『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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6章 再会と神島

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 あれは、陽斗か? 俺はふわふわと空中を浮かぶようにして下を見下ろしていた。そこには今まさに靴を履いてドアノブに手をかけようとしている陽斗の姿がある。その服装はもう消えかかっている過去の記憶で最後に着ていたままのものだ。

 そしていつも通りの道を歩いて駅へと向かっていく。着いた改札口はいつもよりも騒がしい。どうやら何かトラブルがあったようで電車が遅れているようだ。それでももう少しで電車が来るということでホームへと降りていく。何があったのか、とスマホを見ながらホームの端を歩く陽斗。

 ホームにあふれている人にぶつかってよろめき、そのまま線路へと落ちるその瞬間。不意に宮間の姿が目に入った。はっと目を見開き、一瞬、本当に一瞬だけ口角を上げる。そのときああ、と思った。やっぱり自分は孤独だったのだと。諦めの感情が体から力を奪っていく。いつの間にか俺は空中で見ているのではなく、陽斗自身になっている。

 押されて線路に落ちるまでの時間はほんのわずかだったはず。なのに、一つ一つがスローモーションに感じた。こっちは電車が来ない側だったはず。そんな考えは電車が高速で迫ってくる音と悲鳴、叫び声でかき消えた。

 そして、電車が体にあたる。痛みは感じない。きっと自分はここで死ぬのだろう。でも、もういいのかもしれない。もう、自分は十分頑張ったのだから。もう、休んでもいいのかもしれない。小さいときに家族を失って以来、親戚の家に世話になってきた。でもどこの家でも自分は厄介者扱いで心休める場所なんてなかった。その中で宮間は中学の時から一緒にいてくれた友人だった。

 なのに、そんな人からすら死ぬことを喜ばれるのなら、もういいか。諦めと、これで終われるという安心感が体を包む。そのまま俺は闇へと沈んでいった。

―――――――――――――――――――――――

 目を開けると、今朝起きたばかりのベッドから見た景色と同じものが見える。きっとあのまま倒れたのだろう。ぼんやりとそんなことを考える。

 ずっと忘れていた陽斗の最期の記憶。でも、思い出してもそうだったっけ、という感想しか思い浮かばない。キンベミラ殿下から話を聞いていた時も感じていたが、もう自分の中で陽斗だった前世は完全に過去のものであり、現世に持ち込むものではなくなっていた。

 今の俺はスーベルハーニ・アナベルクであり、リゼッタの子であり、スランクレトの弟であり、リキートとフェリラの友人だ。今の俺には陽斗と違いお互いを心から大切に思える相手がいる。居場所がある。それを忘れるつもりは毛頭なかった。

「ハール、大丈夫ですか?」

「シャリラント。
 うん、もう大丈夫」

 そうだ、シャリラントもいたね。どうやら俺が目覚めたことを感じて出てきたらしい。枕元に置いてあった水をもらうとすっきりとする。さすがにキンベミラ殿下にも何か言わなければいけないだろう。目の前で倒れられたから驚いただろうし。

 でも、あくまで俺を陽斗として接してきたキンベミラ殿下に何を言ったらいいのか悩む。まあ、正直に言うしかないのだろうけれど。一つため息をつくと、決心してベッドから出る。そして扉を出るとすぐそばに騎士が立っていた。

「目覚められましたか、スーベルハーニ皇子!」

「あ、えっと、はい」

 見覚えがあるような気もする。確かここの騎士、だったような?

「すぐにカンペテルシア様にお伝えいたしますので、どうか部屋にてお待ちください」

「わかりました」

 まあ、来てもらえるのならばそれでもいいか、とおとなしく部屋に戻るとすぐに扉がノックされた。開けてみると、そこにはカンペテルシア殿が。本当にすぐ伝えてくれたんだね。

「スーベルハーニ、大丈夫なのか!?
 きゅ、急に倒れたときいて……」

「ご心配をおかけしてすみません。
 もう大丈夫です」

「それならよいが……。
 その、キンベミラ殿下がそなたに会いたがっている」

 まあ、そうだよね。いやなら断ってもいい、と言ってくれるカンペテルシア殿に大丈夫です、とだけ答える。いやいや、こんな状況で新しく同盟国となったオースラン王国の王太子を帰しちゃだめでしょう。俺がいいのなら、とキンベミラ殿下との席をもう一度用意してもらうこととなった。

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