『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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5章 ダンジョン

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 一度部屋を出て準備を進めることにする。さすがにこの格好でダンジョンには行きたくないし。ふと思い出し、部屋に戻りながらも城下町の様子を側を歩く侍従に尋ねた。

「すでに大部分の避難は完了しております。
 明らかに異様な空気ですからね……」

 そう言って侍従は窓に視線を向ける。確かにこの様子では避難の支持に従うしかないだろう。今回の避難は動き出したばかりの騎士団が誘導にあたっている。その指揮をしているのがモンラース皇子だ。国民に寄り添える騎士団をアピールするにもある意味いい機会だったろう。

 通常、ダンジョンは民家があるところには出現しない。フェリラの村だってダンジョンがあったのは村の端、民家がないところだった、そういった事情を考えると、とくに避難は必要ないのでは、という意見もあったそうだが万が一に備えて、何かあったときにスムーズにいくように計画は立ててあったのだ。それが大いに役に立ったというわけだ。

 実際、この様子を見るとおそらくこの近くにダンジョンが出現するであろうことは肌で感じる。

 そして、まさに今、皇宮の一角では避難した民の食糧問題や家を失うであろう民への救済をどうしたらいいのか話し合いが行わられている、らしい。これも今までの皇国ではありえなかったことだ。

 災害が起きようと放置。国としては何もしない。各地の領主が手を差し伸べてくれるのすらかなりまれで、災害が起きた年は餓死者も多かったと聞く。それが国主体で避難を行い、同時に援助の話合いが行われていく。

 新たな皇国に国民は大きな信頼と期待を寄せていると聞く。きっとこれは、そんな期待に応えられるものなのだろう。

 部屋に着くと早速着替える。軽く体を動かしてみても特に問題はない。しっかりと神剣を持つとリキートたちが待つ演習場へと向かうために部屋をでた。

「スーベルハーニ」

「っ、陛下!」

 廊下を歩いていると、前から陛下が歩いてきた。とっさに頭を下げると、いい、とすぐに言われる。陛下の側にはリヒトが控えている。

「朝から異様な空気だな。
 ……ダンジョンのこと、よろしく頼む。
 何もできないことが歯がゆいがな」

「いいえ。
 何が起こるかはわかりませんが、頼まれました。
 それに、皇都を出る際にカンペテルシア殿からも頼まれてしまいましたからね。
 最善を尽くします」

 俺の言葉に陛下は一つうなずく。リヒトは何か言いたげにこちらを見ていたが、陛下の前だからか結局何も言わずに静かに頭を下げた。


 
「遅かったね、ハール」

「ごめん。
 でも間に合っただろう?」

「まあ」

 演習場に着くと、すでに今回参加する騎士団員とリキート、フェリラが待っていた。陛下とも言葉を交わしたことでいつの間にか抜けなくなっていた力も、こうしてリキートと話していると抜けていく。

 そして、まずは2人に先ほどの話合いの結果を伝えていく。本当は3人そろってダンジョンの主のところまで行く予定だったが、それはフェリラだけに。リキートは下位層で待機して、俺たちの退路を確保する隊の隊長に回ってもらう。

「え……、フェリラは連れて行くの?」

「癒しの魔法が使える人が欲しい。
 もう一人心当たりがあるけど、その人はこちらではない方に行くから」

「そっか……」

「フェリラは守るから」

「ちょっと待って、私だって多少は戦える。
 もちろん、癒しの魔法がメインの仕事になるだろうし、無茶なことはしない」

 すっかり守る気でいたフェリラ自身にそんなことを言われてはうなずくしかない。確かに今まではずっとそうやって戦ってきたのだ。リキートは一人下位層に残ることに不安そうにしていたが、ひとまず納得してくれた。

 次にレッツに声をかけて、ひとまずそれぞれの行くダンジョン、というより作戦に変更が会ったことを伝えると、隊を組みなおすからその間に俺の方から共有してくれ、と言われてしまった。

「神島から神剣の主たちが到着した。 
 それに伴って編成も変更になっている」
 
 神島から、という言葉に一気に場がざわつく。そりゃそうだよな。このことは未だ一部の人にしか伝えられていない。どうしたら、と思っていたらレッツのひと睨みですぐに静かになってくれた。

「もともと、君たちにはイシューさんについてサポートを担当する予定だった。
 だが、応援が到着したことにより、半分に分けて退路確保に専念してもらうことになった。 
 何か違和感があったり、負傷した場合はすぐにその場から離れてダンジョンから脱出してくれ」

 俺の言葉に「はっ!」という言葉が続く。あまりこういう風に前に立って指示出しすることがないのでその返答にも緊張してしまう。でもそんなことは言っていられない。

 レッツによって隊が二つに分けられる。俺が行く方はリキートが隊をまとめてくれるので、レッツはもう一方、イシューさんの方に行ってもらう。

 こうして話がまとまったところで外から地響きのような音が響きだした。まるでどこかでこちらの様子を見ていたかのようにタイミングがぴったりだ……。

 一体どこから、とあたりを見回してしばらく。ここにいても黒い靄のようなものをまとった塔がそこに建っていたであろう建物を押し上げながら、音と共に上へと伸びていく様子が目に入る。

「なんだ、あれ……」

 つぶやいたのは誰だったのだろうか。でも、それは全員考えたことだっただろう。

「ダンジョンが出現する瞬間なんて初めて見た……」

「イシューさんでも、ですか?」

「ああ。
 こんなのそうそう見れるわけがない」

 そうして。この場にいる全員。もしかしたら皇都中の人々が見守るなか、それは音を止めた。
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