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「フィーア様、さあ起きてください」
ゆったりとした眠りが、大きな声で遮られる。目を開けると、そこには屋敷のメイドがいた。
「え、あの?」
「今日は花祭りですよ!
さあ、いつも以上にかわいくしましょう」
楽しそうなメイドにぽかん、としているとさあさあ、とせかされてしまう。
「え、この服は?」
「奥様からの贈り物です。
それと飛び切りかわいくして、とも仰せつかっております」
「え、でも」
「奥様のためと思って」
目の前に広げられたのは見たことがないワンピースだった。この一年で身長も伸びた私は、それでもいまだにミリアさんのために用意していたという服を着させてもらっていた。毎年、今年こそは帰ってくるのではないかとついつい買ってしまうの、そうリミーシャさんは話していた。
そんな数あるワンピースだが、私はそのコレクションを見せてもらっていて、この家にあるものはある程度把握している。だから、今回用意されたものがこの家にあったものではないとすぐに気が付いたのだ。
腰部分で切り返しがあるワンピースは、袖と首の部分はレースを編んだような繊細なつくりになっていて、胴体部分は布と同じ色の糸で刺繍がされている。腰部分はリボンが通っていて、きっと後ろ部分で結ぶのだろう。切り返しになっているスカート部分はきっちり目の上とは異なり、レースがたっぷりと使われていて、ふわっと仕上がっている。
メイドさんに着せてもらうと、見た目以上に締め付けがなく着やすい。いつのまにか用意されていた靴も履いて、そのあとは髪を結んでもらいながらメイクをしてもらう。ヘアアクセサリーにはいつものようにお店のものを使ってくれたようだ。
「さあ、できましたよ」
「あ、あの、ありがとうございます」
「いいえ。
どうぞ、楽しんできてくださいね」
「はい!」
準備が整うと、もう皆が待っているという話を聞いて、大急ぎで朝食を食べに行くことになった。
「まあ、とっても似合っているわ!」
「ああ、本当に。
かわいいよ」
「あの、本当にありがとうございます。
こんな素敵な服まで用意していただいて」
「いいや。
普段リミーシャのところで頑張っているようだからね。
それに、少し早いけれど、君が来て1年が経ったお祝いでもあるんだ」
「お祝い、ですか?」
「ああ。
フィーア、この家に来てくれてありがとう」
「そんな、私の方こそ迎えてくれてありがとうございます」
まさか、そんなことを言ってくれるなんて。嬉しくて、つい泣きそうになってしまう。この瞬間は、よかったと思う。今もまだ不安もあるし、迷いもある。でも、でも。あの時家を出なければ、出会えなかった人々、見ることができなかった景色、できなかった経験。たくさんの嬉しいことがあった。私のしたことが間違っていたかどうかなんて、分からない。でも、ありがとうと言ってくれる人がいるなら、その決意をしてよかったと、そう思える。
「もう、フィーアを泣かせないでください。
せっかくのメイクが崩れてしまいます」
「そうだよ、父さん」
「す、すまない」
「いいえ、いいえ」
泣かないようにぐっと我慢して、何とかその言葉だけを伝える。そのあとはいつも通りの朝食が始まった。
--------------------
「これが、花祭りなんですね……」
「ああ」
「ここ数日はずっとそわそわとした雰囲気でしたが、当日はすごいですね」
「はぐれないように手をつないでいよう」
そう言ってラシェットさんが手を差し出してくれる。なんだか子ども扱いされているようで恥ずかしいけれど、確かに迷子になってしまいそうな人込みだったので、その手を握ることにした。
親子が楽し気に肩を寄せ合って歩き、恋人と思われる人たちが手をつないで幸せに歩いている。そこでふと、隣を見る。ラシェットさん……、私と一緒にいていいのかな。一緒に行きたい人、たくさんいると思うのだけれど。
「フィーア?
どうかした?」
「あの、ラシェットさんは私といていいのですか?
ほかの方……女性の方とか一緒ではなくていいのですか?」
これでじゃあ一人で、と言われても少し困るけれど。でも、それ以上にラシェットさんに無理をさせることが嫌だった。私の言葉を聞いた後、一瞬ラシェットさんはきょとんと眼を瞬かせる。
「そんなこと考えていたの?
大丈夫だから、気にしないで」
気にしないで、と言われても。そういえば、あの家に来て以降ラシェットさんの恋人に会ったことがない。もう18歳なはずだし、センタリア商会の嫡男。婚約者がいてもおかしくないと思う。
思わずじっとラシェットさんの顔を見ていると、なんとも言えない表情をして私の頭をなでてきた。これ、ごまかされた?
「ほら、あっちの方に行こう。
パレードがよく見られるよ」
「はい」
別にラシェットさんを責めたいわけではないので、おとなしく手を引かれる方に歩いていく。だが、だんだんとその歩みはゆっくりになっていく。この通り、この景色。どこかで見たことがある。どこかで。
「フィーア?
疲れたかい?」
「いいえ……」
「あ、ほら」
前のほうを確保したから、パレードの先頭がよく見える。その先頭を率いた馬が見えたとたん、どうしてここに見覚えがあったかわかった。
ゆったりとした眠りが、大きな声で遮られる。目を開けると、そこには屋敷のメイドがいた。
「え、あの?」
「今日は花祭りですよ!
さあ、いつも以上にかわいくしましょう」
楽しそうなメイドにぽかん、としているとさあさあ、とせかされてしまう。
「え、この服は?」
「奥様からの贈り物です。
それと飛び切りかわいくして、とも仰せつかっております」
「え、でも」
「奥様のためと思って」
目の前に広げられたのは見たことがないワンピースだった。この一年で身長も伸びた私は、それでもいまだにミリアさんのために用意していたという服を着させてもらっていた。毎年、今年こそは帰ってくるのではないかとついつい買ってしまうの、そうリミーシャさんは話していた。
そんな数あるワンピースだが、私はそのコレクションを見せてもらっていて、この家にあるものはある程度把握している。だから、今回用意されたものがこの家にあったものではないとすぐに気が付いたのだ。
腰部分で切り返しがあるワンピースは、袖と首の部分はレースを編んだような繊細なつくりになっていて、胴体部分は布と同じ色の糸で刺繍がされている。腰部分はリボンが通っていて、きっと後ろ部分で結ぶのだろう。切り返しになっているスカート部分はきっちり目の上とは異なり、レースがたっぷりと使われていて、ふわっと仕上がっている。
メイドさんに着せてもらうと、見た目以上に締め付けがなく着やすい。いつのまにか用意されていた靴も履いて、そのあとは髪を結んでもらいながらメイクをしてもらう。ヘアアクセサリーにはいつものようにお店のものを使ってくれたようだ。
「さあ、できましたよ」
「あ、あの、ありがとうございます」
「いいえ。
どうぞ、楽しんできてくださいね」
「はい!」
準備が整うと、もう皆が待っているという話を聞いて、大急ぎで朝食を食べに行くことになった。
「まあ、とっても似合っているわ!」
「ああ、本当に。
かわいいよ」
「あの、本当にありがとうございます。
こんな素敵な服まで用意していただいて」
「いいや。
普段リミーシャのところで頑張っているようだからね。
それに、少し早いけれど、君が来て1年が経ったお祝いでもあるんだ」
「お祝い、ですか?」
「ああ。
フィーア、この家に来てくれてありがとう」
「そんな、私の方こそ迎えてくれてありがとうございます」
まさか、そんなことを言ってくれるなんて。嬉しくて、つい泣きそうになってしまう。この瞬間は、よかったと思う。今もまだ不安もあるし、迷いもある。でも、でも。あの時家を出なければ、出会えなかった人々、見ることができなかった景色、できなかった経験。たくさんの嬉しいことがあった。私のしたことが間違っていたかどうかなんて、分からない。でも、ありがとうと言ってくれる人がいるなら、その決意をしてよかったと、そう思える。
「もう、フィーアを泣かせないでください。
せっかくのメイクが崩れてしまいます」
「そうだよ、父さん」
「す、すまない」
「いいえ、いいえ」
泣かないようにぐっと我慢して、何とかその言葉だけを伝える。そのあとはいつも通りの朝食が始まった。
--------------------
「これが、花祭りなんですね……」
「ああ」
「ここ数日はずっとそわそわとした雰囲気でしたが、当日はすごいですね」
「はぐれないように手をつないでいよう」
そう言ってラシェットさんが手を差し出してくれる。なんだか子ども扱いされているようで恥ずかしいけれど、確かに迷子になってしまいそうな人込みだったので、その手を握ることにした。
親子が楽し気に肩を寄せ合って歩き、恋人と思われる人たちが手をつないで幸せに歩いている。そこでふと、隣を見る。ラシェットさん……、私と一緒にいていいのかな。一緒に行きたい人、たくさんいると思うのだけれど。
「フィーア?
どうかした?」
「あの、ラシェットさんは私といていいのですか?
ほかの方……女性の方とか一緒ではなくていいのですか?」
これでじゃあ一人で、と言われても少し困るけれど。でも、それ以上にラシェットさんに無理をさせることが嫌だった。私の言葉を聞いた後、一瞬ラシェットさんはきょとんと眼を瞬かせる。
「そんなこと考えていたの?
大丈夫だから、気にしないで」
気にしないで、と言われても。そういえば、あの家に来て以降ラシェットさんの恋人に会ったことがない。もう18歳なはずだし、センタリア商会の嫡男。婚約者がいてもおかしくないと思う。
思わずじっとラシェットさんの顔を見ていると、なんとも言えない表情をして私の頭をなでてきた。これ、ごまかされた?
「ほら、あっちの方に行こう。
パレードがよく見られるよ」
「はい」
別にラシェットさんを責めたいわけではないので、おとなしく手を引かれる方に歩いていく。だが、だんだんとその歩みはゆっくりになっていく。この通り、この景色。どこかで見たことがある。どこかで。
「フィーア?
疲れたかい?」
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「あ、ほら」
前のほうを確保したから、パレードの先頭がよく見える。その先頭を率いた馬が見えたとたん、どうしてここに見覚えがあったかわかった。
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