それは、キラキラ光る宝箱

花町 シュガー

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僕の声

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 投げかけられた質問は、予想の遥か上だった。

 (僕の耳が、聞こえるのならば?)

 そんなこと今まで聞かれたことない。
 でも、目の前の両親はじぃっとその回答を待っている。

 一体どんな意図で…どんな回答を待っているんだろう?
 考えても考えても、当然わかるわけなくて。


 (でも、そうだなぁ)



 もしも、本当にもしも……




 僕の耳が…聞こえるのだとしたら────








 〝僕は、先輩の名前を呼ぶ自分の声が、聞きたいです〟








 スケッチブックに書いた、その文字。


 ご両親は、目を見開いていた。



 僕は、生まれつき耳が聞こえないから当然自分の声なんて聞いたことがない。

 (ねぇ、先輩)

 僕は、どんな声であなたを呼ぶんでしょうか?

 嬉しそうな声?
 楽しそうな声?
 それとも、優しそうな声?
 高いのかな? それとも案外低い声なのかな?



 ──ねぇ、僕は。





 あなたの名前を、ちゃんと発音できていますか?





 どんなに素晴らしい音楽よりも
 どんなに為になる言葉よりも


 僕は、僕の声を聞きたい。


 あなたの声を聞くよりも
 あなたから言われる〝愛してる〟を聞くよりも
 僕からあなたに送ってる〝愛してる〟を自分で聞くよりも


 ひと言でいい


 ──僕は、あなたの名前を呼んでる自分の声が、聞きたいんです。




 〝僕は、耳が聞こえません〟

 先輩には、これからも沢山迷惑をかけると思う。

 〝息子さんの名前すら、満足に呼べてる自信がありません〟

 名前は、その人にとって一生の宝物。
 1番初めに貰う、大切な大切な贈り物なのにね。
 それを呼ぶことが出来てるかすらわからないなんて、本当最悪な恋人。

 〝でも〟

 でも、それでも──


 〝あの人のことを、愛しているんです〟


 先輩のお父さんお母さん、本当にごめんなさい。
 許して欲しいなんて…絶対言いません。

 今は認めてもらえなくていい。
 男同士に理解があるご両親ってだけで、充分幸せだ。

 けど、いつか──


 〝時間はかかるかもしれませんが、努力して先輩に見合う人になってみせます。

 どうか、それまで待っていただけないでしょうか?〟


 座ったままお辞儀をして、 パッと頭を下げる。
 パタリと水滴が落ちて、スケッチブックの文字が滲んだ。

 (……っ、)

 泣くつもりなんて、なかったのに。
 自分が不甲斐なさすぎて涙がどんどん溢れてくる。

「っ、……っ!」

 悔しい。
 僕は、なんでこんななんだろう。

 止めようにも、もう止まらなくなってしまって。


 頭を下げたまま泣き続ける僕を

 両親は、ただただ静かに見つめていた──























 (突然訪ねてきてなんだ一体。
 どうせ聞きたいんだろう?あの後なんの話をしたか。
 あの子に『自分の耳が聞こえるならなにが聞きたい?』と訊いたんだ。そしたら〝お前の名を呼ぶ自分の声〟だと。
 笑えるな。私だったらと考えると、もっと聞きたいものがたくさん浮かんでくるのに…あの子は真っ先にそう紙に書いていたよ)

 (っ、)

 (あの子がもし、名の知れたオーケストラの演奏や名の知れた人の声、もしくはお前からの『愛してる』が聞きたいと答えるのならば、そんなものいくらでもくれてやると突っぱねてやろうかと思ったんだが、違った。
 〝あの人からの愛してるは、心で感じられるから聞こえなくてもいい〟のだと。ただその分自分が返せているかが不安なのだと言っていたさ)

 (……っ! 父さん、私は──)

 (大切にしなさい)

 (ぇ、)

 (あんなに心の澄んだ子はいないだろう。大切にして育て、うちの一族誰一人としてなにも口が出せないようにしなさい。 道は、厳しいぞ)

 (父…さん……)

 (わかったらさっさと私の部屋から出ていけ。
 一人前になるまで帰ってくるな)

 (っ、はい。

 ──行ってまいります)




fin.





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