『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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6章 再会と神島

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 次の日、俺はリヒトと会っていた。多忙を極めるものの、帰国した俺に会いたいと時間を捻出してくれたようだった。

「無事の帰国、何よりです」

「ありがとう。
 リヒトは少し顔色が悪いようだけれど、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。
 今は少々忙しいので……」

「そんな中で会いに来てくれてありがとう」

「いいえ。 
 私があなたに会いたかったのですから」

 い、今のセリフ、甘くないか……? と、今日はリヒトに伝えたいことがあったんだった。改めて、俺はリヒトに母上と兄上を天に送り出したことを話した。それも母上の一族のやり方にのっとって。そして、兄上が渡してくれた懐中時計にしまわれていた遺髪の話も。

「そうですか……。
 スラン皇子は、愛されていたのですね、リゼッタ妃に……」

 おそらく俺に聞かそうとしたのではないであろう小さな声。でも、その声にはどこか安堵のような色がにじんでいた。

「それに、お二人が天に送り出されたのなら、よかった。
 ようやくリゼッタ妃の望む形で弔うことができたのだと思うと、心の荷が下りた心地がします」

「ありがとう、リヒト。
 そこまで兄上に、母上に心を寄せてくれて」

「いいえ。
 私が望んでしていることです。
 ……でも。
 でも、もう一歩踏み出さなければと、あなたを見て思いました」

「俺……?」

「ええ。 
 スラン皇子のことも、リゼッタ妃のことも私は一生忘れません。
 ですが、その思い出と後悔を抱いたまま、もう未来を見ようと、そう思います」

 未来を見る。それは今を生きている俺たちにしかできないことだ。きっと2人もそれを望んでいるだろうと、強くそう思う。

「ああ。
 これからもよろしくな、リヒト」

「ええ、いつまでも」

 リヒトの言葉は力強かった。いつか、母上や兄上の話をしていた時とは違うその表情に、言葉通りリヒトは未来に踏み出したのだと、そう感じた。

------------------------

 その日の夜、俺は陛下の部屋を訪れていた。部屋に入るとくつろいだ様子の陛下と酒瓶がおかれていた。

「あれ、カンペテルシア殿はいないのですか?」

「ああ。
 あとで来てもらうよ。
 まずはスーベルハーニ、あなたと2人で話しておきたいことがある」

「2人で?」

 何の話だろうか、そう思っていたら、俺の今後のことについて、と話した。ああ、そうだ。神島に行く前に言われていたことだ。それを聞くのに、こういう場を作ってくれたのか。

「決めたか?」

「……はい。
 この旅の中で、決めることができました」

「聞かせてもらっても?」

 こくりとしっかりうなずいた後、俺は決めていたことを口にした。

「わかった、その意思を尊重しよう。
 ありがとう、スーベルハーニ」

「いいえ」

 俺が出した答えを受け入れてもらえたことにほっとする。そのあと陛下は空気を切り替えるように酒を勧めてきた。そのころにカンペテルシア殿が到着する。そして俺は旅の話を、2人からは皇国の話をしてそれぞれの情報を交換していった。

 俺が旅立った後の皇国は順調だったようだ。確かに戻ってきたときの復興具合は目を見張るものがあったし、ほとんど障害なく暮らせているようだ。中途半端においてきてしまったから気になっていたが、順調で何よりだ。

 そして、今まで教会を忌避してきた人たちも例の一件を経て、歓迎の様子を見せているらしい。そのうえで、この国でも目撃された精霊。人々は涙さえ浮かべて喜んだ、と

「そうだ、お2人に紹介したいことが」

 ついつい後回しになってしまったが今のうちに、と声をかけると2人は不思議そうな顔をする。そうだよな、心当たりはないだろう。

「クリエッタ」

『うん』

 俺の呼びかけに応じてクリエッタがすぐそばにやってきた。

「今、なんて?
 それにこれは……精霊か?」

「はい。
 俺と契約した、もともと母上と契約していた精霊です」

「リゼッタ妃と……」

 クリエッタは俺の肩に止まると、2人のほうを見る。まあ、2人には光にしか見えていないだろうけれど。

「精霊と契約できるものなのか?」

「母上の一族のみが。
 ほかのものにはできないようです」

「そ、そうなのか。
 リゼッタ妃はそのような生まれだったのだな……。
 改めてスーベルハーニの精霊殿、よろしく頼む」

 素直な陛下の言葉に、クリエッタは数回瞬くことで返事をしていた。どのみち言葉は交わせないから、こうやってコミュニケーションをとるしかないのだろう。カンペテルシア殿に同じように挨拶をすると、瞬きを返していた。何とか挨拶が終わったようだった。

「そういえば、オースラン王国から商人は来ましたか?」

「ん?
 いや、近日到着する予定ではあるがまだだ」

 よかった、間に合ったようだ。

「おそらくやってくる商人は俺の知り合いなのです。
 一応紹介状は書いたのですが、その前に戻ってこれたようですね」

「スーベルハーニの知り合い?」

「以前話したことがあるサーグリア商会の人たちです」

「ああ、もしかして……。
 それならば安心できるな」

 そうして3人でお酒も飲みながら談笑しているとすぐに夜が更けていく。明日にはリキートたちのもとへ行くこともあり、その日は早めに解散となった。

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