元平民の侯爵令嬢の奔走

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10. 王立魔法学院への入学

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 とうとう、魔法学院入学の日がやってきた。ハーベルト家は居心地がよくて、ついつい戻ってきた理由を忘れてしまいそうだけれど、そういうわけにもいかない。むしろ、余計に頑張らなくてはいけなくなった。だって、あの悲劇はきっとハーベルト家にも影響を及ぼすから。

 この際、協力に関してミークレウム殿下の同意はおいておこう。あの人だって王太子になりたいはず。そういう意味では私たちの目的は一緒だ。だからまあ、文句は言わないでね……? 覚えていない方も悪いと思うし、うん。

「よく似合っているよ、制服」

「ありがとうございます!」

 みんなの前くるりと一周すると、兄様がそう声をかけてくれる。今日から兄様は上級生。ネクタイの色が青へと変わっている。私のリボンの色は下級生を示す赤。またこの日を迎えると思うと、どうしても緊張してしまう。

 勝負はこの1年。そもそも1学年下のミークレウム殿下は不利なのだ。それに、期限はホライシーン殿下の卒業までときた。それでもどうにか状況をひっくり返さないと。
 今日までに思いつく下準備はやってきた。私自身が目立たないように、でも手助けはできるように。それでも予想外のことというのは起きるものだけれど、何もしないよりもずっといいから。

***
「わ、同じクラスだ!」

「本当だ!
 良かった……」

「最初は2クラスしかないけれど、別になったらって心配だったのよ」

 学院に着くとすでにクラス分けが張り出されていた。私は無事にリューシカ様とマベリア様と同じクラス。2人とはそのあとも無事に交流を続けられて、いろいろなことを話した。その中で私が元々平民だということももちろん伝えた。平民には珍しい金髪から2人は当初かなり驚いていた。その時に所作がきれいだと言われたのは実はとても嬉しかった。そしてそれ以上に嬉しかったのは、そんなのは関係ないと一緒にいてくれたことだった。

 教室に向かう直前、もう一度クラス分けに視線を向ける。同じクラスの欄にミークレウム殿下もあった。

 教室に入るとすでに殿下は来ていて、私が目に入ると睨むようにこちらを見ていた。その隣には殿下の友人であるカンクルール様。その様子は前回と変わりがない。前回と同じことと、違うこと。それぞれが混在していて、それがどんな結末をもたらすのか。ここからが勝負になる。

 初日は入学式と簡単な説明だけで終わり。ご家族との用事があるとのことで2人と別れたあと、私は兄様を待つことにした。上級生も今日ばかりは早く終わるらしい。教室から人がどんどんといなくなっていくなか、真っ先に席を立ちそうな殿下たちは未だ座ったままだった。気にはなるけれど、とくに話す内容もない。そのまま本を開くと、近くに人がやってくる音がした。

 顔を上げるとすぐそばにはミークレウム殿下が立っている。え、何の用?

「んんっ。
 こんにちは、アイリーン嬢」

「こ、こんにちは」

 えっ、本当に何? お茶会のときの態度と違いすぎる。怖いのだけれど。

「その、あなたが平民からハーベルト侯爵家に養子にきたと聞いたのですが、本当ですか?」

「ええ、まあ」

「なら、どうして……。
 どうして、あの時遮音なんて高度な魔法が使えたのです?」

 それを聞くのが目的? 一度習っているから、本当はS級ほど魔力があるから。理由を言おうとすればもちろん言えた。けれど、私が秘宝を使ったことすら疑っているこの人に話して意味はあるかしら? どのみち、今はきっと納得はできないでしょう。

「それを聞いて、何か意味が?
 私はもうお伝えしましたが」

「なっ……!」

「それとも、私の協力を受ける気になりましたか?」

「そっ、な……。
 もういい!
 聞いた僕が馬鹿だった!
 行くぞ、カンクルール」

「ああもう、待ってくださいミークレウム殿下。
 すみません、アイリーン嬢。
 素直じゃないだけなので許してくださいね」

「カンクルール!」

「はいはい」

 そうして騒がしく2人は教室を出ていった。もう、なんなのよ。また仮面がはがれているし。カンクルール様はあんなミークレウム殿下について苦労しそうね。何も悪くないのに、申し訳なさそうに私に謝っていたし。

 ……前回もミークレウム殿下とは同じクラスだった。でも、一度もこうして話したことはない。まさか2年同じ教室にいたのに、短期間でこんな風に知らない一面を見ることがあるなんて。私は本当に、何も見えていなかったのだと思う。

 ミークレウム殿下は、本当はどういう人なんだろう。前回は殿下と真剣に向き合うことはなかった。いや、殿下どころかおそらく全員と。ずっと自分のことを被害者にして、だからあんなことが起きた。起こしてしまった。今度こそは、きっと……。

「すまない。
 待たせたか、アイリーン」

「あ、兄様!
 いいえ、あまり待っていませんよ」

 思考が沈んでいこうとしていた時、息を切った兄様の声が聞こえてきた。そこで思考が途切れた。良かった、きっとこのまま考えていてもいい方向にはいかなかったから。

「じゃあ、帰ろうか。
 きっと母様も父様も首を長くして待っているよ」

「ふふ、きっと豪華な食事を用意してくださっていますね」

「間違えない」

 兄様と軽口をたたきあっていると気持ちが軽くなる。安心できる居場所、帰る場所があることがこんなにも心強い。
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