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6章 再会と神島
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しおりを挟む「そういえば、ハールがスーベルハーニ皇子……。
ならハールに会いたければ皇宮に行くしかないのか」
「うーん、そうなるのかな?
さすがに今後はそう簡単にここまでくるわけにはいかないだろうし。
もちろんみんなが会いに来てくれたら嬉しいけれど、無理はしないでね」
「いいや。
もともと、近々皇国に行く予定だったんだ。
まあ皇宮に入れるとは思っていないんだがな」
「皇国に?」
「ああ。
皇国とここが同盟を結んだ関係でオースラン王国の商会がアナベルク皇国に出入りできるようになったんだ。
それで皇国の復興支援を含めて商会をオースラン王国から繋ごうって話になったらしく、俺たちに白羽の矢が立ったというわけだ」
「あ、オースラン王国から派遣される商会ってみんなのことだったの⁉」
「そう。
皇族あての紹介状も書いてもらえることになったから、今はその準備でてんやわんやだ。
まさかその相手がハールだとは思ってもみなかったが」
いや、俺もだよ。って、今忙しかったのか。
「そんな忙しいところに来ちゃってごめんね」
「やだ、遠慮しないでよ。
それに皇宮で初めて会うことにならなくてよかったかも。
きっと商談どころではなくなってしまうから」
それはあるかもしれない? でももしかしたらサーグリア商会として皇国に来るころ、皇国にいない可能性あるんだよね。神島にどれくらい滞在するかわからないし。
「せっかくだし、俺からも紹介状書いておこうか」
「ハールが紹介状……?」
「俺、今から神島に行っていつ帰れるかわからないんだよね。
だからみんなが皇国に来る頃、皇国にいない可能性もあるんだよ」
「そうなんだ……」
「紹介状書いて明日お店にもっていくよ」
今ここでさらっと書いてしまう手もあるけれど、紹介状はきちんと俺の紋が入った封蝋を押したほうがいいだろう。
「いいのか……?
こちらとしてはとてもありがたいが。
でもいきなり皇国で商いだなんてどうなることかと思っていたが……。
ハールがいるところなら安心できるな」
「今の陛下は理不尽なことは言わない方だから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
それにみんなの役に立てるのなら、紹介状書くくらい大丈夫」
「そうか、ありがとう」
「あ、でももし俺が先に皇国に行っていたら、俺を呼んでくれていいからね」
「いやいや、皇子を一介の商人が呼び出せるわけないだろ……」
「うーん、でも事前に言っておけば大丈夫じゃないかな?」
そういうものなのか? と混乱している様子のケリー達。今までだって結構皇宮に人呼んでいるし、ケリー達はオースラン王国の紹介状も持っているから大丈夫だと思うんだけど。ひとまず書いて渡しておいて、使うかどうかはみんなに任せればいいだろう。
「あ、でもここにいる人たち以外に託すのはやめてね」
「それはもちろんだが……。
いや、分かった。
ありがとう」
これで恩返しができるとも思っていないができることからしていかないとね。
「改めて……。
あの時あやしい俺に声をかけてくれてありがとう。
一緒に過ごしてくれてありがとう。
みんながいたから俺はまた皇国に向き合える力を蓄えられた。
本当にありがとう」
精一杯の笑みでみんなに伝える。本当に出会えてよかった。あの時の俺はたった8歳で、誰も信じられなくて。ずっと一人だったらきっと全く違う今になっていたと思う。俺の身分とか過去とかを話したうえで感謝を伝えらえてよかった。
「そ、そんなのこっちの言うことだよ!
ハールがいろいろとアドバイスしてくれたから、こんなに大きな商会になったんだ。
ハールが与えてくれたものだよ。
こうしてみんなで笑って過ごせる時間は。
……あ、もうハールって呼んじゃダメか。
ちゃんとかしこまった態度とらないと」
「ハールと話しているなら今まで通りでいいよ。
でも、スーベルハーニ・アナベルクと話すのなら、そうだね、気を付けてもらわないと困るかも」
あはは、と苦笑いする。いや、これを自分から言うのきついな。だけど、詳細を説明しなくてもちゃんと意図をくみ取ってくれたようで真剣な顔でうなずいてくれた。
「あ、もうこんな時間。
ハール、もう帰るの?」
その言葉に少し考える。うーん、なんだかもっと話したい。王宮にはリーンスタさんが説明してくれるって言っていたし。でも、急に泊まりたいとか言っても迷惑かな……。
どうしよう、と迷っているとミグナさんがもしかして、と声を上げた。
「泊まっていけるの?」
その言葉に一気に俺に視線が集まる。ど、どうしよう。でも、きっとこんな機会もうないよね。
「もし、迷惑じゃなければ泊まりたい、です」
ううう、と気まずい思いをしながらもそう口にする。一瞬あと、ケリーががっと肩を抱いてきた。
「迷惑なわけないだろ!
ハールと一緒に寝るなんて何年振りだろ」
「ちょっと、なんでケリーと一緒の部屋使うこと前提なのよ。
客室だって空いているでしょ」
「えー、でもさ」
ぶすっとケリーがむくれる。それがなんだかおもしろい。すっかり青年になったケリーだけれど、まだ幼さが残っていることがわかる。俺からルゼッタを受け取ったナミカさんとケリーの言い合いはまだ続いていた。
「あの、よければケリーと一緒の部屋がいい、かな。
いろいろと話したいし」
何を話したいのかは決まっていない。けれど、きっと自然に話題が出てくる。夜更かしをしながら誰かとおしゃべりなんて全然経験がない。ちょっと楽しそうだ。
ほらな、と勝ち誇った笑みを浮かべたケリーの頭を軽くはたいたナミカさんは気を使わなくていいのに、といった。でも結局は俺の意見を優先してくれました。
そうして寝落ちするまでケリーとさんざん話した朝、俺は王宮へと帰っていった。すぐに紹介状を書いて封をする。もともとはお店に届けようとしていたけれど、もう一度家のほうに戻ることとなった。リーンスタさんも一緒に。
話が終わった後、シラジェさんは自分からリーンスタさんに謝りたいと言い出してくれた。誤解だったから、と。なので、出勤前にリーンスタさんと共に家に戻り、その機会を設けることにしたのだ。俺たちがいつ出発するかわからないし、こういうのは早いほうがいい。
話を聞いたリーンスタさんはそれを快諾してくれた。そしてみんなが揃って謝罪をするのを笑顔で受け止めてくれた。そして、これからもよろしく、といった言葉が交わされる。気まずいままで終わらないでよかった。
みんなに俺の過去や本来の名を隠しているという後ろめたさから解放されて、俺は予想よりも軽くなった気持ちで神島へと向かうこととなった。
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