歪み。歪ませ、元通り。

先々ノアル

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衝動愛情受け止め人

と思ってたのに

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桐原は僕に体を密着させたまま、話し続ける。


「俺…多分おかしいんだよ。誰も理解してくれないし、いや…そういう人がいるのは分かってるけど!…普通のやつに…っ、誰も!ダメだ!ほんと。…クソッ!!」




桐原は僕の顔を見ながら叫んで、しまいには、泣き出した。
桐原は僕の肩に顔を埋める。僕の両腕握っている力が、少し弱まった…だけど動けなかった。



「…っ俺。最低だ。最低のくせに…最低になりきれなかった……。」

桐原は消え入りそうな声で、呟いた。
一体なんなんだろう。

 
「…全然。分かんないよ。」


思ったことをそのまま口に出す。
こいつのこれが、演技だとは思えない。
きっと、これはドッキリとかでは無いんだろう。

僕が耐えきれず腰を下ろすと、それと同時に桐原も床にへたり込む。



「…その、分かんないけど……落ち着けって…。いいよ…ビックリしただけだし。別にもう、いいよ。」

さっきの出来事に怒ってないとか、全然そういう訳では無い。
僕はただ面倒になった。
抗うのが、面倒くさくなったんだ。
だから僕は、抵抗するのを辞めた。

もしかしたら、壁に打ち付けられた時点で、どうでもよくなっていたのかもしれない。



桐原はずっと、僕の肩で涙を流している。


今何を聞いても答えそうも無いので、僕はさっき彼の言っていた事を考えてみる事にした。

桐原は、何かに悩んでるのか。
誰にも言えず、理解されず。普通の人に理解されたいって言ってたような。

…あれ、なんでキスしたんだこいつ。

罰ゲームとかならうまく話が合うのに、こいつの真剣な感じから、いっぱいいっぱいになってて…辛くて…って気が、したけど…あれ…ああ……もしかして。






しばらくすると桐原が顔を上げた。
鼻水を啜って、まだ涙を浮かべている。そんな状態でも整った顔立ちの桐原はみすぼらしく見えない。
むしろ綺麗に見えた。




「ほんと…ごめん。俺、実は、…あのさ、お、俺。」

身体を震わせ、しどろもどろに口を動かす桐原の言いたいことは、何となく分かった。

だから、言いずらそうにしている桐原に構わず僕から言った。


「お前って、男が好きなんだろ。…違う?」


優しく、なるべく穏やかな声で言った。一瞬しんどそうな顔をした桐原だったが、そのあと小さく頷いた。


「あぁ、…そうだよ。俺、ゲイなんだ。多分。男しか好きになれない。…もともと、そういう事だと…自覚してた。」

桐原は、僕の目を見てそういった。
僕は静かにそれを聞く。





「……部活でさ、…親友にバレたんだ。…簡単な事だよ。ゲイだって話したんだ。そしたら、好きでも無いし、告白しても無いのに、振られたんだ。そういうのムリって、ちゃんと、い、言われ…たんだ。」



嗚咽混じりに、その後もずっと…ぽつりぽつりと話始めた。


その親友に、そう…言われた後、部活で一部に知られてしまったこと。クラスでも噂されるようになった事。部活を辞めてから、先生に僕への書類を、放課後届けてほしいと言われて来たこと。

そして、僕の事が好き…と言う事。




「え…。いつから…?」



「…見た時からだよ。同じクラスになったばっかの時、俺はさ、あの、言いづらいんだけど。お前の見た目とか、雰囲気が好みだったんだよ。で、お前の事よく見てたんだけど。…全然話したりしないし、なのに別に1人が辛そうな訳じゃ無さそうだったから、近づきずらかった。俺のキャラ的にさ、お前みたいな感じのやつに話しかけたら不自然だったから。ずっと観察して、考えてた。…だからお前が来なくなった時、理由は何となく分かったよ。…もともとだるそうにしてたしな。お前。…それで、その、お前が学校来なくなった二週間後くらいに、お前と先生が話してるところ聞いたんだ。先生は、『君が戻ってくるのを待ってる』なんて優しく言ってたから、返答しずらいだろーなーって聞いてたらお前『もう来る事無いないです。本当にすみません。』って言ったんだ。…覚えてるか。」


「いや、…あんまり…えと、全然。」


「はは、だろーなー。でもそのお前の言い方ってさ、あの優しい先生を傷つけるって、分かってて言ってた。相手本意じゃなくて、自分本意な気持ち、そのまま言ってた。だから驚いた。俺周りばっか見てて、評価ばっかり気にしてたから。本心なんて言ったことなかったんだ。自分の本心を言うなんてそんな事出来るわけないってプライドもあったけど、そんなの…強がりだった。…だから俺も、勇気出して伝えたんだ。友達に。……そんで、……ダメだった。」


「…だから、最低になり切れないって言ってたのか。…他人なんか、どうだっていいって、思いきれなかったって事。…キスして、それで謝ったのは。そういう事なんでしょ。」

「…そう。そういう事。全部わかったか?本当、俺、クズで…笑えないよな。」


クズ。ねぇ…。
僕は、選択肢を選んだことが無い。
選択肢から逃げた事しかない。

こうやって、招かれざる客が来たことも想定外だったけど、迫ってきた問題を受け止めた事も…僕にとっては楽しい想定外だった。

「あのさ、別に。…お前がクズじゃないとは、言わないけど。僕なんかよりは全然…普通だよ。考え方がね。ただいきなりキスすんのは、追い詰められてたからとはいえ、どうかと思うけど。」

僕は泣き疲れている桐原をソファーに座らせる。そして、僕も隣に座る。

「本当に、ごめん。俺自分勝手になりたくて。お前に付け込もうとした。けど…斉藤が、あまりにも抵抗しないから。ほんとに俺。馬鹿なことしたって、冷静になって。」

「……うん。分かるよ。お前本当にわかりやすいね。…あのさ、さっきの話だけど。」

「え、さっきのって?」

「俺のこと好きになってよ。って話。…………別にいいよ。」


桐原が硬直する。
ビックリしてるんだろう。口が開いている。


「…あ、え、…え、だって、話を分かってもらっただけで…許してもらっただけで、夢みたいなのに…そんなの。」


桐原はまた動揺し始めた。
僕は、こいつの行動全部が、普通だと思う。

クズじゃない。
クズなのは僕だ。

そう言っても聞かないだろうから言わないけど。


「お前のことかなり好きだと思う。僕さ、人好きになったの初めて。だからさ、受け止めさせてよ。お前の全部。」


桐原は動揺しながらも抱きつく。僕は抱きしめ返す。

ゆっくり力を込める。
そこから、こいつが今まで感じてきた悲しみなどが染み込んできた。






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