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次の日はゆっくりと休んでいいという言葉に甘えて、部屋の中でみんなへの贈り物を仕上げることにした。なかなかの大作になったな、それにしても。
「まあ、とても素敵ですね。
それをフリージア様がつくられたのですか?」
「ええ。
あの家を出てから、本当にお世話になった方たちがいてね。
その人たちに作っているの」
「きっととても喜ばれますよ。
こんなにも精緻な刺繍は見たことがございません」
「そうかな?
喜んでくれたら嬉しいな」
一針ずつ、気持ちを込めて縫う。没頭していると時間が過ぎていくのはあっというまで。途中食事を挟みつつ、集中しているとすぐに夜になってしまった。時間はかかったけれど、なんとか全員分完成してくれた。改めて一つ一つを見返してみると、なんだか感慨深い。
「ねえ、アンナ。
これをセンタリア商会の商会長家族に届けてもらいたいの」
「商会長に、ですか?
もちろん可能だと思います。
お預かりしてよいでしょうか」
「あ、待って。
きれいに梱包してからにする!」
「かしこまりました」
慌てて梱包をすると、アンナに品々を渡す。これで最後。どうか、皆元気でいてほしい。離れても大切な人たち。
――――
さらに次の日、ユースルイベ殿下は約束通り、ナフェルたちと会う場を設定してくれた。絶対に忙しいはずなのに、皆が領地に帰る前にと場を用意してくれたのだ。
ナフェルに会える喜びと、何を言われるのかという恐怖。フェルベルトに案内された部屋に入る前に一度深呼吸する。緊張したまま部屋に入ると、そこには成長したナフェルと久しぶりに会う叔父がいた。
「姉さま……!」
「ナフェル……。
久しぶりね」
思わずと言った様子で駆け寄った弟を抱きしめる。会わなかった間にずいぶんと背が伸びた。婚約式の時は知らない顔をしていたけれど、今目の前にいる弟は変わらずかわいい弟だ。
「ナフェル、落ち着きなさい。
久しぶりだね、フリージア」
「あ、お久しぶりです、オーベルジ叔父様……」
「もっとよく顔を見せて。
ああ、元気そうでよかった。
久方ぶりにシュベルティー家に顔を出して、お前がいなくなったと聞いたときどれだけ驚いたことか」
「申し訳ございません……」
「本当に心配した。
お前の顔をこうして見られて、ようやく安心できたよ」
叔父様も私に近づいて抱きしめてくれる。シュベルティー家の男児がよく使用する香水の匂いが叔父様から香ってきた。懐かしい。
「姉さま、急にいなくなってしまい、本当に心配しました」
「ごめんなさい、ナフェル。
あなた一人をあの家に残してきて」
自分のことで精いっぱいだった。それは私の都合で。両親は弟に甘いと言っても、私に比べてのはなし。センタリア商会の人たちに囲まれてよくわかった。きっとあの温かさを与えてあげられるのは、私だけだったのに。
「嫌です、許しません。
僕、本当に、本当に……。
もう急にいなくならないでください」
「ええ、約束するわ」
まだまだ甘えん坊なのだろう。ぎゅっと抱き着いてくる弟はかわいい。……、どうして叔父様もアンナもそんな顔をしているの? 信じられないものを見た、みたいな。
「フリージア、シュベルティー家に戻る決心をしてくれてありがとう」
こほん、と咳ばらいをした叔父様にそんなことを言われる。その言葉に私は首を振った。むしろ、こうして温かく迎えられていることが異常なのだ。お礼を言うならば私の方なのだから。
「私は、シュベルティー家の娘として、『神の目』のギフトを持つものとして、背負うべき義務をすべて放棄してまいりました。
それは責められるべきことです。
そのようにお礼を言われるなんて、叔父様は甘すぎます」
「はは、そうかな」
実の両親なら、絶対にこういう受け入れ方はしなかっただろう。断言できる。……ルイさんが私のことをギフトを通してしか見ていなくても、私にはセンタリア商会の皆も、弟も、叔父もいる。ルイさんへ抱いた思いは幻想にして、ユースルイベ殿下との関係を割り切って捉えれば、辛い思いをしないでいいのかもしれない。
サラシェルト殿下には求めてしまったから。相手からの愛を。だから苦しんだのだ。そして、裏切られた。なら、初めから求めなければいい。そう、頭ではわかっている。わかっているけれど……。
「フリージア?
ぼーっとしてどうかしたか?」
「いいえ、なんでもありません。
それにしても、驚きました。
あの父に代わり、叔父様が当主になられていたなんて」
「あーー……、それはまあ、な。
僕としても当主になるつもりはなかったから驚いたよ。
とはいえ、僕は繋ぎの当主だけれどね。
ナフェルが継げる年になったらさっさと当主の座を譲って隠居したいよ」
ちらちらと妙にナフェルの方を気にして叔父様がそういう。若干顔色が悪いような気がするのは気のせいでしょうか。
「何をおっしゃっているのですか。
ぜひ長く当主の座にいてください」
「い、いやー、遠慮したいかな……。
結婚だっていつかしたいんだぞ?」
「すればいいじゃないですか」
「簡単に言うなよ……。
後継ぎについて騒動を起こすつもりはないんだ」
「起きませんよ、騒動なんて」
一体さっきからナフェルと叔父様はなんの話をしているのだろう。なんだかナフェルの笑顔がいつもと違う気がするし。そして叔父様はいまだに独身だったのね。ひとまず。
「叔父様ならきっと素敵な方と結婚できますよ」
「フリージア……、その優しさが嬉しいよ」
本心から言ったけれど、あまり本気にはとらえられなかったみたい。まあ、いいのだけれど。ひとまず、ナフェルと叔父様との顔合わせは和やかに終わった。
この場をセッティングしてくれたユースルイベ殿下は最後の方でちらりと顔を出してくれた。ナフェルたちとは知り合いの様だけれど、婚約者としてきちんと挨拶をしに来てくれたようだった。
なんだかナフェルが殿下に私のことをお願いしていたけれど、幼い弟にお願いされる姉ってどうなのかしら?
「まあ、とても素敵ですね。
それをフリージア様がつくられたのですか?」
「ええ。
あの家を出てから、本当にお世話になった方たちがいてね。
その人たちに作っているの」
「きっととても喜ばれますよ。
こんなにも精緻な刺繍は見たことがございません」
「そうかな?
喜んでくれたら嬉しいな」
一針ずつ、気持ちを込めて縫う。没頭していると時間が過ぎていくのはあっというまで。途中食事を挟みつつ、集中しているとすぐに夜になってしまった。時間はかかったけれど、なんとか全員分完成してくれた。改めて一つ一つを見返してみると、なんだか感慨深い。
「ねえ、アンナ。
これをセンタリア商会の商会長家族に届けてもらいたいの」
「商会長に、ですか?
もちろん可能だと思います。
お預かりしてよいでしょうか」
「あ、待って。
きれいに梱包してからにする!」
「かしこまりました」
慌てて梱包をすると、アンナに品々を渡す。これで最後。どうか、皆元気でいてほしい。離れても大切な人たち。
――――
さらに次の日、ユースルイベ殿下は約束通り、ナフェルたちと会う場を設定してくれた。絶対に忙しいはずなのに、皆が領地に帰る前にと場を用意してくれたのだ。
ナフェルに会える喜びと、何を言われるのかという恐怖。フェルベルトに案内された部屋に入る前に一度深呼吸する。緊張したまま部屋に入ると、そこには成長したナフェルと久しぶりに会う叔父がいた。
「姉さま……!」
「ナフェル……。
久しぶりね」
思わずと言った様子で駆け寄った弟を抱きしめる。会わなかった間にずいぶんと背が伸びた。婚約式の時は知らない顔をしていたけれど、今目の前にいる弟は変わらずかわいい弟だ。
「ナフェル、落ち着きなさい。
久しぶりだね、フリージア」
「あ、お久しぶりです、オーベルジ叔父様……」
「もっとよく顔を見せて。
ああ、元気そうでよかった。
久方ぶりにシュベルティー家に顔を出して、お前がいなくなったと聞いたときどれだけ驚いたことか」
「申し訳ございません……」
「本当に心配した。
お前の顔をこうして見られて、ようやく安心できたよ」
叔父様も私に近づいて抱きしめてくれる。シュベルティー家の男児がよく使用する香水の匂いが叔父様から香ってきた。懐かしい。
「姉さま、急にいなくなってしまい、本当に心配しました」
「ごめんなさい、ナフェル。
あなた一人をあの家に残してきて」
自分のことで精いっぱいだった。それは私の都合で。両親は弟に甘いと言っても、私に比べてのはなし。センタリア商会の人たちに囲まれてよくわかった。きっとあの温かさを与えてあげられるのは、私だけだったのに。
「嫌です、許しません。
僕、本当に、本当に……。
もう急にいなくならないでください」
「ええ、約束するわ」
まだまだ甘えん坊なのだろう。ぎゅっと抱き着いてくる弟はかわいい。……、どうして叔父様もアンナもそんな顔をしているの? 信じられないものを見た、みたいな。
「フリージア、シュベルティー家に戻る決心をしてくれてありがとう」
こほん、と咳ばらいをした叔父様にそんなことを言われる。その言葉に私は首を振った。むしろ、こうして温かく迎えられていることが異常なのだ。お礼を言うならば私の方なのだから。
「私は、シュベルティー家の娘として、『神の目』のギフトを持つものとして、背負うべき義務をすべて放棄してまいりました。
それは責められるべきことです。
そのようにお礼を言われるなんて、叔父様は甘すぎます」
「はは、そうかな」
実の両親なら、絶対にこういう受け入れ方はしなかっただろう。断言できる。……ルイさんが私のことをギフトを通してしか見ていなくても、私にはセンタリア商会の皆も、弟も、叔父もいる。ルイさんへ抱いた思いは幻想にして、ユースルイベ殿下との関係を割り切って捉えれば、辛い思いをしないでいいのかもしれない。
サラシェルト殿下には求めてしまったから。相手からの愛を。だから苦しんだのだ。そして、裏切られた。なら、初めから求めなければいい。そう、頭ではわかっている。わかっているけれど……。
「フリージア?
ぼーっとしてどうかしたか?」
「いいえ、なんでもありません。
それにしても、驚きました。
あの父に代わり、叔父様が当主になられていたなんて」
「あーー……、それはまあ、な。
僕としても当主になるつもりはなかったから驚いたよ。
とはいえ、僕は繋ぎの当主だけれどね。
ナフェルが継げる年になったらさっさと当主の座を譲って隠居したいよ」
ちらちらと妙にナフェルの方を気にして叔父様がそういう。若干顔色が悪いような気がするのは気のせいでしょうか。
「何をおっしゃっているのですか。
ぜひ長く当主の座にいてください」
「い、いやー、遠慮したいかな……。
結婚だっていつかしたいんだぞ?」
「すればいいじゃないですか」
「簡単に言うなよ……。
後継ぎについて騒動を起こすつもりはないんだ」
「起きませんよ、騒動なんて」
一体さっきからナフェルと叔父様はなんの話をしているのだろう。なんだかナフェルの笑顔がいつもと違う気がするし。そして叔父様はいまだに独身だったのね。ひとまず。
「叔父様ならきっと素敵な方と結婚できますよ」
「フリージア……、その優しさが嬉しいよ」
本心から言ったけれど、あまり本気にはとらえられなかったみたい。まあ、いいのだけれど。ひとまず、ナフェルと叔父様との顔合わせは和やかに終わった。
この場をセッティングしてくれたユースルイベ殿下は最後の方でちらりと顔を出してくれた。ナフェルたちとは知り合いの様だけれど、婚約者としてきちんと挨拶をしに来てくれたようだった。
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