姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio

文字の大きさ
125 / 193
2章 学園生活

125話 城めぐり(1)

しおりを挟む


「殿下、お稽古の時間までですよ」

 アーサベルス殿下についている従者の一人が困ったようにそう告げると、わかっている、と一つうなずく。

「あの、お忙しいなら帰りますよ?
 もともと私が招かれていたのは昼食会なのですから」

 もしかして、お忙しいのに気を使わせてしまったか、そう思ってとっさに言うといいえ、とすぐにランフェル殿下によって否定された。

「お誘いしたのは私ですから、気になさらないでください」

「ありがとうございます」

 ランフェル殿下の言葉にほっと息をつく。迷惑でなければいいよね。

「ランフェル殿下、そろそろまいりましょうか?」

 全員がお茶を飲み終わったタイミングで一人が声をかけると、みんなで城を回るために席を立った。


「お城の中は大きく分けて居住区と執務区があります。
 居住区は許可されたもの以外はお入れできないので、本日ご案内するのは難しかもしれません」

「そうだな……。
 我々と一緒だったらいいのではないか?
 そうだな、庭を案内するといい」

「まあ、それは素敵な案ですね」

 歩きながら交わされる会話で、どんどんと予定が決まっていく。私はもちろんついていくことしかできない。でもお庭は正直気になるかも。

「はじめは執務区を回りましょう」

 どうやら回る順番は決まったようで、ランフェル殿下はそう私に話しかけた。もちろん異論はない。

「でも、執務区に行ってお邪魔ではありませんか?」

さすがにお仕事の邪魔をするのは嫌だな、と口にするとすぐに見学だけならば大丈夫、と返事が来る。そういうものなのかもしれない。

 たまに人とすれ違いながらも廊下を進んでいく。すれ違うたびに人が足を止めて頭を下げているのを見て、この2人は本当に王族なのだなと感じる。それにしても視線が痛いです……。
昼食会の会場から執務区はあまり遠くはなかったようで、すぐに一つ目の扉に入っていった。

「こちらは庶務部です」

 入ると見えたのは大量に積みあがった書類。人々は書類に埋もれて必死に仕事をこなしているようにみえる。

「おや、これは珍しいお客様ですね。
 ごきげんよう、アーサベルス殿下、ランフェル殿下。
 それと……?」

 ポカーン、とみていると優し気な声が聞こえてくる。そちらを見ると、一番奥の机に座っている男性が顔を上げてこちらを見ていた。

「ごきげんよう、バラッセル。
 今、ウェルカに城を案内しているのです」

「お初にお目にかかります。
 ウェルカ・ゼリベ・チェルビースと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。
 部長をしているラツェーリク・ティー・バラッセルと申します」

 挨拶はうまくいったかな。あまり大人の方に挨拶をすることはないから緊張してしまった。

「それにしても皆忙しそうだな」

「ええ、今はいくら時間があっても足りないくらいです」

 困ったようにバラッセル様は言っているけれど、顔色が悪い。この時期って何かあるのかな。

「お邪魔しました」

 これは早々にお暇したほうがいい、そう思っているとランフェル殿下が先に声をかけてくれていた。

 そうして順番にいろんな部を回っていくと、どこも忙しそうだった。今は報告期が近いそうだ。これはタイミングが悪かった。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
【書籍化決定】 フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます! ※書籍化決定しております! 皆様に温かく見守っていただいたおかげです。ありがとうございます(*・ω・)*_ _)ペコリ 詳細は追々ご報告いたします。 アルファさんでは書籍情報解禁のち発売となった際にはサイトの規定でいずれ作品取り下げとなりますが、 今作の初投稿はアルファさんでその時にたくさん応援いただいたため、もう少し時間ありますので皆様に読んでいただけたらと第二部更新いたします。 第二部に合わせて、『これからの私たち』以降修正しております。 転生関係の謎にも触れてますので、ぜひぜひ更新の際はお付き合いいただけたら幸いです。 2025.9.9追記

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

処理中です...