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2章 学園生活
80話 王妃のお茶会(7)
しおりを挟む「ふふっ、そんなに警戒することはないでしょう?
少しお話させてください」
そういうと前に出ていてくれた人たちをすり抜けてあっさり私たちに近づいてきた。
「まさかね、王都に来てみたら2人が公爵家に行っているとは思わなかったわ。
本当に驚いたのよ?」
言葉はあくまでも穏やかに、それでも目には憎しみがこもっているように見える。その温度差に思わず後ずさってしまった。
「そうそう、アゼリア様。
ご結婚おめでとうございます。
どうか殿下と仲良くね」
「あ、ありがとうございます」
絞り出すような声でお姉様がそう答える。それにしてもお姉様はここまでこの人を恐れていただろうか。ふと、そんな疑問が思い浮かぶ。多分そんなことはなかったはずだ。
「ウェルカ様も、ご入学おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ならば、と。私は精いっぱいの笑顔でそう返す。ここで、また家で学んだことが役に立つとはわからないものだ。
「来年にはアンティーナも入学しますから、よろしくお願いしますね」
そこでふと声をより低くしてこちらに近づいてくる。
「この前は運がよかったようね。
まさか別の少女を刺してくるなんて思わなかったわ。
せいぜい気を付けることね」
運がよかった? 別の少女を刺したって……。まさかと目を見開くと、その人は楽しそうに笑っていた。つまり、あの日刺傷事件が起きたのは偶然ではないと、この人が仕組んだことだとそう言っている?
「来年、無事に過ごせるとは思わないことね」
そう告げるのは今までずっと黙っていたアンティーナ。夫人とは違い、感情が簡単に顔に出ているから、その心のうちを察するのは簡単だ。どうしてここまで憎まれるというのだろうか。私たちを虐げていたのはそちらで、こちらはいじめられていたほうだ。逆恨みのようなそれは、理由がわからないからこそ恐ろしい。
「申し訳ありません、お引き取りいただけませんか?」
ついに見かねた王妃様の一言に衛兵が動き出す。その人たちがこちらにつく前に、夫人はそうですね、と返した。
「次回もぜひ、誘ってくださいね。
夜会でお会いできるのを楽しみにしておりますわ」
にこりと笑うと2人はそのまま去っていった。
姿が見えなくなったとたん、場の空気が一気に緩むのを感じる。やっと終わったのだ。安堵から力が抜けそうになると、セイットが支えてくれた。
「もしかして今の人たちは……」
「はい。
公爵家に来る前の家族だった人たちです」
「ウェルカ、休憩室で休んできたらどうですか?
アゼリアも」
「はい、ありがとうございます」
このままここにいては迷惑だろうと、ありがたく王妃様の申し出を受けるとすぐに案内をしてくれた。
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