ハルとアキ

花町 シュガー

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体育大会編

5

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「…………え」

「あぁもう。あなた達も会長も、なんでそう外見ばっかりで決めつけるんですかね……」

「かいちょー、も?」

(大事なのは内側なのに)

「今回の件、確かに会長は言い過ぎだと思いました。でも、僕はあなた達にも非があると考えます」

確かに、会長は言い過ぎだ。
でも、それから仕事をしに来なくなったのは副会長たちも悪い。

「なっ、どうしてーー」

「小鳥遊君」

なにか言おうとした会計さんを手で制し、副会長さんが話す。


「君は、こちら側だと思っていましたよ」


「こちら側……?」

「えぇ。だって貴方は会長の秘書なのに、あんなにも露骨に机が離れている。
てっきり、小鳥遊君も横暴な会長に嫌気がさして移動させたのかと」

「そうだよ!小鳥遊君だってかいちょーのこと嫌いなんでしょ~? なんでかいちょー庇うのぉ~~!」

「…かいちょ、嫌いなら、こっち側くる……」

(庇うとか、そんなんじゃなくて)

「僕は、会長には好きも嫌いもありません。庇うなんて気持ちも、会長の味方に付く気も全くない。僕はどちら側にも付きません。中立の立場です。
第三者の目から合わせていただくと、仲間のことを『要らない』と言い張った会長も、それ以降仕事を全部会長に任せて顔を見せないあなた達も、どちらも悪いです」

そう、どちらも悪い。

(コレで、俺はモヤモヤしてたんだ)

一方的に会長を怒ったけど、責任は会長だけじゃなくて副会長たちにもあって。
だから、俺はそれをちゃんと副会長たちにも言いたかったんだ。

「僕は、まだ会長と出会って1ヶ月程しか経っていませんが、会長は不器用な人だと知っています」

「不器用……?」

「外見だけで全てを決めつけてきたから、今まで面と向かって人と向き合って来なかった。だから、あの人は自分のチームにいる人とどう付き合えばいいかわからないんです」

(だから、思ったことをそのまま言ってしまったんだ)

「それを言われた事でその人がどんな気持ちになるかも知らずに言ってしまっている。彼は本当に不器用な人です。
だから、それを副会長たちが正してあげてください」

「ぇ、ただす……?」

「はい。『貴方に言われてこれだけ傷つきました』って。『もっとこう言ってください』って、自分たちの気持ちをそのまま教えてあげてください」

あの人は、謂わばロボットのような人。
人の心がわかってないんだ。だって自分は「できない」とか「要らない」とか、そんな言葉言われたことないだろうから。

(いつも言う側の人だろうから、きっと言われる側の気持ちを知らない。それなら、教えてあげればいい)


「ここで、逃げちゃダメです。ちゃんと面と向かって会長と、向き合ってください。

ーーお願いします」


呆然としてる副会長たちに、ぺこりと頭をさげる。

あぁ、俺なにやってんだろうな。
会長にあんな事されたのに。

でも…どうもあの人を1人にはできなくて……

(それにせっかく秘書として入ったんだから、生徒会の一員として今の壊れてるチームを直したい)

「直ぐにじゃなくていいんです。言われて傷つきましたよね、心が。 少しずつでいいんです。 会長と、向き合ってくださいませんか…?」

「………っ、なんで……」

「?」

「なんで…貴方はそう私たちと向き合うんですか……?」

「そんなの、生徒会の仲間だからでしょう? 」

「…なか、ま……?」

「クスッ、そうですよ。 僕たちはこの部屋で同じように業務をしていく仲間です。だから『効率が悪い』なんて言われたら、ガツンと言い返して効率のいい業務のやり方を教えてもらいましょう」

「ぇ、かいちょーに言い返すのぉ~……?」

「言い返しますよ勿論です!だってあの人だけ効率のいい業務の仕方知ってるなんてズルくないですか?少しでもノウハウ吸収して勝ちたくないですか?」

「か、かいちょーに勝つなんて…」

「…思ったこと、無かった……」

呆然としてる書記さんと会計さんにふふふと笑いかける。


ポソ

「そんなに、この件は簡単ではありませんよ」


「え?」

「貴方は〝小鳥遊〟でしょう?だから会長と対等に話せるんです。
私たちなんて、相手にされる訳ないじゃないですか」

「なっ、そんなことーー」

「それに、貴方は会長の婚約者だ。そんな貴方に何を言われようと、私にはなにも響かない」

「っ!」

(な………)

「会長と向き合う? 自分の思っていることを正直に話す?会長を、正す?
はっ、そんな夢物語のような事できるわけがない。寧ろ、そんな事をしてしまったら私たちの家が消されてしまいますよ」

ビクリ、と書記さんと会計さんの肩が震えた。

「私たちは、素直に会長の言うことを聞いてそれに従うだけですよ。あの方が『業務をしなくていい』と言うなら、そうするまでです」

「……っ」

(く、そ……)

どんなに嫌でも、今の俺はあいつの〝婚約者〟で。
だから龍ヶ崎の息の根がかかってると思われるようだ。

(ここで、婚約者って言葉が邪魔するなんて……っ)


「……はぁ。2人とも、行きますよ」


「ぇ?」 「…どこ、に……?」

「ここでは〝秘書さん〟の仕事の邪魔になるでしょう? もっと別のところで時間を潰しましょう」

素早くティーカップをシンクへ持っていき、「ほら、立って」と2人を急かす。

「ぁ、待ってください!」

(お願い、待って)

「悪いですが、婚約者の貴方に何を言われようが全くなびきません」

「……っ」

(ここまで、なのか…?)

せっかく、副会長たちと会えたのに。
生徒会全体が良い方向へ向かうと思ったのに。

(もうちょっと、もうちょっとだったのに……っ)



ガチャ


「ーー待て」



「…………え?」



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