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6章 再会と神島
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しおりを挟む「それでは気を付けて。
無事に帰ってくるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
とうとう神島への出発の日。こちらに来た時のように旅装を整えた神島からの面々と俺。見送りということで陛下をはじめとして大勢の人が皇宮の前に集まっていた。俺へ言葉をかけ終わると陛下は神島からのお客人に向き直った。
「この度は助力いただき、心から感謝いたします。
あなた方が来てくださったおかげでこの国はこうして立ち直ることができました。
……、今までのことがなくなるわけではないことは承知していますが、これからはよい関係を築けることを願っています」
「ええ、そうですね。
あなた方が再び道を違えない限り、我々はよき隣人となれるでしょう。
ぜひまたこちらを訪ねたいと思います」
にこやかに二人の代表が握手を交わす。その様子に自然と拍手が沸き上がった。それでは、と手を離すと隣国へと向けて俺たちは出立した。
行きは正規のルートを通らずに、神剣の持ち主たちが集っていたからこそ採れる方法で強行してきたらしい。それが神島からアナベルク皇国への直通ルート。普通、距離が遠すぎて現在の技術ではたどり着く前に餓死する。それもたとえ無事に船が着けたとしても、の話だ。そもそもうまくいかない。
だが、彼らはそれを魔法の力であったり、なんでも食べれるように調理できるという神剣の力であったりと力を駆使して最短でたどり着いたというのだ。本当にすごい……。
だが、帰りはそのルートではなく、正規のオースラン王国から出ている船に乗るという。これはめったに島から出てこない彼らが、帰るついでに各地を回りたいという願いの元決まったことだ。かなり時間はかかってしまうが特に否定する理由もない。シャリラントも始まりのダンジョンに行くのは多少遅れても構わないと言っていたし。もう長い間ずっと待っていたのだから今更数日伸びたところで変わらない、と。
ということで、俺は初めてといえる穏やかな気持ちで旅を楽しむことにした、のだが。
「あの、これなんの冗談ですか?
俺先にいっていますね」
「え、なんでー?
冗談でも何でもないし、ハールも一緒にいなよ」
「い、いやいやいや」
お願いですから俺をここから逃がしてください。若干涙目になりながらいい笑顔で俺の腕をつかんでいるシュリベさんのことをにらんでみるも効果はなし。離してくれる気はないらしい。
「ティアナ様―!」
「リーンスタ様!」
いや、うん、確かに予想はしておくべきだった。めったに神島から出ない彼ら。それでもかなりの有名人だ。そりゃ顔も隠さないどころかむしろ堂々と正体明かして来たら人が集まるよね……。
「あはは、なんだかすごいことになっているね」
「本当に。
さっさと抜けたい……」
「でも多分、神島に着くまでこのままじゃない?
急遽馬車用意してもらって正解だったね」
「まあ、確かに」
そう徒歩で進めばいいかと特に馬車を用意せずに隣国へと足を踏み入れた俺たちだったが、国境で身分を改められたときになんのためらいもなく身分を明かしたのだ。その結果がこれ。慌てた審査官。裏返った声で少々お待ちください、と言ってすぐにお偉いさんを呼んできて馬車が用意された。
ちなみに俺は俺でアナベルク皇国の皇子なものだから数度見された。うん、仕方ない。え、おつきの人がいない? と周りときょろきょろされたのも仕方ない。でも今回は皇子というよりも神剣の主として国を出るというのが面々を見て何とか納得したようだった。まあ、冒険者としての身分証を使ってもよかったのだが、すでに顔が明かされていることを考えると、ねぇ。
ということで、今のこの状況。先に行っています、と馬車を降りようとしても止められる。解せない。こんなに人を集めているのは俺以外の人たちなのに。
「言っておくけれど、スーベルハーニを見に来ている人もいるからね」
「えっ」
「そんなに嫌そうな顔をしなくても……」
「嫌ですよ」
わざわざ俺を見に来るとは暇人すぎるだろう。注目されるのは得意じゃないし。そうして妙に疲れる道を通った先、今日泊まる予定の屋敷があった。これも国、というよりも貴族が好意で用意してくれたものだ。
宿に泊まる予定だったから、助かったといえば助かったけれど……。夕食は共に、と期待を込めた目で見られた結果、お世話になることもあってかティアナ様が快諾する。そうして俺たちと家主一家で食事をとることに。
食事後の団欒ではほかの人にはしきりに話しかけていたが、俺のことは好奇心やら警戒やらが入り混じった表情で見てきただけ。居心地がいいものではない。だが、今までの皇国のふるまいを考えるとそりゃそうだよね、という感想しか浮かばない。
そうして歓待された後、俺はティアナ様に呼ばれていた。
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