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2章 学園生活
125話 城めぐり(1)
しおりを挟む「殿下、お稽古の時間までですよ」
アーサベルス殿下についている従者の一人が困ったようにそう告げると、わかっている、と一つうなずく。
「あの、お忙しいなら帰りますよ?
もともと私が招かれていたのは昼食会なのですから」
もしかして、お忙しいのに気を使わせてしまったか、そう思ってとっさに言うといいえ、とすぐにランフェル殿下によって否定された。
「お誘いしたのは私ですから、気になさらないでください」
「ありがとうございます」
ランフェル殿下の言葉にほっと息をつく。迷惑でなければいいよね。
「ランフェル殿下、そろそろまいりましょうか?」
全員がお茶を飲み終わったタイミングで一人が声をかけると、みんなで城を回るために席を立った。
「お城の中は大きく分けて居住区と執務区があります。
居住区は許可されたもの以外はお入れできないので、本日ご案内するのは難しかもしれません」
「そうだな……。
我々と一緒だったらいいのではないか?
そうだな、庭を案内するといい」
「まあ、それは素敵な案ですね」
歩きながら交わされる会話で、どんどんと予定が決まっていく。私はもちろんついていくことしかできない。でもお庭は正直気になるかも。
「はじめは執務区を回りましょう」
どうやら回る順番は決まったようで、ランフェル殿下はそう私に話しかけた。もちろん異論はない。
「でも、執務区に行ってお邪魔ではありませんか?」
さすがにお仕事の邪魔をするのは嫌だな、と口にするとすぐに見学だけならば大丈夫、と返事が来る。そういうものなのかもしれない。
たまに人とすれ違いながらも廊下を進んでいく。すれ違うたびに人が足を止めて頭を下げているのを見て、この2人は本当に王族なのだなと感じる。それにしても視線が痛いです……。
昼食会の会場から執務区はあまり遠くはなかったようで、すぐに一つ目の扉に入っていった。
「こちらは庶務部です」
入ると見えたのは大量に積みあがった書類。人々は書類に埋もれて必死に仕事をこなしているようにみえる。
「おや、これは珍しいお客様ですね。
ごきげんよう、アーサベルス殿下、ランフェル殿下。
それと……?」
ポカーン、とみていると優し気な声が聞こえてくる。そちらを見ると、一番奥の机に座っている男性が顔を上げてこちらを見ていた。
「ごきげんよう、バラッセル。
今、ウェルカに城を案内しているのです」
「お初にお目にかかります。
ウェルカ・ゼリベ・チェルビースと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。
部長をしているラツェーリク・ティー・バラッセルと申します」
挨拶はうまくいったかな。あまり大人の方に挨拶をすることはないから緊張してしまった。
「それにしても皆忙しそうだな」
「ええ、今はいくら時間があっても足りないくらいです」
困ったようにバラッセル様は言っているけれど、顔色が悪い。この時期って何かあるのかな。
「お邪魔しました」
これは早々にお暇したほうがいい、そう思っているとランフェル殿下が先に声をかけてくれていた。
そうして順番にいろんな部を回っていくと、どこも忙しそうだった。今は報告期が近いそうだ。これはタイミングが悪かった。
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