それは、キラキラ光る宝箱

花町 シュガー

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White Christmas.

2022/12/24(土)

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【2022/12/24(土)】


 2022年 12月24日 クリスマスイブ。

 全国的に大雪が降り、政府も異例の不要不急の外出を避けるよう呼びかけた、歴史上でも珍しい今日という
 10年前から恋焦がれていた この日。

 浬久の記憶は、戻らないままだった。



「終わったー!おつかれ」

「おつかれ、こんな日まで補講しなくてもいいのにな。
 受験生にイベントは無しかー」

「まぁ、しょうがないけど」

 土曜の補講を終え、パラパラ帰ってくクラスメイト。
 今日はクリスマスイブということもあってか、みんな教室を出るのが早い。

「彗眞、俺たちも帰るか」

「あぁ」

 カタリと席を立つのと一緒に、ふと窓の外へ目が行った。

 大粒の雪は降り止むことを知らず今日も全力。おかげで辺り一面真っ白い絨毯のよう。
 校舎も、グラウンドも、街の風景も、全てが白に覆い尽くされ、ただただ粛々とした幻想的な雰囲気を作り上げていて

 まさに


「ホワイトクリスマスってか、すげぇな」


 同じく窓の外を眺めながら、浬久がポツリと呟いた。

 シンシン シンシン
 まるで雪の音が聞こえそうなほど静か。
 こんな中残る奴は流石にいないだろうと誰かが電気を消したせいで、教室は薄暗く 寒くなりはじめていて。

「………」

 ただでさえ通うのが大変なのに、早く帰らないともっとだるいことになる。
 …けど、その景色に足を取られ 立ち尽した。


 ──もし、今日を何事もなく迎えられてたとしたら、どんなだっただろう。


 この景色を見る気持ちも変わっていたのだろうか。
 降っている雪を、もっと暖かく感じられただろうか。

 こんな隙間のある並び方なんかじゃなくて、もっと──

 (浬久は、このあと何するんだろう)

 あの日女子たちが言ってたクリスマス会とやらに参加するのか?
 俺まで話回ってこなかったな、1人で?
 一緒に外見てていいの? 何時から??

 …まぁ、関係ない か。


 2022年 12月24日。
 俺と浬久のクリスマスは、ここで終わる。
 他に誰もいない、まるで取り残されたように静かな、そんな場所で。

 10年培ったものがこんな簡単に無くなるとか、マジ呆気なすぎ。血も涙もない、最後が教室ってのもウケる。
 ほんと、まさかこうなるなんて思ってなかった。
 でも今こうしてふたり綺麗な景色眺めれてんのはいい思い出か?
 俺たちの約束は、秘密は、この白い雪の中永遠に消えるのか。

 真っ白な、なんにもない この 静かな世界へ──


 (嗚呼、なんて)



「……あのさ、浬久」


「ん? なn」



「俺のこと、嫌いになっていいよ」



「え ────」



 それはなんて 滑稽な──






『なぁ彗眞、キスってどんな感じなんだろうな』






「バイバイ、馬鹿野郎」






 立ち尽くすのを横目に、乱暴に鞄をさげ教室を飛び出した。
















「はぁ…は、は……は……っ」

 人でごった返す街の中を走り去っていく。

 やってしまった。
 触れるか触れないかのそれ。
 淡雪のような、本当に微かな体温だけを残していった唇。

 記憶をなくした浬久と上手くやっていくつもりだった、なのに。

 (んなこと、できるわけ…ねぇじゃん……っ)

 そうだ、最初から無理だった。
 全部無くして「初めまして」なんて、俺には無理だったんだ。

 誰になに言われようと
 神様に邪魔をされ、記憶を消されようと
 俺はを捨てれなかった。

 自分の中で10年育てたこの感情を、捨てることなんて……


「──っ、」


 あいつに触れた唇が、熱い。
 ほんの一瞬の出来事だったのに、熱いとか馬鹿みたいだ。

 (どうだよ浬久、初キスの感想は)

 ずっと気になってたんだろ。
 やっとできて満足かよ。

 なぁ…もうそれすら 覚えてねぇの……?


 街のイルミネーションは今日からが本番。
 政府の願いも知らずにどこもかしこも輝いて正に宝石箱。
 大雪と合わさり、かなり煌びやかだ。

 俺らの思い出も、この雪と一緒に消えるんだな。
 あの約束も秘密も全部全部。
 全てが真っ白に溶けて、リセットされて。

 (もし何十年か後に記憶が戻ったら、悲しむだろうか)

 「今日に戻りたい」って後悔する?
 お互い無事女と結婚してて、驚く?

 ……あぁ、それを見るのも ありだなぁ。

「ははっ」と乾いた笑いが出て、目に涙が浮かぶ。

 終わるんだ、もう。
 俺たちの10年間は、こうして。

 薄っぺらくてちんけで阿保みたいな笑い話。
 青春を無駄にして、馬鹿みたいな恋愛ごっこして。
「互いがプレゼント」とか、もう一生言わないだろう。
 でもそれが楽しくて、幸せで、俺たちだけの秘密が嬉しくて嬉しくて

 そんな──


「あっ!」


「っ、すいませ、」


 歩道橋の上。
 前を見ず走っていたせいで、すれ違う人とぶつかる。
 よろけてしまい、慌てて手すりを掴み体勢を整える けど


「ぇ……」


 雪で、ズルッと足元が滑った。



 ガラガラガラガラ!!



「キャー!」

「階段から人が落ちたぞ!」

「誰か!早く救急車!!」


 回る視界、痛む身体とたくさんの悲鳴。
 なんとか目を凝らすと、白い地面を真っ赤な血がどんどん 染め上げていて。


「ぁ……っ、り……」


 寒くて寒くて堪らない中、そのまま 視界がブラックアウトした──




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