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しおりを挟む「ツバメ!良かった…やっと気がついた……」
「エリ…ス……?」
なんだ此処は、消毒液のような匂いが充満している。
(そっか。俺馬から落ちたんだ)
大きなのを貸してもらった分、衝撃で気を失ってたのか。
「ツバメが作った羽織りすごいね!分厚かったから全然体傷ついてないって。良かった!」
成る程、あれのお陰で体もそこまで痛くないのか。
見たところ城内の医務室のようだし、これならこのまま離れまで歩いて帰れそうだ。
(しっかしなぁ……)
こいつはエリス、幼い頃に会ったあいつだ。
そうか、会ったことあるから俺の名前知ってたのか。初めから説明してくれたら良かったのに……
(ってか、俺あの場の雰囲気で確かに「お前と結婚できる」って言ったな)
ほら見ろ母さん。何が年相応の振る舞いだ。
そんなことしたからこんな意味のわからん事態になってんじゃねぇか。
ったく…どうしろってんだ……
「って、は?」
ポタリと頬に落ちてきた雫。
見上げると、鮮やかなピンク色が涙で霞んでいた。
「え、ちょ、なに泣くんだよ」
「間に、合わなかった……」
「? なにに?」
「ツバメが、馬から落ちたとき、僕……っ」
「はぁ?」
間に合う……って
「いやいや無理だろあの距離は!」
お前らの居たとこからどんだけ距離あると思ってんだ?
全力疾走しても俺が落ちる時間の方が遥かに早ぇよ、重力なめんなよ?
大体、それを分かってたから皇帝だって助けに来なかったんだろうし……
「……っ」
チクリと痛む胸。
あいつは合理的な人間だ。無駄なことは一切しない。
(なら、どうして馬小屋を覗いた?)
「声がしたから立ち寄った」なんてそんなの嘘。
きっとこいつが毎日俺のところに通うから、様子を見にきたんだ。
(ははっ、なんだこいつ、馬鹿じゃねぇの?)
皇帝に疑われてんぞ。立場危うくなりすぎ。
あの合理的男の妃になったんならちゃんと身の程弁えないと駄目だろ。
こうなることを分かってたのに、俺もなんで注意できなかった……?
(ーーっ、俺は)
俺は
俺 は
「ねぇ。僕は後どれくらいしたら、ツバメを守れるようになるんだろう」
「……は?」
ポツリと呟かれた言葉。
エリスの顔が、悲しそうに俺を見ていた。
「あの時僕に〝特別〟だって言ってくれてから、ずっとその言葉が僕を守ってくれたんだ」
いじめられても、なんともなかった。
怖くても、上を向いてられた。
「政治のこともちゃんと勉強して、ツバメみたいに賢くなって会いに行こうとしてたのに」
なのに、肝心のツバメはあの皇帝の元に送られた。それも婚約者として。
「だから僕は此処へ来た。ツバメをあんな奴に取られないために。僕がツバメを守れるように。
……でも、全然、守れてないなぁ」
えへへと下手くそに笑いながら、布団に隠れてた俺の手を取る。
「後どれくらい背が伸びたら、僕は馬から落ちるのに間に合った?」
「い、いや、だからそれは無理だって」
「後どれくらい早く政治のこと勉強してたら、ツバメがこの国に来るのを止められた?」
「…それは、その……」
「後どれくらい、頑張ったら」
「っ、」
「僕はツバメに、好きになってもらえる……?」
幼い頃、たった少し時間を共に過ごしただけの間柄。
俺も忘れてたのに、こいつは今でもそれを大切に想ってくれていて。
「お願いツバメっ。
あいつよりも、僕のこと好きになってよ……っ」
祈るように、ぐしゃぐしゃの顔を俺の手に擦り付けてくる。
涙は全然止まらなくて、俺の手も濡れてしまって。
それでも必死に縋ってくるこいつに、チクリとしていた胸がぶわりと暖かくなって。
(……あぁ、俺は)
「ツバメ、ずっと好きだったからお願い。僕を選んでっ」
俺、はーー
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