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父様は私たちのお願いごとに弱い。それはこれまでの時間で十分に知っていた。と言うことは、私たちがとる行動は一つだ。
「父様、お願いがあります」
「買い物を、許可してください」
「買い物……?」
急に父様のもとを訪れたけれど、嫌な顔一つせずに、なんなら嬉しそうな顔をして招いてくれた父様は困惑したように眉根を寄せている。そうですよね。いきなりこんなことを言われても困りますよね。
「兄様の、誕生日をお祝いしたいのです」
「プレゼントを買いに行きたくて」
そこまで言うと、ようやく理由が分かったようだ。ああ、と一つうなずいた。ごめんなさい、理由から話さなくて。とにかくお願いしないと、という気持ちが勝ってしまったのだ。
「そうか、買い物か……」
何か考え込む様子を見せる父様にお願い、と手を合わせてみる。しばらくうなっていた父様だけれど、最終的には許可を出してくれた。さすが父様!
「だが、必ず護衛と共に行動すること。
これが絶対条件だ」
「はい!」
「守ります」
「いい子だ。
それにしても……、そうか誕生日が近かったな。
今年はパーティーを行わないことにしたから、すっかり抜けていた」
ちょっと待って、それは親としてどうなの。それは何とか口に出さずに済んだ。さすがにね……。あれ、ところで私たちの誕生日っていつなんだろう。気にしたことなかったからわからない。
「あの、父様。
私たちの誕生日、いつですか?」
私の言葉に目を丸くする父様。珍しい表情が見れた。
「そうか、伝えていなかったか」
そう言うと、父様は近くにあるカレンダーを手に取った。そう、この世界カレンダーもあるのだ。うん、いや、便利だからいんだけれどね。
「今日がここ。
アシェルタの誕生日はここだ。
そして、君たちの誕生日は……、ここだ」
数枚、カレンダーがめくられる。そして示されたのは少なくとも前世では春と言われていた季節だ。どうやら私たち、学年が変わるぎりぎりの月生まれらしい。もう少しある。なぜ父様が私たちの誕生日を知っているのだろう。一瞬疑問が頭をよぎったけれど、きっと公爵家だからいろんな情報ツールがあるのだろう。
「まだ先、です」
「まだだね」
「身内だけにはなるが、盛大にお祝いする。
楽しみにしていなさい」
「「はい!」」
私たちの前に兄様の誕生日は何をするんだろう。と、その前にプレゼント! あまり時間がないから、すぐに押し花づくりは取り組まないと。カイ兄様は明日も来てくれるって言っていたから、その時に買い物の相談もしよう。
「そうだ、司祭にも来てもらわねばな」
ぽつり、と思わず漏れてしまったように父様の口から聞こえる。司祭……? 司祭って教会のあれだよね? どうしてわざわざ司祭なのだろう。正直教会とか神官って苦手なんだよね。目覚めたときの記憶がね、うん。明らかに教会っぽいところで過ごしていたから。
「司祭、ですか?」
リテマリアはあそこでの暮らしをどれほど覚えているのだろう。気になりはしたけれど、聞いてはいけない気がする。そうしているうちに、リテマリアが父様に司祭について聞いてくれていた。
「うん?
ああ、そうだ。
6歳まで無事に育ったことを祝いに来てくださる。
本来なら教会に自ら足を運ぶべきなのだろうが、まあ、2人はな……。
信頼できる司祭に任せるので、安心なさい」
父様の言葉に少しだけほっとする。家に居られるなら、きっと変なことにはならないだろう。それにして、教会、か。実は教会についてはまだ詳しくは習っていない。今後学ぶとは言っていたけれど。軽く教えてもらったときに知ったのは、この国ではロキウォル教が国教とされているらしい。
ロキウォル教は世界各地に広がっていて、その総本山が名前の通り、ロキウォル神国なんだって。そしてこれまた名前の通り、ロキウォル女神を祀っているらしい。このロキウォル神国が私たちを『聖女』と呼んでいた人たちとどう関りがあるのか、ないのか、それすらも私にはあまりわかっていない。
なので、私的には教会系は全部関わりたくない、けれど。そういうわけにはいかないのよね。
「そうなのですね」
こくり、とリテマリアがうなずく。少し顔色が悪い気がするけれど、気のせい、かな。ひとまずこの話はこれでおしまい! こんなにも私たちのことを大切にしてくれている父様たちが、私たちが嫌がることをするとは思えないもの。
少なくとも、もう私も妹も名前もないお人形のような『聖女』ではない。ちゃんと自分の足で歩いて、自分の意思で言葉を話す、一人の人間だ。そう思っていた時、ぎゅっと、リテマリアが私の手を握ってきた。そうだよね、リテマリアも覚えているよね。大丈夫。その気持ちを込めてリテマリアの手を握り返す。
はぁ、ようやく自分たちの誕生日が判明したというのに、司祭という言葉が衝撃的ですっかり意識がそれちゃった。今はとりあえず兄様の誕生日のことを考えよう。買い物の許可も下りたことだし、初めての外出! そう、楽しいことはこれからたくさんあるもの。
「父様、お願いがあります」
「買い物を、許可してください」
「買い物……?」
急に父様のもとを訪れたけれど、嫌な顔一つせずに、なんなら嬉しそうな顔をして招いてくれた父様は困惑したように眉根を寄せている。そうですよね。いきなりこんなことを言われても困りますよね。
「兄様の、誕生日をお祝いしたいのです」
「プレゼントを買いに行きたくて」
そこまで言うと、ようやく理由が分かったようだ。ああ、と一つうなずいた。ごめんなさい、理由から話さなくて。とにかくお願いしないと、という気持ちが勝ってしまったのだ。
「そうか、買い物か……」
何か考え込む様子を見せる父様にお願い、と手を合わせてみる。しばらくうなっていた父様だけれど、最終的には許可を出してくれた。さすが父様!
「だが、必ず護衛と共に行動すること。
これが絶対条件だ」
「はい!」
「守ります」
「いい子だ。
それにしても……、そうか誕生日が近かったな。
今年はパーティーを行わないことにしたから、すっかり抜けていた」
ちょっと待って、それは親としてどうなの。それは何とか口に出さずに済んだ。さすがにね……。あれ、ところで私たちの誕生日っていつなんだろう。気にしたことなかったからわからない。
「あの、父様。
私たちの誕生日、いつですか?」
私の言葉に目を丸くする父様。珍しい表情が見れた。
「そうか、伝えていなかったか」
そう言うと、父様は近くにあるカレンダーを手に取った。そう、この世界カレンダーもあるのだ。うん、いや、便利だからいんだけれどね。
「今日がここ。
アシェルタの誕生日はここだ。
そして、君たちの誕生日は……、ここだ」
数枚、カレンダーがめくられる。そして示されたのは少なくとも前世では春と言われていた季節だ。どうやら私たち、学年が変わるぎりぎりの月生まれらしい。もう少しある。なぜ父様が私たちの誕生日を知っているのだろう。一瞬疑問が頭をよぎったけれど、きっと公爵家だからいろんな情報ツールがあるのだろう。
「まだ先、です」
「まだだね」
「身内だけにはなるが、盛大にお祝いする。
楽しみにしていなさい」
「「はい!」」
私たちの前に兄様の誕生日は何をするんだろう。と、その前にプレゼント! あまり時間がないから、すぐに押し花づくりは取り組まないと。カイ兄様は明日も来てくれるって言っていたから、その時に買い物の相談もしよう。
「そうだ、司祭にも来てもらわねばな」
ぽつり、と思わず漏れてしまったように父様の口から聞こえる。司祭……? 司祭って教会のあれだよね? どうしてわざわざ司祭なのだろう。正直教会とか神官って苦手なんだよね。目覚めたときの記憶がね、うん。明らかに教会っぽいところで過ごしていたから。
「司祭、ですか?」
リテマリアはあそこでの暮らしをどれほど覚えているのだろう。気になりはしたけれど、聞いてはいけない気がする。そうしているうちに、リテマリアが父様に司祭について聞いてくれていた。
「うん?
ああ、そうだ。
6歳まで無事に育ったことを祝いに来てくださる。
本来なら教会に自ら足を運ぶべきなのだろうが、まあ、2人はな……。
信頼できる司祭に任せるので、安心なさい」
父様の言葉に少しだけほっとする。家に居られるなら、きっと変なことにはならないだろう。それにして、教会、か。実は教会についてはまだ詳しくは習っていない。今後学ぶとは言っていたけれど。軽く教えてもらったときに知ったのは、この国ではロキウォル教が国教とされているらしい。
ロキウォル教は世界各地に広がっていて、その総本山が名前の通り、ロキウォル神国なんだって。そしてこれまた名前の通り、ロキウォル女神を祀っているらしい。このロキウォル神国が私たちを『聖女』と呼んでいた人たちとどう関りがあるのか、ないのか、それすらも私にはあまりわかっていない。
なので、私的には教会系は全部関わりたくない、けれど。そういうわけにはいかないのよね。
「そうなのですね」
こくり、とリテマリアがうなずく。少し顔色が悪い気がするけれど、気のせい、かな。ひとまずこの話はこれでおしまい! こんなにも私たちのことを大切にしてくれている父様たちが、私たちが嫌がることをするとは思えないもの。
少なくとも、もう私も妹も名前もないお人形のような『聖女』ではない。ちゃんと自分の足で歩いて、自分の意思で言葉を話す、一人の人間だ。そう思っていた時、ぎゅっと、リテマリアが私の手を握ってきた。そうだよね、リテマリアも覚えているよね。大丈夫。その気持ちを込めてリテマリアの手を握り返す。
はぁ、ようやく自分たちの誕生日が判明したというのに、司祭という言葉が衝撃的ですっかり意識がそれちゃった。今はとりあえず兄様の誕生日のことを考えよう。買い物の許可も下りたことだし、初めての外出! そう、楽しいことはこれからたくさんあるもの。
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