『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

文字の大きさ
135 / 178
6章 再会と神島

6

しおりを挟む
「その、大丈夫か?」

「ええ、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした、キンベミラ殿下」

 あえて、名前を強調して口に出す。これで今はお互い宮間でも陽斗でもないのだ、という意思が伝わればいいのだが。

「本当にすみませんでした、……スーベルハーニ皇子」

 その一言で俺の意思が伝わっていないことがよく分かった。俺はもうそこには触れてほしくないし、陽斗はあの瞬間にもうあきらめてしまったのだ。他人に好いてもらうことを。でも俺は、スーベルハーニは違う。彼が俺を陽斗としか見ていないのならば、それはスーベルハーニとして生きてきた俺への侮辱でもある。

「もう二度と、陽斗の名を口にしないでください。
 俺はもう陽斗ではない。 
 そしてあなたももう宮間ではない。
 キンベミラ・オースラン王太子という、将来オースラン王国を導いていくお方だ。
 過去にとらわれていないで、前を見てください。
 あなたがそんなでは王国民はどうしたらいいのですか。
 ……、きかっけは何であれこうして皇国と同盟を結んでくださったことには感謝いたします」

「はる……、スーベルハーニ皇子。
 わ、私はずっと、君に罪を償わなければと思って生きてきました。
 ただ、それだけのために。
 だが、君はそれが必要ないというんですね」

 そういうと顔を覆ってしまったキンベミラ殿下。いや、そのためだけって。そう言おうとしたが、その様子からそれが決して嘘ではないことが分かった。

「俺がオースラン王国に滞在しているときに、殿下の話を聞きました。
 民のために動いてくれる良い王太子だと。
 きっと意識していなくてもあなたの働きは国のためになっていたのでしょう。
 だから、これからはあなたを信頼している国民のために、力を尽くしてください」

 そういうと、キンベミラ殿下はうつむいてしまった。そしてそのまま小さな声で囁く。

「ひとつだけ、教えてください。
 この同盟は君の力になりましたか?」

「はい、とても」

「それなら、何よりです」

 顔を上げた殿下は涙を浮かべながら微笑んだ。そして、頭を下げる。

「スーベルハーニ皇子の心情を考えず、申し訳ございませんでした。
 どうかこれからも、同盟国としてよろしくお願いいたします」

「はい、よろしくお願いいたします」

 これでこの話はおしまい、かな。ひとまず受け入れてくれたようでよかった。俺のことを陽斗と呼ばなくなったし、口調も変わっていることにほっとした。

「明日には国に戻ります。
 また、お会いできることを楽しみにしております」

 そのあとの話し合いで今日の晩御飯は双方の使節団全員で一緒に取ることとなった。その様子は無事に同盟が結ばれたこともあり、とても和やかなものとなった。だが、カンペテルシア殿はこちらを心配そうに見てきており、思ったよりも心配させてしまったようだ。


「シャリラントはさ、俺が転生者だって知っていたの?」

 夜、自分の部屋でようやく落ち着くとシャリラントにそう問いかけていた。シャリラントはキンベミラ殿下から話を聞いていたときに一緒にいた。あの話が聞こえていたはずだ。

「そうですね、知っていた、と言えるでしょう。
 私はミベラ神からあなたのことを教えられたときに変わった魂がある、と言われました。
 ほかの世界からやってきた魂が。
 なので、記憶が保持しているかは知りませんでしたが、魂自体は他の世界で生まれたことは知っていました」

「そうか」

 なら、シャリラントは知らなかったのか。俺が転生することになった理由も前世でどういう生活を送っていたのかも。それに少しほっとした。

「知ってほしいですか?」

「いいや。
 聞かないでくれると嬉しいかな。
 俺はもう、この世界で生きているから」

「なら、そうしましょう。
 今日は疲れたでしょう?
 もう寝てください」

「そうだね。
 お休み、シャリラント」

 目を閉じると、やはり疲れていたようですぐに眠気がやってきた。

 翌日、キンベミラ殿下を代表としたオースラン王国の使節団は国へと帰っていった。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...