13 / 25
13
しおりを挟む
花冠をもらった日から数日。またもやカイ兄様が訪ねてきた。
「こんにちは、リステリア嬢、リテマリア嬢。
今日は君たちにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント、ですか?」
にこにこと笑うカイ兄様に首をかしげる。兄様の方を見ても穏やかに笑っているだけだから、きっともらってもいいものだろう。
「なんですか?」
「ふふふ、ちょっと待ってね」
そう言うと、カバンから何かの小包を取り出す。可愛らしい梱包がされたそれを私とリテマリアの前に置く。
「どうぞ、開けてみて」
ちらりとリテマリアの方を見ると、興味津々の様子。視線が合うと、お互いに小さくうなずいて、包みに手をかけた。
「これって……」
「眼鏡、って言うんだ。
かけてみて」
中身はまさかの眼鏡。かけてみて、という言葉の通りに眼鏡をかけてみる。度は入っていないようで、正直かけたからと言って違いはない。まあ、なんだか賢くなった気がするけれど。どうしてこれを急にくれたのだろう?
「ああ、すごいな。
さすがハワーボード家の手技だな」
「だろう。
うん、我が家の職人が満足しただけある」
一体何のことだろう。わからないでいると、見てみて、と手鏡が差し出される。それを見て納得した。確かにこれはすごいかも。
「めが……」
「すごい」
おそらくレンズに何か特殊な加工がされているのだろう。私の目もリテマリアの目も父様や兄様と同じ蒼色になっている。それにフレーム自体も洗練されていて、私にもリテマリアにもよく似合っている。そうか、だからリステリアは眼鏡をかけていたし、こんな特殊な瞳をしていなかったのだ。
それにしてもハワーボード家っていったい何者? そう言えば、カイ兄様は将来教職に就くからあまり実家の職については良く知らないんだった。
「これで家の外のものとも会えるようになるな」
ほっとしたような兄様の言葉に瞬きを返す。え、そうだったの。確かに私たちがここに来てから家の外の人と会ったのはカイ兄様のみ。特に不便はなかったから気にしていなかったけど、これって結構不思議な話だった、とか? うん、よくわかりません。
「あのね、リステリア、リテマリア。
君たちの瞳はとってもきれいだ。
でも、その瞳は見るものによっては厄介ごとを引き起こしてしまう。
僕も父様も、君たちには平穏に過ごしてもらいたい。
だから、外の人と会うときはその眼鏡をつけてもらえないか?」
どこか祈るかのように真剣な兄様の目がこちらを向く。その空気に飲まれるように、私もリテマリアもうなずいた。その途端、兄様の目元が和らぐ。そしていい子、と頭を撫でてくれた。
「カイにいさま、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。
この後予備も作らせるから、遠慮せず使ってね」
「はい!」
「まいにち、かけます」
「ああ、本当にいい子たちだね。
本当、僕の家の子にならない?」
「おい、カイフェーズ」
「冗談だって。
そんなに怖い顔しないでよ」
「全く、油断できない」
カイ兄様と兄様は本当に仲良しよね。気が置けない仲って感じ。うらやましい。私とリテマリアは何と言うか、一心同体? 親友とは根本から違う。あまりにもまぶしそうに兄様たちを見ていたからだろうか。やり取りをやめた兄様たちがどうした、と聞いてくる。
「ともだち、いいなって」
私の言葉にピタリと兄様たちの動きが止まる。え、まずいこと言ってしまいました?
「だ、大丈夫だよ。
初等教育学校に通い始めたら、2人にも友達ができるから」
「あ、ああ、そうだよ。
僕たちだって学校で出会ったのだし」
「たのしみに、しています」
微妙な空気になったことを察して、とっさにそう言う。いや、これはそんな思い意味で言ったわけではないのです。でも、友達ができるのは嬉しいかもしれない。リテマリアはもちろん大切な存在だけれど、それとはまた別としてちょっとだけ楽しみ。
「リステリア……、ともだち、ほしいの?」
ワクワクとしていると、隣からそんな声が。え、とリテマリアの方を見ると、目に涙をためている。え、え。今何か泣かせることありましたか?
「リテマリア……」
「リステリアはわたしだけ、いや?」
「え、いや、ではないよ⁉」
うまく口が回らないけれど、そうではない。そうではなくて、せっかくこの世界に生まれたのなら、ちゃんとこの世界を生きてみたい、みたいな。そんな気持ちなだけだ。うるうると瞳を輝かせるリテマリアにぎゅっと抱き着く。昔の私はこんなことすらできなかったけれど、今の私にはできる。本当に体が自由に動かせるって素晴らしい。
「ずっと一緒にいた人が外を向いたら、寂しくなっちゃうよね」
「うん、さびしい」
「大丈夫、まだその時ではないから。
でも、いずれはリステリアも、もちろんリテマリアも、それぞれの個人として行動して、それぞれの人間関係をつくる日がやってくる。
その時はちゃんと受け入れないとね」
「やだ……」
「リテマリア……」
「わたし、リステリアだけでいいもん」
うう、リテマリアがかわいい。でも、そこで私もリテマリアだけでいいとは言ってあげられない。嘘はつきたくないから。それからはリテマリアが落ち着くまで、ずっとリテマリアの頭を撫でていた。
「こんにちは、リステリア嬢、リテマリア嬢。
今日は君たちにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント、ですか?」
にこにこと笑うカイ兄様に首をかしげる。兄様の方を見ても穏やかに笑っているだけだから、きっともらってもいいものだろう。
「なんですか?」
「ふふふ、ちょっと待ってね」
そう言うと、カバンから何かの小包を取り出す。可愛らしい梱包がされたそれを私とリテマリアの前に置く。
「どうぞ、開けてみて」
ちらりとリテマリアの方を見ると、興味津々の様子。視線が合うと、お互いに小さくうなずいて、包みに手をかけた。
「これって……」
「眼鏡、って言うんだ。
かけてみて」
中身はまさかの眼鏡。かけてみて、という言葉の通りに眼鏡をかけてみる。度は入っていないようで、正直かけたからと言って違いはない。まあ、なんだか賢くなった気がするけれど。どうしてこれを急にくれたのだろう?
「ああ、すごいな。
さすがハワーボード家の手技だな」
「だろう。
うん、我が家の職人が満足しただけある」
一体何のことだろう。わからないでいると、見てみて、と手鏡が差し出される。それを見て納得した。確かにこれはすごいかも。
「めが……」
「すごい」
おそらくレンズに何か特殊な加工がされているのだろう。私の目もリテマリアの目も父様や兄様と同じ蒼色になっている。それにフレーム自体も洗練されていて、私にもリテマリアにもよく似合っている。そうか、だからリステリアは眼鏡をかけていたし、こんな特殊な瞳をしていなかったのだ。
それにしてもハワーボード家っていったい何者? そう言えば、カイ兄様は将来教職に就くからあまり実家の職については良く知らないんだった。
「これで家の外のものとも会えるようになるな」
ほっとしたような兄様の言葉に瞬きを返す。え、そうだったの。確かに私たちがここに来てから家の外の人と会ったのはカイ兄様のみ。特に不便はなかったから気にしていなかったけど、これって結構不思議な話だった、とか? うん、よくわかりません。
「あのね、リステリア、リテマリア。
君たちの瞳はとってもきれいだ。
でも、その瞳は見るものによっては厄介ごとを引き起こしてしまう。
僕も父様も、君たちには平穏に過ごしてもらいたい。
だから、外の人と会うときはその眼鏡をつけてもらえないか?」
どこか祈るかのように真剣な兄様の目がこちらを向く。その空気に飲まれるように、私もリテマリアもうなずいた。その途端、兄様の目元が和らぐ。そしていい子、と頭を撫でてくれた。
「カイにいさま、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。
この後予備も作らせるから、遠慮せず使ってね」
「はい!」
「まいにち、かけます」
「ああ、本当にいい子たちだね。
本当、僕の家の子にならない?」
「おい、カイフェーズ」
「冗談だって。
そんなに怖い顔しないでよ」
「全く、油断できない」
カイ兄様と兄様は本当に仲良しよね。気が置けない仲って感じ。うらやましい。私とリテマリアは何と言うか、一心同体? 親友とは根本から違う。あまりにもまぶしそうに兄様たちを見ていたからだろうか。やり取りをやめた兄様たちがどうした、と聞いてくる。
「ともだち、いいなって」
私の言葉にピタリと兄様たちの動きが止まる。え、まずいこと言ってしまいました?
「だ、大丈夫だよ。
初等教育学校に通い始めたら、2人にも友達ができるから」
「あ、ああ、そうだよ。
僕たちだって学校で出会ったのだし」
「たのしみに、しています」
微妙な空気になったことを察して、とっさにそう言う。いや、これはそんな思い意味で言ったわけではないのです。でも、友達ができるのは嬉しいかもしれない。リテマリアはもちろん大切な存在だけれど、それとはまた別としてちょっとだけ楽しみ。
「リステリア……、ともだち、ほしいの?」
ワクワクとしていると、隣からそんな声が。え、とリテマリアの方を見ると、目に涙をためている。え、え。今何か泣かせることありましたか?
「リテマリア……」
「リステリアはわたしだけ、いや?」
「え、いや、ではないよ⁉」
うまく口が回らないけれど、そうではない。そうではなくて、せっかくこの世界に生まれたのなら、ちゃんとこの世界を生きてみたい、みたいな。そんな気持ちなだけだ。うるうると瞳を輝かせるリテマリアにぎゅっと抱き着く。昔の私はこんなことすらできなかったけれど、今の私にはできる。本当に体が自由に動かせるって素晴らしい。
「ずっと一緒にいた人が外を向いたら、寂しくなっちゃうよね」
「うん、さびしい」
「大丈夫、まだその時ではないから。
でも、いずれはリステリアも、もちろんリテマリアも、それぞれの個人として行動して、それぞれの人間関係をつくる日がやってくる。
その時はちゃんと受け入れないとね」
「やだ……」
「リテマリア……」
「わたし、リステリアだけでいいもん」
うう、リテマリアがかわいい。でも、そこで私もリテマリアだけでいいとは言ってあげられない。嘘はつきたくないから。それからはリテマリアが落ち着くまで、ずっとリテマリアの頭を撫でていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる