ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio

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 王城での生活は比較的穏やかだった。王太子妃のための勉強はあるものの、そこまで詰め込まれているわけではない。自由な時間の方が圧倒的に多い。何となく外に行く気にもなれなくて、空いた時間にはよく刺繍をしてしまっている。

 相変わらずユースルイベ殿下はお忙しいようで、部屋は隣だというのに顔を合わせる機会はあまりない。早めに帰ってきたときに、一緒の夕食に誘われるくらい。それにほっとするような、寂しいような。よくわからない感情になる。

 そんなある日、午後は何をしようかな、と悩んでいると、急に部屋に見慣れない侍女が訪ねてきた。その人はアンナだけを部屋の外へと呼び出す。そして部屋に帰ってきたときにはあまり見ない焦った顔をしていた。

「お、お嬢様!
 王妃陛下がお茶をしたいと、そうおっしゃっております」

 その手の盆には確かに手紙が一通。

「王妃様が……?
 え、急に?」

 驚いてそう口にすると、アンナがこくこくとうなずく。信じられない思いで手紙を手に取る。そこには確かに王妃様の紋章で封がされていた。手紙を開けてみると、中には1枚の紙。丁寧な言い回しではあったけれど、内容はシンブルだった。つまり、今からお茶をしませんか、という内容だった。

ユースルイベ殿下から聞く王妃様も、私が幼いころに見た王妃様もあまり良い印象ではない。そんな人から断る間もなくお茶に誘われるのはちょっと怖い。でも、断れるわけもない。

 ひとまずアンナたちに手伝ってもらって大急ぎで部屋着からドレスに着替える。身支度を整えて、お茶に行くための準備を簡易的に終えると、王妃様が待っているというサロンへ向かった。

 誰かほかに『お友達』がいるかも、という警戒は見事に外れた。指定されたサロンに居たのは王妃様おひとり。まあ、正確には御付きの人がいるから一人ではないのだけれど。

「お待たせしてしまい、申し訳ございません。
 本日はご招待いただきありがとうございます」

「まあ、そんなに硬くならないで。 
 急に誘ってしまってごめんなさい。
 ステラがとてもきれいに咲き誇っていたから、一緒にお茶でもどうかと思ったのよ」

 扇に顔の半分以上も隠した状態で、優雅にほほ笑む王妃様。そこに嫌悪の感情は読み取れない。笑ってはいなさそうだけれど、そこからはなんの感情もうかがえない。さすがに社交界の第一線に立ってきた人ではある。

「本当にきれいですね」

 席に着き、王妃様の言葉に同意する。
 この王族専用のサロンでは常に王族それぞれの色のステラが咲き誇っている。そういう意味では、ステラが咲き誇っているから、とお茶に誘うには不思議な理由である。まあ、形式的な誘い文句なのだろう。

でも、久しぶりに見たステラの花壇はとてもきれいだ。王妃様の象徴花である黄色のステラも、ユースルイベ殿下の象徴花である緑色のステラも、水色のステラも。……あれ? 水色? 
現王家の人で水色を象徴花に持つ人はいないはずだ。つまり、これはおそらく私の象徴花。ここに用意されるのにはまだ早いのでは? でも、さすがに目の前の人には聞けない。
 
「あなたにはずっとお礼を言いたいと思っていたの。
 パルシルクのことを救ってくれてありがとう。
 母として、お礼を言うわ」

 予想外の対応に目をぱちぱちと瞬かせてしまう。今、この人は私にお礼を言った? 母親としては十分取りえる行動なのかもしれないけれど、あまりにもこの人の人物像とその行動が合わなくて驚いてしまった。

「い、いえ。
 私は危険が迫っていることをお伝えしたのみです。
 その言葉がなくても殿下には優秀な護衛がついておいででしょう?」

「そういう問題ではないのよ。
 あなたの言葉のおかげで、護衛を増やし、警戒することができた。
 それ自体があの子が生き残る可能性を高めてくれたのよ」

 そういって王妃様がお茶に口をつける。それに倣って私もお茶を飲んでお菓子をつまむ。さすが、おいしい。王城で出されるものはどれもおいしい。伝統を守りながらも新しい様式も積極的に取り入れているから、飽きることはない。

 それにしてもいろいろと予想外。この人は一体どういう人なのかしら。

「王太子の婚約者になったのだから、これから私と顔を合わせることもあるでしょう。
 これから仲良くしてくださいな」

「は、はい」

 仲良くって、そのままの意味でとらえていいもの? わからない、この人が分からない。
 ぎこちない笑顔を浮かべていると、はぁ、と目の前からため息が聞こえた。

「あなた思っていることが顔に出すぎよ。
 ユースルイベから一体何を聞いているのか……。
 初めに伝えておきます。
 少なくとも今の私は、ユースルイベと敵対するつもりも、あなたに何かをするつもりも一切ないわ。
 一人の意見だけを鵜呑みにして何かを決めるのはしてはいけないことよ」

 こちらをまっすぐと見つめて言い切る。その内容が意外過ぎて、私は固まってしまった。え、ユースルイベ殿下と敵対するつもりはない? でも、殿下はあんなにも警戒をしていたのに。いい印象なんて一つも聞いていない。

「ふぅ、ユースルイベにも困ったものね。
 もっと広く視点をもってもらわないと」

 お茶を飲むために閉じていた扇を開いて、口元を隠す。その目には特に憎悪の色は浮かんでいない。むしろ、あきれているような? 

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