それがいっそ不気味だ。
そのとき。カンッと甲高い音が一体に響く。そして横を何かが……槍が通り過ぎていった。
「来ましたね」
そのリーンスタさんの声が聞こえたのか、奥からミノタウロスが姿を現した。その手には槍が握られている。また、その手から槍が放たれる。いやいや、使い方あってます?
「面倒な」
ぽつりと言ったマリナグルースが魔法を展開していく。ミノタウロスの頭上に数個の紋様が浮かんだかと思うと天井から雷が落ちてきた。あまりの速さにミノタウロスは避けることも忘れて黒焦げになる。さ、さすが……、一瞬だ。
「ここはさすがに弱いね。
一気に進もう」
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